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地下迷宮、そして初……、

セイムスは意を決して地下へと赴く。そしてジャニスは、自らをセイムスに託すことに。



 足元は補強された滑り止め付きの短めのブーツ、そしてスパッツ。

革製の膝当てには鋲が打たれ、地に打ち付けても膝の負傷を防止してくれるだろう。


簡素な背嚢には最小限の荷物のみ、そして動きを妨げぬように紐で体に固定してある。討伐時に揺れては些細な動きでも命取りになりかねない。

中には携帯糧食、そして水と「非常用呪符」。使わない方が良いに決まっているが、呪符を用いれば即座に迷宮外に転送される。……ただし、使用者の生死に関係なく、だが。


胴と胸部を守る革鎧は、堅く鞣した表面側、次に鉄板を縫い込んだ柔らかな中面、そして裏側に位置し革鎧が動いても肌を傷めることが無いように裏地にフェルト生地を張り付けた底面で構成されている。

それはセイムスの体型を計測し、各部品を切り出し縫い合わせて作られた一点物で、長年愛用してきた逸品である。


頭には額と側面を鉄板で補強した革のハーフメットを被り、視界を確保する為に前面は開放されている。


そして……左腕には革鎧主体の防具から見ると、あまりにも不釣り合いな肘当て付き護手(ガントレット)。掌にも装甲を施し防御のみに重点を置いた作りは、通常ならば騎馬用全身鎧で重厚そのもの。間違っても片腕だけに付けて歩き回る代物ではない。


久々に腕を通したそれは、しかしまるで使い慣れた鍋掴みの如く馴染み、そして軽く感じる。セイムスの為に打ち鍛えられた護手は、一説ではオリハルコン製だと言われているが、まさか自分がこうして素材を得る手助けをするとは……今もって信じられない。



「……しかし、こーやって眺めてると、君が【剣聖】だってハッキリ判るよね……今まで一回も、剣を握っているのを見たことなかったからね」


軽装兵の出で立ちのアラミドが感心したように言うと、少しだけガッカリしたような仕草をするセイムス。


「剣を持たないと価値のない人間なんて、ロクな者じゃないさ……」


「……価値を決めるのは自分自身だ。剣を持つかどうかを選ぶのも……な」


セイムスの言葉尻に合わせた声と共に、どか、とセイムスの直ぐ傍に鉄塊が落下し、そして同時に視界を塞ぐ壁が現れる。

勿論その壁はリューマであり、その身体には考えられる可能性の限界まで増加された鋼鉄の装甲が、要所要所に取り付けられている。


「……オーグの戦さ支度は初めて見るけれど、その武器は……盾なの?それとも護手なのかい?」


セイムスが半ば呆れて言うのも無理はない。リューマの両腕には先端に五本のトゲを取り付けたL字型の鉄板が保持されていたのだが、手を離して床に降ろした拍子に地面に突き刺さった訳で……正に凶器である。だがしかし……、


「これか?見ての通り、()()()




(いや、小手じゃないでしょう……)


(どう見ても小手じゃないよ)


セイムスとアラミドは、鬼人種(オーグ)の常識に付いていけませんでした。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



明くる朝、簡素な朝食を済ませ身仕度を整えてから、迷宮に向かう準備を進めるセイムスと、そんな姿を見守るジャニスが居た。


夜の散歩(と、アラミドは言うべきだと言い張った)を終えてから、ジャニスはセイムスと対峙し、時間をかけて話し合った。そして、短い睡眠時間になりながらも、セイムスとジャニスは心中を打ち明け合った。


「……やっぱり思い直せない?……私だってシムの力になれるつもりなんだけど……」


二人で夜中まで話し合ったジャニスとセイムスは、最終的にいずれ二人で迷宮に行く前提でセイムスを送り出すことにし、渋々ながらジャニスは彼の支度を見守っていた。


「……とりあえず、今日から暫くはアラミドさんと、リューマさんに付き合って貰って……地下に行くさ。慣れるまでは……ね」


愛用していた片手剣を模した新しい剣の刃先を爪に当て、滑らないことを確認し鞘へと戻す。護手と同じ素材で出来ていて、決して素人ではないセイムスと言えど研ぐことは無理だろう。


ジャニスの話を聞いたギルモアが、たったの一日で鍛え上げたものの、仕上げが甘くてゴメンナサイね……、と詫びながら持ってきたそれは、刃先の色が限り無く青に近く、オリハルコン含有度を極限まで引き上げた驚異の一振り……らしい。


防具とオリハルコンの相性は大変良いのだが、刃物の素材として見ると実に面倒な物なのだと言う。


硬くて頑丈、だがそのままでは衝撃に弱く折れ易い。しかし柔らかくてしなやか、だと容易に分断されて切れてしまう。それを何層か組み合わせれば鎧として用いることも可能なのだが、剣として用いる為の苦労は並大抵では済まされない。

硬ければ刃零れしないが研ぎ難く、柔らかければ研ぎ易いが刃零れもし易い。

切れ味を追求すれば硬い刃が一番だが、柔らかさが無いと折れ易く研ぐのも一苦労……と、実に難しいのである。


その相反する兼ね合いを多層構造と異種鍛造を組み合わせて剣に打ち鍛えることを、ギルモアはたったの一日で終わらせて持ち込んできた。


「……セイムス、あんまりジャニスちゃんを泣かせるようなことは……ワタシは応援出来ないわ。でも、あなたのことを全く手放しで送り出すのも……職人として許せないの……だから、ワタシはあなたにこれを贈るわ。ジャニスちゃんに贈った包丁と同じオリハルコン積層鍛造……研ぎ仕上げには竜の鱗を練り合わせた砥石を使った一級品……じゃなくて、()()()()?研がなくても全く切れ味は落ちなくて刃も欠けないわ……まぁ、売ったら確実に損する、鍛冶屋殺しよ?」


それだけ言うとセイムスに剣を預け、ジャニスちゃんに宜しくね♪と言って立ち去ってしまったが、そんなギルモアの仕上げには、不安の欠片も見当たらなかった。なにせ、以前まで使っていた愛剣に何気なく打ち付けてみたら、呆気なく古い剣を両断してしまったのだ……もう後戻りのしようがない。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「さて、それじゃ……行ってくるよ、ジャニス」


「……絶対に無理はしないで……絶対に……必ず……帰ってきて……ね」



今までは一度もしたことはなかった。


それは誰かに強制されていた訳でもなく、ただ二人が偽りの夫婦を演じていただけで、今は人の目を憚ることも無かった。


だが、セイムスはジャニスを大切に思うあまり、そしてジャニスはセイムスへの気持ちに向き合い確かめて来なかった為に、二人は一度もしてこなかった。



しかしだからこそ、セイムスにジャニスが近寄ると、軽く背伸びした瞬間は……セイムスも一切躊躇することなく……彼女を抱き留める。その瞬間、ジャニスの髪の毛がフワリ……と宙へ舞い、それに依り目の前のジャニスが発する原初の感覚を(みなぎら)せる香りのせいで……一瞬頭が痺れて空白になる。そしてその直後……、


 


「……シム……おまじないだから……動かないで……そ、それと……目を開けちゃダメだからね…………判った?」




……セイムスは目を瞑り、静かにその()()()()()を受け入れた。





あぁ、そうですよ!三十話を突破して……やっとこキスしただけだよ!!そんな感じで……ゆーっくりと進みます!!

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