料理がしたい!!
最近すっかりご無沙汰のジャニスさん。暫く彼女が主役です。
料理……、それは人類が類人猿から進化する過程で勝ち取った、偉大な行為。
山火事で焼け死んだ野性動物を喰らい、味の違いに気付いた祖先が行った……とも言われているが、由来の程は定かではない。……しかし、確実に言えることは……料理には上手い下手がある、と言うことだ。
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「あれっ?また黄身が破けちゃった!!」
丸い形になる筈の黄身が破け、びろんびろんと脚が伸びるように不規則な形状に仕上がる?そのシュールな見た目は、目玉焼きとして見たら失敗作だが、
「そう?この形も個性的で悪くないわよ?一期一会って思ったら、偶然の産物とは思えないし」
流石に四つ目ともなると、味付けを変えないと食べ盛りの子供達と言えど、食の進みは目立って落ちる。グラスはそう言いながらもギルモアに断りながら、棚に置いてある調味料へと手を伸ばす。白身は塩だけでは手強いだろう……。
「ねぇ、目玉焼きにこだわらずに卵焼きにしたら?そのほうが綺麗に焼けると思うけど……ねぇ?」
ギルモアの提案も「二人で綺麗に焼けた目玉焼きを並べて朝食を食べたい」と主張するジャニスは受け入れず、結果的にカーボンとナノのおやつが自動生産されることになったのだが……、
「もうむり~!きょうはたまごたべなーい!!」「たべなぁーい♪」
二人がギブアップした所で卵も品切になり、ひとまず終了となった。
「……ギルモアさん……私、何で壊滅的に料理、出来ないのかなぁ……?」
グラスと二人の子供達が帰った後、涙目のジャニスがそう呟くと片付けをしていたギルモアはジャニスの肩をポン、と叩きながら、
「ねぇ……今夜あなたのフィアンセ抜きで、私と付き合わない?」
「……はい?」
……ジャニスはナンパされた。
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「いらっしゃ~い♪……お?ギルたんお久ぁ~!!で、そっちの犬耳ちゃんは初めましてだねぇ~?」
ギルモアに伴われて(途中で洞窟や地下通路を抜けた気がするが)、やって来た店は夜にも関わらず煌々と輝く照明で照らされた店内で、ジャニスは目が眩むかと思ったのだけれど、更に彼女が驚かされたのはその店の店員の姿だった。
ギルモアが工房内で着けていたエプロンに似た前掛け|(の下は下着のような格好だ!)に、見たこともない大きな一対の髪飾り、それより何より目を引くのは若い店員……と思っていた彼女が店長だったことだ。
「いやぁ~んお久ぁ~!!モルたんったらいつ見てもキャワイイんだからぁ~♪」
「……あ、はじめまして……お邪魔します……」
ギルモアのペースに乗り切れないジャニスだったが、目の前に現れた少女(どうしても自分より年下にしか見えない)は気にする様子もなく、手にしたペンを指先でクルクルと器用に回しながら、
「キャワイイねぇ……まぁ、誉め言葉は素直にいただいとくわ!で、注文は決まってるの?いつもの?」
「ん~と、もちろん《ギルたんオリジナル・激辛チキンのロンギヌスケバブ》かなぁ?」
「だよね~?自分で鍛造したオリハルコン製の串持ち込んで【これで焼いてくれなきゃ、ワタシ泣いちゃうからっ!!】って言うのはギルたんだけだもんねぇ~。……そんで、そっちの犬耳ちゃんは?」
気さくに訊ねてくれるのだが、何せジャニスは店のメニューも知らないのだから決めようもなく、ひとまず無難な路線で行くことにした。
「えっと、何か今日のお勧めみたいなの、ありますか……?」
「お勧め?ん~と、【当店オリジナル!夏野菜のラタトゥイユ・しかしベーコンは外せない!!】とかは?」
カウンターに身を乗り出して彼女が勧めてくれたので、ジャニスはとりあえずそれにすることに決め、続けて飲み物を訊ねられるとギルモアが間髪いれずに、
「ワタシはカルーアをストレートでロック!彼女はとりあえずビール辺りでいいかしら?」
「ほいほ~い♪そんじゃ、少しだけ待っててねぇ!あ、おじょ~さん、お名前は?」
突然名前を訊ねられて一瞬身構えてしまうが、身を捩りながら顎にペンを当てた格好の彼女を見ていると、どう考えても自分に害を為そうとする類いの人種には見えない。そもそも前掛けの下が裸に近い格好(だがよく見るとスタイルは自分に匹敵している……)の娘である。心配自体が無意味だろう。
「えと、ジャニス、って言います。ギルモアさんに連れられて初めて来たんで……よろしくお願いします……」
「……ぶっ!?ぷひゃひゃひゃひゃっ!!ギルモアさんッ!?ギルッ!!この娘どこから拾ってきたの!?ウチに欲しいっ!!ウブな犬耳っ娘ってだけで客層限定だけどバッカみたいに押し寄せてくるぞっ!!断言する!!時代は犬耳っ娘だ!!ワタシが今決めたッ!!」
爆笑からのお褒めそしてスカウト……目の前で繰り広げられる一連の流れるような感情的コンボに硬直するジャニスだったが、その最中に手早く差し出されたカルーアストレートロック(必殺技か?)に口を付けながらガルシアは、
「……ん?ああ、モルフィスが言ってること?あんまり気にしなくていーわよ?彼女、あー見えてワタシ達より年上だし、思い付きで喋ってるから……ほら、ビール温くなっちゃうわよ?」
差し出されたジョッキを両手で恭しく持ちながら、いただきます……、と一口付けて……、泡を盛大にぶわぁっ!!と噴き飛ばしてから、
「……と、年上っ!?ちょちょちょちょっと待ってください!!どー見たって私より下にしか見えないんですけどっ!?」
「……えぇ、そうよ?彼女、妖精に近いらしくて……でもまぁ世俗的過ぎる見た目と言動だからねぇ……ちなみに、食べ物屋を何軒か渡り歩いて経営してる凄腕よ?だから連れて来た訳なんだけど、……聞いてる?」
カウンター越しに見えるモルフィスの後ろ姿は、背中丸出しの紐だけ上半身に、脚の付け根まで丸出しの際どい格好で服で覆われている箇所がお尻だけ……同性のジャニスですら赤面しそうな容姿に【……もし、私があんな格好したら、セイムスはどんな顔をするんだろうか……?】と妄想し、更に恥ずかしくなって飲み慣れないビールをチビチビと飲み下すジャニスさんでした。勿論ギルモアの言葉も馬耳東風……。
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「……ってそうじゃない!!ギルモアさん!あのヒト手際良すぎじゃないですか!?何をどーしてたらあーなるんですかっ!?」
立ち上がり興奮しながら指差すジャニスの見る先では、モルフィスが手際よく調理しているのだが、野菜の皮を剥き、刻みながら傍らに置かれた串に鶏肉を刺し、調味料を振ってから赤い液体に漬け込みグリルへと入れ、熱したフライパンにオリーブ油を流し込みその間に吊るされたベーコンをナイフで切り取ると細く切りながらグリルの串を取り出して再度液体を重ね塗りして戻し、フライパンへと野菜とベーコンを投入して軽く煽り、火が少し通って音が変わりかけたら塩胡椒を振って蓋をし、そしてグリルの串をクルリと回して火の当たりを調節……。
二つの異なる料理を同時進行で、おまけにクルリ、と振り向いてジャニスに一言、
「あ、ワタシたぶんジャニスちゃんより、かなり年上のオネーさんだけど気にしなくていーからね?気軽にモルたん……は、気味が悪いけど……まぁ、そんな感じ~♪」
そう告げるとカウンター越しに手を伸ばし、空になっていたジョッキを掴み取ると目の前に小さな小鉢を差し出す。そこには小さく切られた四角い色とりどりの野菜が薄黄色の液体に浸されていて、
「待たせちゃってゴメンね!とりあえず空酒(食抜きでアルコールを飲む事)じゃ無粋だからねぇ……それ、摘まんでて!」
気軽にそう言うモルフィスは、ニッコリ笑うとあともー少しだから!あとギルモア、お酒はセルフサービスで!と言いつけてクルリと踵を返し、調理を再開させるのでした。
さて、続きはどうなるか?物語はやっぱりゆっくりと、進みます。オマケの人物紹介もアップしましたので、ご参考までに。




