生命の樹(ツリーオブライフ)
セイムスは彼なりに、ジャニスも彼女なりに……必死になって生きる為の道を模索します。
「…………ここ、鍛冶屋さんですよね?」
ジャニスはグラス(とカーボンそしてナノ)に導かれ、中央都市の外周部に程近い技工房が軒を連ねる区画へとやって来ていた。
そこは主に【鉱人種】が主役となり、錬成された極稀少金属等を用いた様々な武具やその他の道具を扱う商店街もあり、必要ならば一般人(この都市では少数派だが)も購入することも出来る。
「そーよ?代々この周辺で鍛造製品……つまり、『刃物』を鍛えてきた有名な家系の【鉱人種】が経営者の……鍛冶屋ね」
ジャニスの目の前には当たり前だが、広い間口の工房が見え、周囲には鍛造に必要な炭や結合用の粉末、焼き生しや焼き戻しに用いられる油用の樽や壺があちこちに山積みされていた。勿論貴重な精錬後の地金等はそんな場所に放置はされてなどなく、明らかに失敗作と思える放棄された鉄片位は見当たるのだが、そこがグラスの言っていた「暮らしを豊かにする為に必要なこと」と直結するようには思えなかった。
「えいっ!ぱぱのまね~!!」「ずるーい!ナノがさきにみっけたんだおぉ~!!」
小さな二人が手にした互いの鉄片を打ち鳴らし、ぴょんぴょんと跳び跳ねる様を眺めながら、ジャニスは暫し途方に暮れていた。
「……グラスさん、私に……鍛冶屋になれ、とでも言うんですか……?」
「そんな訳ないでしょ?私がここに来た理由は……あ、居た!」
ジャニスが振り向くとそこには、背の低い彼女よりも更に頭一つ分低い、しかし全身の筋肉は倍近い量の中年位の【鉱人種】が居た。彼は手にした紙袋を工房の中に持ち込み机に置くと、グラスに手を振りながら……、
「あら~?グラたんじゃないの~?ひっさしぶりじゃなぁ~い?お元気だったぁ~ん?」
……髭や編み上げた髪の毛のリボンを振り回しながら、内股で駆け寄りグラスの手を握り上下に振っていた。つまり……、
「……あの、その……も、もしかして……」
「ん?私の古くからのお友達、【鉱人種】きっての料理上手の《ギルモアねえさん》よ?」
「あらやだ!!カワイイ【犬人種】ちゃん!!めっずらしいわねぇ~純血種と稀少種ちゃんが一緒にいるなんてぇ~♪……やっだぁ~カーボン君にナノたんまで!!一気にウチの工房が若返るわねぇ~♪」
…………オネェだった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「ふんふん、成る程ねぇ……愛しのフィアンセに、美味しい料理を振る舞いたくて、ウチまでやって来たって訳……いいじゃなぁ~い?いいじゃなぁ~い!!アタシ、そーゆーの大好物よっ!!モーレツに萌えちゃうんですけど!?」
クネクネと身を捩らせながら(何だか良く使うフレーズだな)、ギルモアねえさんはジャニスの身の上話に耳を傾けながら、何度も頷いては手にしたハンカチを揉みくちゃにしていた。
「まぁ、そうなんですけど……あ、このクッキーすっごく美味しい!!……もしかして……ぎ、ギルモアさんが?」
「もー!!さん付けなんて野暮ったい呼び方しないでッ!!グラたんのお友達は私のお友達!!気軽にギルたんでいーのよ?もう!!」
若干ひき気味のジャニスだったが、毎度のことながら自分の新しい人間関係に加わる濃厚過ぎる人々には、悪い人が一人も居なかったことに気を取り直し、
「え、えぇ……それじゃ……ギルたん、の手作りなんですね?……はむ……っ!!……はぅ……おいし♪」
再度クッキーを口にすると、仄かに香るショウガの風味が甘さを抑えたクッキーの味に絶妙なバランスを与え、奥深い味へと昇華させている。それもあるが、サックリと軽い歯応えでありながら、細かく砕いたナッツ類がそこかしこに感じ取れ、ギルモ……ギルたんの底知れぬ調理に対する拘り……いや、愛情が痛い程感じられるのだった。
「いいわねぇ~♪可愛らしい娘さんが、美味しそーに食べるって、ホント絵になるわぁ~!……それにしても、ジャニたんの腕前って、そんなに……アレなの?」
少しだけ戸惑いながらも、気遣うようにギルたんが訊ねると、ジャニスは仕方なさそうに、
「……あの……グラスさんに、……その、『きっちり教わるまでは調理に関わると死人が出る』レベルだって、言われました……」
と、正直に説明をすると、ギル……たんは、パッと表情を明るくさせながら、
「まぁまぁまぁ!!《人間破壊能力》とか《食べ物の形をした武器職人》とか言われてたグラたんの言葉には思えないわねぇ~ん♪……で、そのグラたんがそこまで言う訳なのね……」
ある意味悲しい位に納得されたジャニスは恥ずかしくなりかけたが、気になるキーワードが頭から離れなくなり、二人の顔を見交わしてしまう。……グラスさんの……黒歴史!?
「……うぅ……それはだって……何と言うかその……病み上がりみたいなもんだったし……社会復帰のリハビリ中だったし……いいでしょ!!昔のことは~!!」
オーバーリアクション気味なグラスと、その正面に座りながらお茶のお代わりを各自のコップに注ぎつつ、昔っていっても、ワタシ達【鉱人種】から見たら、つい最近なんだけどねぇ……、と呟きながら、
「昔ねぇ……アタシ達は【生命の樹】ってクランで一緒にやってたのよねぇ~♪……最初にグラたんと会った時は……たぶん、今のジャニたんよりも幼かったかしらねぇ……?」
そう懐かしむように口にするものの、ギルモアの表情は楽しい思い出を語る……と言う雰囲気ではなく、苦渋に満ちていた。
「……まぁ、訳有って私が抜けてから三ヶ月後に、クランは全滅……グラス以外は全員……死んじゃったわ……」
ギルモアの視線は工房の奥に設置された棚の上に有る、独特の優美なカーブを描く青みがかった刃先の片手斧と、やや小型のカイトシールド|(逆三角形の盾)、そしてクランのモチーフだったのだろう、掌大の樹木を模したブローチへと注がれていた。
たとえ自分が息絶えても……セイムスはジャニスの自由を夢見て。物語はゆっくりと、しかし事態は急転しながら進みます。




