特別編・ジャニスの……料理、そして……
お楽しみ会!!と言う名のボーナストラックです。覚悟して悪ノリに付き合ってください。
「……ねぇ、セイムス……何か食べたいもの、ある?」
新居に越してきて三日目、目立つ様々な家具も何とか手頃な物で揃えたセイムスとジャニスは、やっと落ち着いて腰掛けられ一息ついていた。
「……うん、まぁ……毎日外食だと出費も高くなるし……ん、そう言えば、ジャニス、昼間は何処に居たんだ?」
「わっ、私!?……あ、まぁその……うん、グラスさんのお家だよ!」
何故か慌てるジャニスに若干の疑いを持ちつつも、特に勘繰るようなことも見当たらなかったセイムスは、結局は(まぁ、いいか……)と独りごち、
「そうだったの……で、食べたいものか……特に……い、何だい?」
「………………パンケーキ、食べたくない?」
何となく切り返したセイムスの二の腕をガッチリと掴みながらジャニスは、貫かんばかりの眼力を発しながら、そう呟いた。
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「……ええぇっ!?じ、ジャニスさん……『生まれてから一度も料理したことない』ンデスカッ!?」「ですかぁ~?」「でしゅか~♪」
(……なぜ、片言なの?)
ジャニスの告白に驚嘆するグラス、そして彼女の真似をするカーボンと、その真似をするナノの二人。
四人は当然ながらアラミド家に居て、時間の許す限りの会話(雑談)に華を咲かせていたのだけれど……、その会話の最中に偶然答えた結果が……これだった。
「ま、まぁ確かに言われてみれば……物心ついた頃は(武術の稽古漬けで)手伝いもしたことなかったし……最近までは(物騒な仕事ばかりで)家に付いてくれてた家政婦さんに任せっきりだったし……姉も、たぶんしたことないと思います……」
(……っ!?…………何でしょうか、今一瞬……我が身に及ぶ危機……みたいなものを感じたんですが……(ブルッ……)……はぁ、働き過ぎでしょうか……?)
「……どうしました?ニケ様……何処かお加減が悪いのですか?」
「……いえ、気になさらずに……報告を続けてください……」
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「……パンケーキ、ですか?」
「そう!誰にでも出来て、主食にも副食にもなる優れものよ!」
ジャニスの問いに軽やかに答えるグラス。彼女の右手には指の間に四個の卵、そして左手には小麦粉の入った袋が提げられていた。
ただ、彼女は知らなかった。その物体を……どのようにして……割るのか、を……。
「まずは卵を割りますッ!!……って、何故にジャニスさんは卵の先っぽに包丁を当てているのでしょうか……?」
「……あ、いやそのこれは……先端部を綺麗に切り落とす……のか、と……」
腰だめにした包丁を逆手に持ち、獲物を狩る狩人さながらの鋭い目付きで卵を捉え、今まさに切り伏せんと構えていたジャニスに、一抹の不安を抱えるグラス。……いや、まぁ誰でもそう思うぞ。
「ジャニスちゃん……こうやって、平らな面に一回当ててヒビを入れて……もう一回、コンッ、てするのよ?こう……ね?」
ゆっくりとテーブルに当てた卵が二つに割れ、中から黄身と卵白がボールへと滴り落ちる。
「……こう、かな?(……ぐちゃ!)……で、……こう……?(……ぐちゃ!!)」
テーブルに叩き付けられた卵が殻から零れ落ち、仕方なくテーブルの脇に添えたボールに流し込み……何とか確保したジャニス。中から殻を慎重に摘まみ取り、一安心……でも、ジャニスの手には卵白がこびりつき、辟易としてしまう……。
「……と、とりあえず!それは布巾で拭いてから……料理を続けましょうか!?」
やや硬直しかけたグラスだったが、健気に気を取り直して次のステップへと続けていく。牛乳と小麦粉、そして取り分けた黄身をボールの中で良くかき混ぜていく……のだが、
「……んっ、……んぁ!!……んあん!……ぐ、グラスさん……わ、私……もうダメかもしれないぃ……ッ!!」
何故かホイッパーで混ぜるだけなのに、トロリとした液状の粉をボールから飛び散らかしながら、疑惑を受けかねない卑猥な叫びをあげ……ジャニスは頬や鼻から白濁した混合物を滴らせつつグッタリとしていた……。
「ハイハイ判りましたから……ジャニスちゃん、とりあえず手と顔を洗ってきなさいな?……もう、こんなに跳ねらかせて……いけない子ね……」
仕方なくテーブルに飛び散る液を拭き取るグラス、そしてやや白い灰になりかけているジャニス……。だが、料理はまだ……始まったばかりであった……。
「ねーママ、おねーちゃんのおミミやかみのけまでしろいの……いっぱいついてるよ?」
「……うん、終わったらみんなで綺麗にしたげましょうね?」
(……うぅ、私、大丈夫なんだろうか……?)
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「……さて、ジャニスちゃんが綺麗になったので料理を再開いたします!……で、卵白に細かいお砂糖を少しだけ入れて……混ぜて……ね?」
シャカシャカと軽やかに混ぜることで、次第にフワフワのメレンゲ状態になっていく……のだが……、
「……やっ!?……あん!……ぐ、グラスさぁん!!……なんで?……か、身体に飛び散っちゃうぅ……やん!!」
ホイッパーから飛沫が飛び、ジャニスの胸元や頬に半透明の液体が跳ね飛んでいく……、
「あの……ジャニスさん、とりあえずその辺で構いませんからね?……このままだと様々な理由で……ここから『お引っ越し』しなきゃいけない気がして……」
だが、グラスの心配を他所に、その……やや甘味を含んだ半透明の液体が唇に付き、ジャニスは無意識に舌で舐めとる……唇からチロリ、と艶かしくはみ出したサーモンピンク色の舌がそれを、半開きになった口へと導くと……仄かに感じる甘さ、そして舌に絡まる独特の粘りを伴いながら……彼女の喉の奥へと消えていく……。
「……ん、んんぅ……これ、結構甘いですね?……美味しいかも!!」
指先で胸元の谷間に零れた液体を摘まみ取ると、指の間をキラキラと輝く糸が……つつぅ……、と繋がり、そして……それもジャニスは舐め取ろうとゆっくりと唇を開きながら……
「ハイハイ判りました判りました!続きはまた後でねッ!!」
苛つくグラスに封じられたジャニスは、それ以上の吟味を続けることを断念するのだった……。
……これ、卵白ですから……ね?
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「……で、ホイッパーで混ぜて……ここまで『ツノ』が立つ位になったら……さっきの牛乳と卵黄入りの粉とサックリと混ぜてから……焼き上げます!!」
やや急ぎ足で仕上げに入るグラス(何故かやや苛立ち気味?)が、熱したフライパンへとパンケーキミックスを流し入れる。ややもったりとした白い液体が……ゆっくりと下へと流れ落ち……そして熱くなったフライパンへと……注がれていく……。
意味深長(?)な解説を無視しながら手早く焼き上げていくグラスの手並みは的確且つ敏捷で、
「……あっ、熱いぃ……このフライパン……すごく、熱いです……ひゃんッ!?」
「あー、ハイハイ……ジャニスさんはヤケドしないよーにナノとお皿を準備しててくださーい。カーボンはコップに牛乳注いでおいてー!」
「ママ~、何だかこわいよぅ……いつものママじゃないよ……?」
やや壊れ気味のグラスはキチキチと指示を出し、料理は山場を迎えていくのだった……。
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「……で、それが、コレって訳か……後でグラスさんにお詫びに行こうか?ジャニス……」
セイムスは事の顛末を聞きながら、目の前に置かれた皿の上に鎮座する数枚のパンケーキを眺め、とりあえずナイフを入れてみる。
冷めても暖める方法があるらしく(※①)、切れ目を入れるとホカホカと湯気があがり食欲を呼び起こすような香ばしさが立ち上る。
その直上に載せたバターがつ、つつぅ……と滑り出し、切れ目で止まりながら次第に溶けて染み込んでいく。だが、セイムスは慌てることなく、独特の構造をした蛇腹状のスプーンで器から蜂蜜を取り出し、上へと掛ける。
……で、旨かったので、ジャニスにも一口切り分けて、
「ほら、ジャニスも食べない?ハチミツたっぷりなとこだよ?」
「うん♪……じゃ、いただきますっ!!……はむっ、……ッ!?」
……ジャニスは自らの口を開くと、ゆっくりと近付けられてくる……そのパンケーキ(ハチミツたっぷり♪)を迎え入れる為に……眼を瞑りながら無防備な姿を晒していた。
そこに糸を曳く黄金色の液体にまみれた……白みかかったパンケーキが近付くと、彼女はその味を学習済みだったので、思わず受け口になった唇からやや舌を出し、ヒクヒクと蠢かしておねだりするかのように待ち受けていた。だがそれは、即座にジャニスの口へと差し込まれる。
「っんふぅ!?……ん、んぅ……」
思わず鼻から悩ましげな声を出したジャニスだったが、彼女はその甘く……滑らかな舌触りのハチミツたっぷりなパンケーキの、弾力に満ち溢れた内側までゆっくりと歯を立てて、柔らかなそれを噛み締めて咀嚼していく。
「……んっ、……んっ、……んふ、ん……♪」
噛み締める度に、口の中に広がる香ばしい焼き加減のパンケーキそして、染み込んだバターとハチミツの滋味溢れる味わい……最早、その魅惑的な存在を……ジャニスは拒むことが出来なかった……そう、彼女は既に……知ってしまっていたのだ、パンケーキ自身、そして……その他の甘味を……。
「……ジャニス、ちゃんと良く噛んで食べるんだぞ?早飲み込みは胃に悪いからな?」
「……ん、……(ごっくん♪)……ふぁい!……おいし♪」
……その様子は、まぁ、普通のアツアツ若夫婦にしか見えないんですが、ね。
※①→ここでは油紙にくるんだパンケーキを蒸し器で蒸かして暖めるようです。まぁ、無難ではある。よかったのぅ、セイムス……。
次回から新章になります。乞うご期待ーーッ!!




