踊る麦君
ラーン王国国王は憂いていた。
イライラがおさまらずウォッカを割らずにパカパカ飲んでいる。
最近、水の味が悪いのだ。
氷にしたら味の悪さが際だつ。
だがこのウォッカは美味しい。
確かローレンツ領の名産だったはずだ。
またしてもローレンツ家か!忌々しい。
国王は侍従にウィスキーを持ってこさせた。
産地不明だがこれも美味しい。
味にも色にも濁りがなく芳醇な香りがする。
国王はラベルを眺める。
産地は書いてないが【商標マーク】というものが描かれている。
【麦を手にした小さい生き物が踊っている絵】だ。
表情もポーズもこちらを馬鹿にしたようなふざけた絵柄だ。
ん?この絵はウォッカのラベルにも描かれていたような……
まさかウィスキーも……ローレンツ領産?糞忌々しい。
先日我が国の貴族ローレンツ家が謀反を企てた。
ローレンツ家の者は素直でおとなしく、税金の無茶ぶりにも唯々諾々と従ってきた従順を絵で描いたような貴族だったはずだ。
謀反を企てるとは生意気な!
すぐさま捕らえて生皮を剥ぎ、串刺しにして城門前に晒し者にしようと思っていたのだが、よくわからないうちに逃げられた。
文官を捕まえる程度の任務を失敗するとは近衛は弛んでいる。
私は弛んだ近衛騎士を引き締めるために関わった騎士全員を処刑した。
全員高位貴族の子息で嫡男だった者もいたようだ。
だが仕方ない。
文官の1人や2人取り逃がす方がどうかしている。
私は判断の速さは誰にも引けを取らない。
ローレンツの連中は領地に逃げ帰ったのだろうと思い、捕縛のため迅速に派兵しローレンツ領の全てを王家だけで接収しようと計画したのだ。
旱魃にも耐える豊かな大地。
収量から推察される豊かで広大な麦畑。
それを支える従順な農民ども。
全部欲しい。
全部全部、王家の直轄地にしたい。
あの豊かさがあれば予算がーとか資金がーとか考えなくてよいのだ。
何故か王国派の貴族に計画がばれ、派兵が大掛かりになってしまったのだ。
兵士の数が増えれば接収したローレンツ領の財産を分け与えねばならない。
それが今一番忌々しいのだ。
王家の秘密作戦会議内容を漏らした者がいるのだ。
会議に参加していたのは、
私、息子2人、フェーラー子爵、王国軍参謀長、王国軍南方方面長
この中で怪しいのは南方方面長だ。
奴は長い年月中立派だ。
国の中枢にいながらいまだに王国派を名乗っていない。
計画を漏らした件で処刑しようかな?
方面長を処刑すればどっちつかずの中立派を一気に王国派に取り込めるだろう。
よし。やってしまおう。
そうしてラーン王国の良心フォルトア伯爵は処刑された。
☆☆☆☆☆
現在、広大なフォード&ローレンツ&ヴシュタークダンジョン内を移動しているローレンツ主要メンバー隊は馬車の中で王国の情勢の報告を受けている。
報告をしてるのは1匹のピクシーで「解放軍ピクシー大隊特務部隊長ルンルン」と名乗っている。
馬車の中は全員が皆「解放軍って何?」と思っていても誰も問わない。
ピクシーの習性に詳しい者がこの場に多く、大隊を名乗る程の規模で事を起こしているのを想像すると恐ろしくて聞けないのだ。
近衛の3分の1が処刑された事やフォルトア伯爵が処刑された事を聞いても全員内容が頭の中を滑って行った。
国に対する忠誠心のかけらもないメンバーだがそれよりピクシー大隊の事が頭の中をグルグル回りそっちに思考が向いてしまうのだ。
たとえピクシー1匹でも事を起こせば酷い事になる。
そして、解放軍と名乗る軍隊が南方連合と共同戦線を張っている理由がわからないのだ。
敵の敵は味方程度の感覚だろうと無理矢理納得している。
実際はピクシー全員がローレンツ家に全身全霊で恩を返そうとしているのだが。




