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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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39話 嵐の前の嵐 その1

 空港までは、水戸駅から直通のバスで一時間。十一時着の飛行機に合わせて、十時半に到着。バスターミナルから軽く歩いて、空港内に入る。


 ……こうやって来てしまうから、どんどん増長するんだろうな。ちょっとは厳しく接さないと、どんどんワガママになっていってしまう。


 とはいえ、だ。

 わざわざ北海道から来る妹を、迎えに来ないわけにもいかないだろう。


 エスカレーターで二階に上って、滑走路の見える喫茶店に入る。コーヒーを頼んで、窓際に着席。

 なにやってんだろうなぁ。俺。


 帰宅部の夏休みって、もっとこう、退屈で死にそうな感じじゃなかったっけ。去年はそうだったのにな。家と図書館を往復するだけの、平和な日々。


 ……ま、こういうのも悪くはないか。


 時間つぶしついでに、氷雨にメールを送る。泊まりのイベント、来るかどうか。来る。と返ってくる気がする。

 送信して、コーヒーを飲み干す。見慣れた航空会社の便が、視界の片隅に入ったから。立ち上がって会計を済ませ、店を出る。


 一階に降りて、到着口の近くで待機。

 しばらく待っていると、どっと人が流れてくる。その中に、ぴょんぴょん揺れる黒髪を発見。小さな背を補うように、ジャンプ。人を探しているのだろう。


 髪束を頭の横から垂らしたサイドテールに、大人しげな垂れ目。それを裏切るような、快活な表情。

 俺のことを見つけると、パッと表情を輝かせ、パタパタと手を振る。


「あにぃー!」


 リュックを背負い、大きなバッグを手に抱え、運動エネルギーを少しも減らさずに抱きついてくる。


「ぐはぁっ!」


 アメフト選手よろしくのタックルに、全身が悲鳴を上げる。

 ハグとか、そんな可愛いもんじゃない。タックルだ。悪質タックル。


「久しぶりだね! ちょっと痩せた?」


 壁により掛かってダメージを緩和している俺に、けろっとした顔で話しかけてくる妹。


「お前、……頼むから、もうちょっと落ち着いてくれ」

「所帯を持てってこと?」


「将来的な話じゃねえよ。今この瞬間、もっと行動を控えめにしろ」

「地球環境のために?」


「人間一人の呼吸でそこまで二酸化炭素はでねえよ。自惚れんな」

「あにぃ。ちょっと賢くなった?」


「お前が変わらなすぎるだけだ」


 深々とため息。相変わらず、凜と話していると収拾がつかなくなる。

 後頭部をぽりぽり掻いて、心を落ち着ける。


「――で、なにしに来た?」

「あにぃの生態調査」


「質問を謎で返すな。もっと端的に答えてくれ」

「どんな生活をしているのか、解き明かしに来たんだよ。友達、食事、学校、勉強。それをお母さんとお父さんに報告するのが、凛の役目ッ!」


「…………」


 抜き打ちチェックってやつか。

 概ね予想通りというか、あの両親が許すならそういう理由だよな。という感じがする。ただの旅行では、愛娘を一人で飛行機に乗せたりしないだろう。


 どうしたもんかな。

 できる限り、こいつは誰にも会わせたくない。余計なことを言う可能性があるし、変な波乱を生みそうだ。


 どうにか誤魔化す方法を考えていると、きゅるると可愛らしい音がする。


「あにぃ。妹が空腹に苦しんでいるよ」

「昼飯を奢れと?」


「一つ言っておくね。飛行機のチケット代、お年玉貯金を使いました」

「重い重い!」


 そうまでして来るなよ!

 奢るしかないじゃん!





 せっかく茨城に来てもらったのに申し訳ないが、この県にはわかりやすいグルメがない。奥地にいけば蕎麦が美味しかったり、敷居の高い店に行けばあんこう鍋が美味しかったり。

 その全部、高校生が手の届く場所にはない。


 空港のフードコートで、醤油ラーメンを二人分。日本全国どこでも味わえるクオリティ。文明を感じてしまう。


「そういえば凛。お前、どこに泊まるつもりなんだ?」

「あにぃのベッド」


「俺の寝る場所は!?」

「床」


「清々しいなおい!」


 こいつは悪魔の子なのかもしれない。当然だという顔をしている。


「じゃあ、あにぃもベッド使っていいよ」

「俺のベッドだからな。俺の寝る場所だから、権利は俺が優先だろ?」


「妹はなににおいても優先されるべきって、お父さんが言ってたもん」

「あの親父ィ!」


 普通にしていればいい親なのに、凛が絡むとこうだ。しわ寄せはだいたい俺に来る。


「もしあにぃが抵抗したら――」

「抵抗したら?」


「このお金で布団一式買いなさいって」


 ポン、とテーブルに置かれる茶封筒。

 ホテルに泊まるよりは、確かにずっと安いよな。







 最寄り駅で降りて、家までの道を歩いている最中だった。

 ふと思い出したように、凛が切り出したのは。


「そういえばあにぃ、花音さんの連絡先持ってるんだっけ?」

「持ってないよ」


 内側で感情を握りつぶしながら、顔には出さない。

 凛が来る以上、この話題は避けられないと知っていたから。落ち着いて向き合おう。

 そう、決めていたつもりだったのに。


「花音さんが、あにぃの連絡先知りたいって」

「――っ、花音が?」


 息が詰まる。心臓が早鐘を打つ。隠しようがなく、声は震えてしまった。


「後で送っとくね」

「……あ、ああ。わかった」


 今更なにを求める?

 とうの昔に終わった関係に、二度と帰れない初恋に、一体なにがあるというのだ。


 蝉の音はどこか遠く、現実感のない響き方をする。

 頬を伝った汗が、やけに冷たかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近読み始めました。 なろう作品を読んでいて異世界に行ってしまいそうになる自分をこっちの世界に引き留めてくれる一服の清涼剤といった感じですね。ええ。 [一言] 登場人物も増えてきてここら辺…
[気になる点] 闇が近づいて来る様子… [一言] お~、凛ちゃん…ホントに強力な子だw まぁ、姉や妹に逆らえる男なんているわけないしな…(主観)
[一言] 「花音さんが、あにぃの連絡先知りたいって」 「―――っ、花音が?」 「後で送っとくね」 「......あ、ああ。わかった。それより____ ____花音って誰だっけ」 俺の記憶力(´・ω・…
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