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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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36話 わっかんねえよ

 氷雨を遊びに誘うと約束した。あの時の俺はなにを考えていたのだろう?

 きっと一泊二日を経て、変なテンションになっていたのだ。


 なにが遊びに誘うだよ。

 遊ぶことがねえよ。誘ったところで、なにをすればいい? ここは茨城。素晴らしき田舎町。一番の娯楽はボウリングとカラオケ。


 茨城、住むにはいいところなんだけどな。

 自然が豊か(畑と田んぼ)で、食べ物が美味しくて(農産物)、空気が美味しい(人がいないため)。


 いかんせん、やることがない。


 札幌が恋しいよ。あの街、ちょっと地下鉄に乗ればなんでもあるし。昔は気がつかなかったけど、ここよりずっと栄えていた。


 なんて言っても仕方がない。

 茨城をディスったところで、現状は変わらないのだ。


 とりあえず、連絡してみるか。

 あいつのことだから、律儀に待ってそうだし。言ったこと全部信じるからな。社交辞令とか、通用しなさそうだ。


 適当に文面を考えて、メールを送信。


『ヒマ?』


 適当にもほどがあった。送ってから反省するけど、他の言い回しも思いつかない。

 ごめん氷雨……なんか、ごめん。


 しばらく待っていると、返信があった。


『ヒマよ』


 あいつも考えてねえな。

 よかったよかった。ちゃんと返されたら、申し訳なくなるところだった。


『午後から、なんかするか?』

『なんかするわ』


 オウムか?


『じゃあ、一時半頃に駅前でおっけ?』

『り』


 なにを学んでるんだ。

 絶対にちょっと前までは知らなかっただろ。今初めて使っただろ。その『り』、メールで使う奴じゃねえから。チャットアプリで使う奴だから。


 まあ、指摘することもないか。


 氷雨が不利益を被るようなことはないし。俺には伝わってるし。

 さて……なにするかね。


 会ってから考えればいいか。別に、デートするわけじゃないし。

 本当に困ったらアイス食って帰ろう。







 適当な半袖にジーパンを履いて、時間より少し前に駅に着く。

 真夏でも長ズボンを選んでしまうのは、野球部の名残だろうか。どうも丈の短いものだと、スネが不安でならない。スライディングするわけでもないのに、変な話だ。


 氷雨は、時間通りにやってきた。

 つば広の白い帽子に、淡い水色のポロシャツと七分丈のズボン。靴はスニーカーで、この間より歩きやすそうだ。


「よ」


 軽く手を挙げると、俺に気がついたらしい。小走りで近づいてくる。


「走らなくていいから。別に急いでないし」

「嬉しくなったのよ」


「…………そうかい」


 そう言われてしまうと、なんとも言い難い。氷雨の言葉はいつもストレートで、表情の変化も少ない。本心なのだろう。そのままぶつけられると、狼狽えてしまう。


「久しぶりね」

「一週間も経ってないだろ」


「そうだったかしら?」

「今日、金曜日だぞ」


「夕方クインテットの日ね」

「いつの時代だよ。もうとっくに終わってるよ」


 三つか四つ前のやつじゃん。よく知ってるな。


「それで、今日はなにをするのかしら? 楽しみで夜も眠れなかったわ」

「誘ったのついさっきだけどな」


 一晩も挟んでいない。

 急に誘って、急に来てくれただけだ。


「……実のところ、あんまりいい案がない。最悪の場合はアイス食って終わりになる」

「最悪ね」


「すまん」


 自分でも酷いと思う。もうちょっとなにかなかったのか。

 氷雨は口元を手で隠し、くすりと笑う。


「でも、誘ってくれただけよかったわ。初めてじゃない? 阿月くんから声を掛けてくれるのって」

「……言われてみれば」


 いっつも人任せというか、氷雨任せというか。

 呼ばれたから行く。みたいな。ちょっとずるくない……? いや、ずるいとは違うか。でも、なんだろう。あんまりよくない気がする。


 仲良くなるとか、そういう過程はできるだけ対等であるべきだ。


「悪かった。反省する」

「いいのよ。十年しか気にしないわ」


「めっちゃ根に持つじゃん」


 せめて高校卒業までにして?


 氷雨は楽しそうにころころ笑う。心なし、いつもより機嫌がいいような。表情の振れ幅も増えている気がする。


「やることがないなら、今日もいつも通りでいい?」

「いつも通り、とは?」


「私の行きたいところよ」

「仰せのままに」


 とんでもない場所に連れて行かれなければいいが。


 氷雨の足は、駅前の複合商業施設へ向かう。デパートと呼ぶのは憚られる、小さなものだ。地下には食料品店があって、上階には服屋から雑貨屋、本屋にゲームセンターなんかもあるようなもの。


 エスカレーターを登って、三階。

 本屋のあるエリアだ。


「氷雨さんって、読書好きなの?」

「嗜む程度よ」


「すっごい格好いい表現なんだけど、実際のところは?」

「年間一冊よ」


「かじってすらないじゃん」


 その程度で読書家ぶるな。


「そんな私が本屋に来たのは、それ相応の理由があるわ」

「年間一冊の、一冊を選ぶときが来たんだな」


 氷雨は首を横に振る。

 もうやだ。なんなのこの子。わからなすぎる。


「参考書を選びに来たのよ」

「は?」


 遊びに誘ったと思ったら、これだ。

 奔放というかなんというか。面白すぎるだろ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ、ちゃんと誘ったw 小走りでちかづいてくる(※表情の変化無し)なんて…かわいい…? [気になる点] 夕方クインテット…? 懐かしいわw
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