第28話 宝剣ってなんですか
柱の一本か二本は剣で斬れる。
しかし、この連環封気大縛仙陣は数十本の柱の符印を連動させている。数本切り倒したところで、効果は変わらない。
柱による円陣が崩壊するまで、対象者を縛り続け、抗うための消耗を強要する。
(さぁ使え!)
これに淑蘭が対応する手はただ1つ。
宝貝・干将。5行全ての属性の力を纏うその力のみだ。
「金気顕纏」
淑蘭の声。
さすがに判断が速い。
「金剛円斬!」
淑蘭を中心に気の刃が辺りをなぎ払い、立ち並ぶ柱を一気に斬った。
符陣は力を失った。
次の手、と建明が用意しようとしたが、ここは淑蘭の方が速かった。
「火気顕纏、業火龍!」
干将から火の龍が吹き出した。
火龍は、切り倒された柱を燃やしながら大きく育ち、試合場に大きく渦巻いた。
試合場内の気温が一気に上がったような熱気だった。
龍の頭が建明に向き、食いちぎろうとかかってきた。
「操木式・飛天板!」
建明は板に乗って風に乗り、火龍の顎から逃れた。火龍自身が生む熱気で上昇気流が生じている。建明はそれに乗って空高く舞い上がった。
「あぁおっかねぇ!」
建明は叫んだ。
容赦ない攻撃だ。
手加減してくれるような相手とは思っていたわけではないが、淑蘭は間違いなく本気で勝ちに来ている。
うれしくもあり、おそろしくもある。
『ついに、荆淑蘭が今大会初めて宝貝を使いましたー! これが紫陽洞の秘宝、干将!! 恐ろしい火力です!!』
『その前に木を切ったのには金気が乗っていたな。複合型の宝貝だ』
『なるほど、姜建明の出した木を利用して力を増させたということですね! この辺りは実戦経験のある洞府で修行していた荆淑蘭に一日の長があるでしょうか!』
(勝手なこと言ってくれるよな)
建明とて、短いながら通天教主直々に実践訓練を受けているのだ。
淑蘭の放った火龍は、すぐに火力を弱め消えていった。継続的に出し続けるだけの力は無いのだろう。
通天教主が言っていたことが思い起こされる。
『複数の能力を持つ宝貝は、必ず強い制約がある。様々な力を発揮し続けることに宝貝自身が耐えられんのだ』
(その通りだな)
建明は納得した。干将の放つ苦手属性の攻撃は、この調子でよけ続けよう。
建明は飛天板から飛び降りた。
「偽典召填。のびろ如意棒!」
落下しながら、如意棒を伸展させて連続で突いた。
淑蘭は左右にステップを踏みながらバックし、建明の如意棒攻撃を回避した。
『華麗なステップで、なんと一撃も当たらないー!! 荆淑蘭、完全に攻撃を見切っています!!』
もちろん、これくらいよけるだろうことは想定内だ。
如意棒の伸展攻撃を除けながら、淑蘭は壁際に追いやられている。
これ以上後ろには下がれない。
(ここ!)
建明は如意棒を一気に太くした。樹齢何千年もの大樹に匹敵する太さ。左右に避ける幅も与えない。
「伸びろ!」
もはや棒とは呼べない太さのそれを、建明は一気に伸展させた。
回避できないことを悟った淑蘭は、干将を構えた。
「金気顕纏」
干将の刃から金属質のものがあふれでて、ひときわ大きな剣となった。
「羅刹斬!!」
その干将で迎え撃つ。
如意棒と干将が打ち合った。
一瞬の均衡。
「はぁっ」
淑蘭が気合いを込め、干将を振り切った。
如意棒が縦に切り裂かれていく。
建明は如意棒から手を離し、そのまま自由落下、地面に降りた。
「操木式・木分身」
建明の分身が5つ、現われた。木で編んで作った分身だが、見た目は建明と全く同じだ。
「偽典召填」
その全ての建明の手に、再び如意棒が握られた。
「金剛龍波!」
干将から鋼の龍が生じた。
襲いかかってくる龍を、3人の建明が如意棒を伸ばして串刺しにし、残りの2人が左右に分かれ、淑蘭への射線を確保した。
2本の如意棒が淑蘭めがけて伸びる。
淑蘭は1本を避け、もう一本を干将で受け流した。
鋼の龍が姿を消した。
「来い、莫耶!」
淑蘭が天に手をかざすと、空間に裂け目ができ、そこから一本の剣が飛び出してきた。
すでに鞘から抜き放たれている。
孫悟空の言っていた、もう一本の秘宝。
淑蘭が新たな宝剣に気を込め振るうと、その刀身が光を発し、光の斬撃が建明の分身の1つを断ち切った。
飛ばしたのではない。防御しようと構えられた如意棒には傷1つ無い。斬るべき対象のその場に斬撃が現われたのだ。
淑蘭が立て続けに宝剣を振るう。
たちまち、残りの分身も全て断ち切られてしまった。
『莫耶宝剣! ついに紫陽洞最大の秘宝を持ち出しました荆淑蘭!!』
実況と観客が沸いた。
(どういう攻撃だ?)
防ごうとした如意棒に傷1つつかず分身が断ち切られたことから見て、飛び道具ではない。
「やはりそれが本物だったか」
干将と莫耶を両手に持って、淑蘭が前進してくる。
「……わかっていて残してくれたような口ぶりだな」
「もちろんだとも。私はただお前に勝ちたいのではない。全力を出して挑んできたお前の、その全てを上回って勝ちたいのだ」
「ずいぶんな余裕じゃないか」
会話に応えて時間を稼ぎながら、建明は莫耶を破る手立てを考えていた。
「せめて悔いを残さぬよう、これが私の果たせる最大の義理だ」
「感謝すべきかな?」
「それには及ばない。ただの私の自己満足だからな」
「淑蘭殿、あんた本当にバカがつくくらい真面目な奴だな」
淑蘭は一瞬笑身を見せてから、ふたたび戦いの表情に戻り、建明に干将を突きつけてきた。
「さぁ姜建明、お前の全力を、切り札を、奥の手を見せてみろ!」
(そうせかすなよ)
今雷公鞭を放っても、莫耶で建明自身が斬られる。
やはりまずは莫耶を攻略しておくことが優先だ。
「操木式・無限竹林」
建明の術に応え、無数の細い竹が一斉に生え、試合場を埋め尽くした。
やっちゃえ○○、ってやつあるじゃないですか。
やっちゃいます本日完走!
あと5話です!!




