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The End of The World 〜休日〜  作者: コロタン
8/15

第8話 友と言ってくれた人 ~櫻木 大輝~

「おーい櫻木さーん、生きてるー?」


 俺を呼ぶ声が聞こえる・・・聞き覚えのある、安心感すら覚える声だ。


 「ねぇ玉置ちゃん、どんだけ痛めつけたら筋骨隆々の櫻木さんがこんなぼろ雑巾になんのさ・・・」


 「さぁ、鍛え方が足りないんじゃないですか?」


 「いやいや・・・玉置さんが強いとは聞いてたけど、これは流石に・・・」


 「井沢さんも早くしてくださいよ、いつまで休憩してるんですか・・・あとは井沢さんだけなんですから早くしてください!」


 そうだ、これは井沢 誠治の声だ・・・それと、歩く危険物玉置だ。

 

 「ん・・・井沢さん、おはようございます・・・」


 「おぉ、良かった!大丈夫?まだ生きてる?奴等になってない?」


 「何言ってるんですか、噛まれてもいないのに奴等にはなりませんって・・・それと、死んでたらこうやって起き上がりませんよ」


 俺は痛む体を起こして周囲を見渡す。

 今、体育館の中央では鬼塚が機材を装備して一人で動き回っている。

 片隅に設置されているモニターには、鬼塚がVRヘッドセットを通して視ている映像が映し出されている。

 それは、荒廃した市街地の中に奴等が溢れかえり、それを討伐していくというものだ。

 映像内の人物は、モーションキャプチャーによって鬼塚の動きとリンクし、あたかも実際に奴等と戦っているかのように見える。

 まぁ、言ってしまえばFPSのゲームをやっているような感じだ。

 今行われている試験は、この装置を利用して実践に近い経験を得られるかを確認するためのものだ。

 これが採用されれば、より多くの人が奴等への対処の仕方を学び、有事の際の生存率を上げる手助けとなるだろう。

 先日俺と部下たちも試してみたが、正直俺は微妙だと思った・・・。


 「おーい櫻木さーん、大丈夫?ボーっとするなら横になれば?」


 「あ、いえ・・・大丈夫です」


 「そう?ならもうちょっとそこで休んでなよ?」


 「えぇ、ありがとうございます」


 そういった彼は、俺に濡れタオルを渡して玉置のもとへ歩いて行った。

 彼はずっと俺を看ていてくれたらしい。


 「おう櫻木さん、さっきは災難だったな!」


 「大丈夫っすか兄さん・・・まぁ、あれは自業自得っすね」


 井沢と入れ替わりで現れたのは、井沢の兄弟分である瀧本と、今試験を行っている鬼塚の補佐をしている榊だ。


 「大丈夫ですよ・・・まぁ、今後は言動には気を付けますよ。

 で、あれをやった感じはどうでした?」


 俺は二人に大丈夫であることを伝え、試験の感想を聞いてみた。


 「俺は結構良いと思ったけどな!あれなら実戦経験ない奴でも怪我の心配なく訓練できると思うぞ」


 「そうっすね・・・奴等の動きも忠実に再現されてましたし、背景も実際の映像を使ってるだけあってリアルな感じはしましたね」


 そう、それは俺も感じていた・・・奴らの動きに関しては人工知能を利用して、俺たちの動きに合わせてランダムになるように作られているので、その都度対処しなければならないように出来ている。

 背景には、最近復旧してきたネットの画像や映像を取り込み、実際の風景を利用している。

 そうすることにより、今後救出作戦などでのルート確認も出来る仕組みだ。

 無人偵察機などで最近の道路状況などを調べ、通れなくなった道や障害物などを後から追加すれば、それこそ作戦の成功率、我々の生存率を上げられる。

 それは良いのだが・・・うまく説明はできないが、何かが足りない気がするのだ。

 矛盾しているかもしれないが、リアリティが足りていないのだ。


 「ふーっ、終わった終わった・・・なかなかおもろいなあれ!」


 俺が瀧本と榊に感想を聞いていると、試験の終わった鬼塚が俺の方に歩いてきた。


 「お疲れ、どうだった?」

 

 「お、お疲れさんです兄さん!いやぁ、玉置の姐さんホンマおっかないっすね」


 鬼塚は玉置を見て身震いしている。

 まぁ、玉置が怖いのは認めるしかない。


 「鬼塚君、聞こえてるんだけど?」

 

 「あ、すんません姐さん・・・」


 鬼塚は玉置に睨まれ、慌てて頭を下げた。

 玉置を怒らせると本当に怖い・・・さっきも、執拗に股間を狙ってきた。

 しかも本気でだ・・・まだ結婚すらしていないのに、強制的にパイプカットされてはたまったもんじゃない。


 「まぁ、俺の二の舞にはなるなよ・・・あれはマジで男を終わらせに来るからな・・・。

 で、あれを使った感想はどうだった?」


 「んー・・・まぁ、ぼちぼちってとこやと思いますね。

 良ぇとは思うんやけど、なんか足りないですわ」


 「そうか、俺もそう思うんだよな・・・」


 俺は鬼塚の答えを聞いて体育館の中央を見る。

 そこには、装置を付けた井沢が準備運動をしているのが見えた。


 「玉置ちゃん、場所って選べるの?もし選べるなら、お願いしたい場所があるんだけど・・・」


 「そうですね・・・中村さん、どうです?」


 「ある程度の場所は指定できますが、まだ映像が揃っていない場所もあるので・・・」


 井沢と玉置の問いに、技術者の中村が自信なさげに答えた。


 「それってどうやって場所を選ぶの?」


 「住所か場所の名前を検索すればある程度は・・・その場合、少々時間をいただきますが」


 「お、マジで!?ならちょっと良いかな!」


 井沢は中村の元に駆け寄り、中村のパソコンをいじり始めた。


 「なんちゅう自由な奴や・・・姐さんため息ついとるやないか!」


 「まぁ、そう言うな・・・井沢さんにも考えがあるんだろう」


 俺は井沢を睨む鬼塚を窘め、再度井沢の様子を見る。


 「どう?大丈夫そう?」


 「ちょっと待ってください・・・おっ、出てきました!!」


 「やった!ありがとう中村さん!!」


 井沢と中村はハイタッチをしている。

 先ほどの恐怖体験を通じ、かなり仲良くなっているようだ。

 

 「お待たせ玉置ちゃん!いやぁ、ここが見れて嬉しいやら複雑やら・・・」


 「もう、我が儘言ってないで早くしてくださいよ!もうお昼過ぎてるんですから、こっちは早く休憩にしたいんですよ!?」


 「もう、そんな怒んないでよ・・・可愛いお顔が台無しよ?」


 「なんですか?美樹さんに、井沢さんから口説かれたと報告しても良いんですよ?」


 「あ・・・ごめんなさい・・・それはマジ勘弁」


 井沢はしょんぼりとしながらヘッドセットを装着する。


 「本当に懐かしいな・・・1年半しか経ってないけど、もう随分昔に感じるよ」


 そう言った井沢は周囲を見渡す・・・これは駅前の広場だろうか?

 心なしか視界が狭いので、全体が視えないので何とも言えない。


 「へぇ、右手も無いんだねこれ・・・マジでリアルなのね」


 井沢が顔の前に両手を持ってくると、映像に映し出された右手には手首から先が無かった。


 「井沢さん専用ですよ!やはり、現在の状態が反映されないと意味が無いので、映像も右半分は見えないようになっています!」


 「至れり尽くせりで感謝の言葉しかないわ!中村さん、あとで俺がハグしてあげよう!

 まぁ、背骨が折れたら勘弁ね!」

 

 「謹んでお断り致します・・・では、準備は良いですか?」


 「オッケー!じゃあ気張ってみましょうかね!」


 井沢が武器を構える。

 右腕には自衛隊から井沢へ支給された専用の大型の鉈、左手には井沢愛用のタイヤレバーだ。

 彼の正面に奴等が5体ほど現れる・・・通常の個体3と新個体2だ。

 最近、我々はこの二つの個体を差別化するため、通常の歩く個体をA型、走る新個体をB型と呼ぶようになった・・・なんだかインフルエンザみたいだが、いちいち通常だの新個体だの言うよりは良い。

 1型だろうが2型だろうが呼び方なんて何でも良いのだ。


 「んー・・・もうちょっと数増やせないかな?」


 井沢は、目の前に迫るB型の1体目の頭部をタイヤレバーで叩き潰し、迫りくる2体目に向かって蹴り倒した。

 走って来ていた2体目は、倒れてきた1体目に足を取られて井沢の前に盛大にこけ、頭を鉈で刺されて動かなくなった。

 後続のA型は、全く意に介していないかのように歩きながら近づいて頭突きをし、足を掛けて倒すと、そのまま頭を踏み潰した・・・飛び散る肉片まで再現しているので、なかなかにエグイ。

 映像がリアルなだけにお食事中には観てはいけない映像だ。


 「流石と言うか何と言うか・・・普段飄々としている割にエグイ倒し方をしますね・・・」

  

 井沢の戦う映像を見ていた午来が口元を抑えて青い顔をしている。

 まぁ、そうなるのも仕方がない・・・彼女も戦闘経験はあるが、馴れているわけではない。


 「クソ・・・苦戦する素振りも見せへんとか嫌味か!」


 鬼塚は鬼塚で対抗意識が凄まじい。


 「まぁ、あの人は銃器が使えない分近接戦では俺等以上だからな・・・はっきり言って、あの人なら10体~20体は出さないと練習にもならないと思うぞ」


 瀧本や榊、業天も呆れたようにモニターを視ている。

 まぁ、これが実践だったらまだ凄いのだが、それは黙っておこう・・・井沢は実践になると人が変わったように戦うからだ。

 

 「先に進むよー・・・商店街はどうかな?」


 井沢はそう呟くと、ゆっくりと歩きだして商店街を目指す。

 彼が選んだこの場所は、やはりあの場所のようだ・・・以前聞かされた因縁の場所。

 井沢の日常が終わりを告げた場所だ・・・。


 「へぇ・・・ちゃんと出来てんじゃん・・・」


 商店街に差し掛かったところで、井沢の雰囲気が変わった・・・先ほどまでと違い、声のトーンが下がっている。

 彼が商店街に入ると、店の中や細い路地から奴等が現れ、彼に向って襲い掛かる。

 だが、彼はなぜか反撃せずにそのまま歩き出した・・・。


 「井沢さん、ちゃんとしてくださいよ!」


 玉置が井沢に注意する・・・だが、聞こえていないのか、彼はそのまま歩き続ける。

 歩が進むにつれ、彼は徐々に殺気立って行った・・・。

 

 「ごめんね玉置ちゃん・・・少し静かにしてくれないかな?」


 そう言って玉置に向けられた声は、とても重い空気を纏っていた。

 ヘッドセット越しに睨まれた玉置は、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。


 「兄さん・・・なんやのあれ?あれがあの井沢なんか・・・?」


 「あぁ・・・まさかこんなシミュレーションであんな状態になるなんてな・・・実践じゃ大体あんな感じだ」


 鬼塚も冷や汗を流している。

 他の皆も息をのみ、ただ井沢の次の行動を伺っている。


 「中村さん・・・そこの電柱のところに車置けない?」

 

 「え・・・あ、はい!ちょっと待ってください・・・」


 井沢は立ち止まり、指をさして中村に指示する。

 そこは商店街の出口付近だ。

 井沢に指示された中村の声は、若干震えている。


 「あぁ、ありがとう・・・じゃあさ、他の奴等消してくれないかな?正直ウザくて仕方ないんだ・・・。

 で、車の影から1体で良いから普通のを飛び出させてくれないかな?」


 「わ・・・わかりました・・・」


 井沢に指示された中村は怯えながらパソコンを操作し、映像にA型が映し出される。


 「ありがとう・・・」


 広いはずの体育館の中は、重苦しい空気で満たされている・・・。

 

 「次・・・」


 井沢は難なく現れた1体を倒すと、その場から動かずもう一度同じ事を要求した。


 「中村さん、俺が倒したらすぐに次の出してくれないかな?」


 「はい・・・」


 中村は短く返事をし、井沢の要求通り倒されては出す作業を続けた。


 「なぁ兄さん・・・あいつ何してんのん?ずっと同じこと繰り返してるだけやん」


 「鬼塚、黙って見てた方が身のためだぞ・・・」


 俺は鬼塚に小声で注意して瀧本を見る。


 「俺も話でしか聞いてないから何とも言えないが、たぶんあそこがあいつの彼女が噛まれた場所だ・・・」


 「でしょうね・・・」


 「でも、なんでずっと同じこと繰り返してるんすかね・・・」


 「あいつは、彼女の夏帆さんが死んだのは自分のせいだと責めていたからな・・・口ではもう大丈夫だと言っていたが、実際はそう簡単に割り切れるもんじゃねぇだろな」


 皆の視線が井沢に集中する・・・。

 彼は、ただ無言で目の前の敵を切り付け、潰し、破壊し続けている。


 「兄さん・・・あれ、そろそろ止めた方が良ぇんちゃいます?燈子ちゃん完全に怯えてはるやないですか・・・。

 あれだけの殺気、ありゃあ普通の人間には耐えられませんて・・・何やったらあんなん出せるんやあいつは」


 鬼塚が指さす方向を見ると、普段クールな午来が顔面蒼白で涙目になって震えている。


 「うわぁ・・・あれは止めんの嫌だなぁ」


 俺はそう言いつつも渋々立ち上がり、玉置に近づく。


 「おい玉置・・・井沢さん止めるの手伝え」


 「・・・判りました」


 玉置は心底嫌そうな顔をしたが、俺が怯えている午来を指さすと、やれやれと頷き井沢に歩み寄る。


 「玉置、お前は右から行け・・・今、井沢さんは義手外してるから危険度は低いし、俺が左を抑えたら掴まれる心配もないし、拳でぶん殴らることも無いだろう。

 だが、もし俺が振り払われたら逃げろ・・・あの人の本気の拳なんて受けたら、お前体育館から吹き飛ぶぞ」


 「本当にそうなりそうだから怖いわよね・・・こんな状態の井沢さんとやらないといけないとか悪夢だわ」


 玉置は苦笑している。

 まぁ、正直心配なのは玉置より俺なんだが・・・。


 「じゃあ行くぞ・・・」


 俺はタイミングを見計らって玉置に目で合図を送り、同時に井沢の腕を同時に掴んだ。

 羽交い絞めにし、床に抑え込もうとしたが、井沢の身体が倒れることは無かった・・・。

 そして、ヘッドセットを装着したまま俺の方に顔を向けた。

 俺は背筋に悪寒を感じた・・・これが一般人なのかと本気で疑いたくなった。


 「おい・・・何邪魔してんだテメェ・・・」 


 井沢が怒気の籠った声で小さく呟く。


 「井沢さん、落ち着いてください!・・・きゃっ!!!」


 止めようとした玉置が振り払われ、かなりの距離を吹き飛んでいくのが見える。

 玉置は背が小さいし軽いのは解るが、いくら何でもあんなに飛ぶか!!?と愕然とした。

 次は自分の番だと覚悟を決め、それでも何とか抑え込もうと必死になったが、先程玉置から受けた傷が疼いてなかなか力が出ない。


 「井沢---!!自分何晒しとんじゃゴラァ!!!?」


 俺が井沢の制止に手間取っていると鬼塚の怒鳴り声が聞こえ、同時に俺ごと床に吹き飛んだ。

 

 「おい鬼塚・・・お前殺すぞ」


 「殺れるもんなら殺ってみろやコラ・・・!」


 ヘッドセットが吹き飛び、素顔が露わになった井沢の顔は、無表情だった・・・。

 彼は今まで、仲間に対してこんな殺気を出したことは無い・・・だが、今は完全にキレている。

 そして、鬼塚に気を取られて立ち上がろうとした彼の身体を、俺は必至で床に抑え込んだ。

 復帰してきた玉置も一緒だ。


 「誠治!お前いい加減にしねぇか!!!」


 俺と玉置が何とか井沢を抑え込むと、鬼塚の後から走って来た瀧本が思い切りぶん殴った。

 凄い音がした・・・普通なら意識が飛びそうな一撃だった。


 「痛てぇな・・・」


 だが、井沢は全く効いていないかのように見える。


 「誠治、お前が夏帆ちゃんの事で今でも苦しんでるのは皆知ってんだよ・・・しょうもない冗談ばかり言って、無理に明るく振舞ってもう大丈夫だとか言ってても、お前が辛そうにしてんのを俺も、美樹さん達も知ってんだよ・・・目に入っちまうんだよ。

 それにな誠治、皆誰かしら親しい人を亡くして苦しんでるって言ってたのはお前じゃねえのか?

 お前なら、あんな事何べん繰り返したって夏帆ちゃんは帰って来ねえ事くらいわかんだろうが・・・俺だって出来る事なら死んだ息子に会いてぇよ・・・でもな、そりゃあもう無理なんだよ」 


 井沢は、瀧本の言葉をただ俯いて聞いていた・・・。


 「でもよぉ・・・俺があの時油断しなけりゃ生きてたかもしれないんだよ・・・。

 あんな痛い思いして・・・苦しむこともなかったかもしれないんだ・・・」


 井沢の目から涙がこぼれる。

 それを見た鬼塚は目を逸らした。


 「なぁ誠治、お前が真面目なのは知ってんだよ・・・責任感が強いことも、涙もろいことも、本当はプレッシャーで押しつぶされそうなことも知ってんだよ俺は。

 お前は自分を責めすぎなんだよ・・・もちっと力抜けよ・・・何のために俺がお前といると思ってんだ?お前の愚痴を聞くためだよ・・・溜め込むんじゃねぇよ馬鹿野郎」


 瀧本が井沢の頭をガシガシと強めに撫でる。

 こわ張っていた井沢の身体から力が抜けるのを確認し、俺と玉置は彼を解放した。


 「井沢さん、落ち着きましたか?」


 玉置が恐る恐る井沢に話しかける。


 「あぁ、ごめんね玉置さん・・・さっき吹き飛んでたけど大丈夫?

 櫻木さんもごめんね・・・さっきまで気絶してたのに・・・」


 井沢は恥ずかしそうに涙をぬぐい、玉置と俺を看る


 「そんな軟じゃありませんよ・・・まぁ、今後はごめんこうむりたいですけどね!」


 「俺は大丈夫ですけど、さっき玉置が吹き飛んでいくのを見てキャプテン翼を思いだしましたよ・・・」


 玉置と俺の返事を聞いて、井沢は苦笑している。


 「ボールが当たって吹き飛ばされるとか凄いよねあの漫画・・・まぁ、二人が無事で良かったよ。

 それと、鬼塚・・・一応礼を言っとくわ・・・ありがとな止めてくれて」

 

 「はっ!別に構わんわんなもん・・・そんなんより、燈子ちゃんに謝っとけお前は!」 


 「あぁ、本当にごめんね午来ちゃん・・・普段からあんなんじゃないのよ俺」


 井沢が午来に謝ると彼女は少し身体をこわ張らせたが、すぐに居住まいを正した。


 「いえ・・・確かにかなり驚きましたが、別にもう気にしていません・・・」


 ずれた眼鏡を直しながら平静を装う午来はなんだか笑えてくる。


 「はぁ、なんか腹減ったなぁ・・・よし、飯食いに行こう!!迷惑掛けたし今日は俺が奢るよ!!」

 

 井沢は頬をピシャリと叩いて立ち上がると、笑顔で宣言した。

 皆その言葉を聞いて腹を抑える。

 玉置なんか腹の虫がなって赤くなっている。 


 「じゃあこの前櫻木さんと行ったラーメン屋で良いかな?」


 「おい井沢、ラーメンじゃなくて肉食わせろ!」


 「やかましい!嫌ならお前は雲霞でも食ってろ!」


 毎度おなじみの喧嘩が始まる。


 「鬼塚、今から行くラーメン屋はやばいぞ・・・マジで美味い」


 「そりゃあ俺が色んなところ通って厳選した店だからな!早い、美味い、安いの三拍子揃ってて俺の歳でも食べやすいあっさり豚骨!あれは美味ですわ・・・食べたら料理漫画のリアクション取りたくなるぞ!!」


 「何ですかそれ・・・」


 午来の冷静な突込みが入る。

 

 「そりゃああれよ、服が吹き飛んだり空飛んだり死んだりとか・・・」


 「私はまだ死にたくないのだがね・・・」


 「大丈夫ですって、そのくらい美味いってことですよ!」


 井沢は苦笑する業天に笑顔でフォローする。

 先ほどとは打って変わって明るい雰囲気だ。


 「井沢さん・・・もうそういった話はやめてください!余計にお腹がすくんですよ!!!」


 玉置の言葉に皆が笑い、片付けを後回しにした中村も合流する。

 正直、俺は先程の一件で空腹など吹き飛んでしまった・・・。

 井沢の状態が宜しくないからだ・・・俺達は彼を頼り過ぎている。

 そして、彼はそれに応えようとしてくれる・・・このままでは彼はもたないかもしれない。

 四国で初めて出会って以来、彼と過ごした時間はそれなりに長い・・・その間、彼はずっと俺達を気遣い、いつでも明るく振舞っていた。

 こういう人なんだろうと気にせずにいたが、今回の件でそれは間違いだったと気づかされてしまった。

 俺はこの人を死なせたくはない・・・1年半前、彼や夏帆さん達を見捨てた自衛隊である俺を、友と言ってくれた人だから・・・。

 昼食を摂ったら上に掛け合ってみよう・・・1分1秒でも彼が笑い、長く生きられるように。

 


 

 


 


 

 


 


 


 


 

 


 


 


 

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