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スプリングデート  作者: Administrator : Marve
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Day121

 day121                 


「スプリング先生、おはようございます。今日も遅刻ですか」


 医務室に入るや否や、事務員から文句を言われる私。清潔な白い壁の傍にあるヒールサーバに手をかざしながら、外気に触れて低下した体温を取り戻す。

 私はため息をつきながら、彼女の向かい側に座った。


「重役出勤というのです。列車が遅れていましたから、早起きしても遅刻していましたけどね。天才たる私は三番ターミナルの遅延さえ予測して遅く起きたのです」


「はあ……今回は医務となります。こちら、患者のカルテです」


 今もなお、私は干渉医を続けている。管理者ロストフィルズの死は公にはならなかった。それがよかったことなのか、悪かったことなのか。父の死を多くの人に悼んでほしいという気持ちもあるし、こうして干渉医を続けていられることをありがたく思う気持ちもある。

 憂悶がいつまでも心の中で燻っているが、これが消える日がくるのかどうかはわからない。


 私は患者のデータに目を通す。

『倦光病』……これはまた厄介な奇病を持つ患者だ。

 すぐに必要なデータを集め、私は席を立つ。


「スプリング先生って、患者のカルテを見るとすぐに動きますよね。遅刻ばかりのくせに」


「当然じゃないですか。患者が寂しがっているのですから」


「はあ……仮にも一級干渉医、ということですか。それでは、お気をつけて」


「はい。行ってきます……ぐふっ!」


 急ぎ足で部屋を出ようとしたためか、私は机の角に腰をぶつけてしまった。痛い。

 同時、机の上に置いてあった……昨日、私が飲みかけのまま放置して帰ったお茶がこぼれてしまう。生温い液体が腕の辺りにかかってしまって気持ち悪い。


「なにやってるんですか……」


 呆れる事務員を他所に、懐からハンカチを取り出して衣服についたお茶を拭く。


「おや、先生……そのハンカチって特殊合成繊維じゃありませんよね? 昔ながらの布ハンカチですか?」


「ええ、まあ……私の大切な友人がくれたものです」


 今時、瞬間洗浄性のハンカチを使っていないなんて、奇妙に思われることだろう。しかし、このシルクのハンカチは私にとってどんな高性能なハンカチよりも代え難い宝物なのだ。本当は地区外に持ち出してはいけなかったのだが……こっそり持ってきてしまった。

 ひととおり始末を終えた後、ハンカチをていねいに洗う。


「よし。それじゃ、いってきます」


「はい、お気をつけて」


 私は、今も理想を目指して歩き続けている。

 父の言葉を受け止めた。罪業を背負った。心を追い求めた。

 まだ、理想は見えない。


 私は外へ出て、空を見上げた。

 いつもどおりの曇り空だ。

 でも……鉛のような煙がいくつも連なった空の切れ端に、青が見える。

 

 次に向かう地区は、晴れだったらいいな。


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