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ファムファタる。  作者: 蒼治
番外編
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番外編 手持ち無沙汰の二人

8-5の辺で佐藤が何をしていたのかと言うお話です。

 縁あってかかわることになった同じクラスの三嶋藍につき添って、というかつき合わせて俺は今、都内有数の結婚式場にいる。走って山を駆け下りてタクシーに乗ってまた走って(途中でなぜかツレが一人増えた)。


 三嶋は今、結婚式に参列している。一応揉め事も収束して俺はやる事無く、とりあえずラウンジでアイスコーヒーでも流し込もうかと考えて、ホテル内をうろうろし始めたところだった。ちなみにここに来るまで、ハイソックスにミニスカにカーディガンというスクールガール風出で立ちというすさまじいものだったが、今はホテルから借り受けた白いシャツに黒のパンツ姿だ。まあ歴史あるこのホテル内にあんな非常識な姿の男子高校生がいたら、ホテルの信頼と実績もガタ落ちだろう。礼儀正しくやんわりと、しかし有無を言わさず着替えさせられた。さすが名門ホテルスタッフは、ゴリ押しも一味違った。


 で、通りかかった披露宴会場前のスペースのソファに座っている渡辺先生を見つけたという次第だ。まだ披露宴のみの参加者は来ていないし、すでに来ている参加者は結婚式に参列中だ。これから大勢が来るとは思えないようなひっそりとした場所に、渡辺先生は座っていた。


 なんでここにいるんだ?とか、礼服姿も腹が立つレベルでイケメンだな、とか思うことはいろいろあったが、まあまず頭に浮かんだのは、「あのスクールガールの姿を見られなくてよかった…」だ。

 女子寮から校内経由でホテルまで、山ほどの目撃者がいたが、でもまあ、見られたくないなあって思う相手もいるじゃん。 先生に手招きされて、俺は素直に近寄った。


「どうしてここにいるんですか?」

「僕の家内が花嫁の友人だ」

 さらっと言われて目をむいた。

 そうか、そうだよな。あの涼宮さんだって、女友達くらいいるよな…。どういうキャラなのかわからないけど。


 三嶋には言っていなかったが、涼宮さんとは実は何回か話をしている。三嶋を心配した俺が無理やり押しかけて相談したことだってあったんだ。だから今日のこの場所とかいろいろつかめていた。

 あの人本当に強烈だけど、悪い人じゃないと思う。ただ、俺の趣味じゃない。あの人を妻にした門倉さんの度胸には本当に感嘆する。でも涼宮さんはいい人だ。


 なんというか、三嶋の好きなタイプが男女問わずあれだったら、本当に俺にとっては条件が悪い話だ。俺ときたら、本当にアクもないが飛びぬけた長所もないもんな…。どうか涼宮さんが特別だったといってくれ。

 …そういえば同じような強烈な渡辺先生の奥さんはどんな感じなんだろう。


「奥さんは?」

「結婚式に出ている」

「先生は結婚式でないんですか?」

「披露宴にはでる」


 ふうん、じゃあ、先生も涼宮さんの友人なのか。結婚式はいいのかな…。まあ俺も別に結婚式なんて大して興味ないもんな…。でも涼宮さんと知り合いなんだとしたら、どんな知り合いなんだか聞いてみたいような気もするな。でも渡辺先生に深く斬り込むのはなんだか怖いような。

 まてよ、三嶋も今参列しているよな。あとで奥さんがどんな顔だったか聞いてみよう。


「で、お前はどうしたんだ?」

 あ、逡巡している間に、逆に斬りこまれた。

「えーと…話せば長いんですけど」

 うーむ…話しづらいな。

「ならいい。面倒くさい」

 渡辺先生はあっさりそう言ってくれた。それが助け舟なのか、本当に面倒くさいだけなのかは微妙だ。


 …そうなんだ、俺がしたことは果たしてどうだったんだろう。


 これでよかったんだと、結果から見れば間違いなくそういえる。

涼宮さんが、三嶋を怒っていないどころか、心配していることを知っていた俺だったが、それでも三嶋がちゃんとうまく仲直りできるのか、それは心配だった。走っている間中、俺は俺のしていることが不安だったんだ。


 佐藤君は間違うことなんてなさそうだね。そんなようなことは三嶋だけじゃなくいろんな人間から言われる。それについては反論しても仕方ないから言わないけど、俺だって間違うに決まっているだろ。ただ、ひたすら一生懸命考えているだけだ。石橋を叩く性格なんだろうけど、今まで叩きすぎて壊した石橋がどれだけあることか。


 だから、よく考えてもわからない、でも叩きすぎて壊してしまうわけにはいかない今回の一件は俺にとってはものすごく冒険だった。俺が叩いている間に表面だけは普通のままで、三嶋はどんどん自分の殻を厚くしてしまったからだ。石橋を叩く金槌でむりやりそれを叩き割ったけど、でもどうなんだろう。中にいた三島まで傷つけたんじゃないだろうか。


 殻から出すためは少しくらい傷つくことだってあるっていう意見もあるかもしれない。でもそんなの嫌なんだよなあ。好きな女の子が傷つかないで済むなら、そっちのほうが良いに決まってる。

 大久保真弓は妙に聡くて俺の気持ちに気がついていろいろ言ってくるが、しかしまあ、俺はやっぱり石橋を叩くわけで(最初にループ)。

 そんなことまで話すわけにもいかないし、でも省略するには大事すぎる話だ。


「まあ、なにか理由があるんだろう」

「…多分、月曜日、大騒ぎになると思います」

「なんだって?」

「先生、味方してくださいね」

 渡辺先生は俺をじろじろと眺めた。ものすごい勢いで値踏みしているよ。まあ良いけど。

 そこでなにか突っ込んで聞いてくるかと思いきや、そんなことはなかったのが不思議だ。先生はただ最後に俺の目を見つめただけだ。


「まあ、考えておいてやるよ」

 それだけ答えた。

 と、廊下の向こうが騒がしくなってきた。結婚式が終わって参列者でてきたのだろう。ああ、そうだ、俺もラウンジ行こうと思っていたんだ。三嶋と先生と三人で顔を合わせるのも気詰まりだし、もう行こうかな。


 俺がそう思った時には、すでに先生はもう決めていたようだ。

「じゃあ、僕はそろそろ行くぞ」

「あ、はい。俺もじゃあ」

「ところで」

 先生は立ち上がってから俺を見下ろして言った。

「お前ミニスカート似合わないぞ。女装はともかく、似合う服かどうかは考えろ」

 そして軽く手を上げると、そのまますたすたと歩き去ってしまった。いきなりの言葉に、唖然としたまま、廊下を曲がるのを見送ってしまう。


 …見てたんじゃないか、最初に言えよ!

 俺は渡辺先生を軽く呪いながら立ち上がった。


おわり

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