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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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今回はいつもに比べると糖度が高めです。(たぶん)

 前世の私ってどんなのだっけ?

 普通の家庭に生まれて、普通に育って、普通に就職して、……まあ、恋愛経験は置いとくとして。

 特別な趣味とかはなかったしなーお菓子作りとか公言できるほどではなかった。いや、そこまで交友関係もなかったという寂しい事実は置いとくとして……ってあれ、置いとくものの方が実は多いかもしれない。

 あれっおかしいな?!

 引き留めちゃったからお茶の準備をした。ここまではいい。その後この沈黙ですよ! 何とか話題をひねり出そうにも前世まで思いを馳せて結果がこれとは……。

 こういう時前にやってた乙女ゲームだと話題とか選択肢が出てきて選ぶだけだったのに!

 

 まあ待て。いや待ってくれ。

 なんで私、アルダール・サウルさまのこと引き留めちゃったんだろうねほんと……!!

 こっちから誘っといて言葉一つ発さないもんだから向こうも困惑気味じゃないのさ、こういうのってなんていうか知ってるかい……気まずいって言うんだよ! 勉強になったね!!


 しかも私の脳内ではむかーしやった乙女ゲーム風に選択肢が出てくる。



    あの方 が 目の前に ……!!

      → よし、告白しちゃおう!

        挨拶しておこうっと。



 いやいやいや? 落ち着こうか私?

 どうしてその二択なのかなあ!


 というか私の方が『園遊会が終わったら』と言ったのに告白するとかハードル高すぎでしょ。

 そもそも告白なんぞするつもりではありませんが。ええ、ありません。ないっていうかできないが正しいですけどそんなことは些細な違いでしょう?!


「……ええと……、何か警備のことなどでご心配なことでもあったんですか?」


 ほらーあああああ!

 気を使わせちゃったじゃん。こっちが何も言わないから結局アルダール・サウルさまに喋らせてるし! しかも内容真面目か!!


 まあ呼び止められたんならまず気にするべきとこだよね。お互いお仕事頑張りましょうねってこの間言ったばっかりだし。いやでもそうじゃないんだ……警備については心配とかしてないから。

 そうだよね、私から時期を指定しておいて自覚した途端にこれっていうのはどうなのよ。でもなんだかこう……もやもやっとして、いらぁっとして、そんでもってもにゃっとしたもんだからさあ!

 何言ってるかさっぱりだって? 私だってサッパリだ。


「いえ……」


「そうですか。……あの、何か相談ですか? 私で力になれるならば、」


「あの!」


「はい」


「あの……えっと……」


 そんな真摯に心配そうにこっち見てくるものだからそんな御大層なものじゃないって言いたいところなんだけど……いや、この勢いに乗って……いやいや、だから私告白とかそんなの無縁だったわけで……。

 あああああどうしたらいいんだこれ、どうするんだこれ!


 私の手の内にカードはなぁんにもないわ!

 百戦錬磨の女ならこのくらいしれっとどうにかできるかもしれないけど生憎私はモテない仕事メインに生きてきた女だからな! 仕事のことならともかくこういうのはやっぱり私には圧倒的に経験がないんだなあ……。


「……、お聞きしたいことがありまして」


「はい、なんでしょうか」


「どうして……私だったんですか?」


「え?」


 もうここは腹を括って聞いてしまおう。


 ここにきてやっぱり何もありませんただお茶をしたかっただけですとか言えないし。

 そもそも気になっているから呼び止めたりとかしちゃったんでしょ。

 「あとちょっとあなたと同じ時間を過ごしたいの……!」とかそんな色っぽい話ありえないでしょ、私ですよ。


 いや、ほら、告白とかじゃなくてね? 好きだって自覚はしたの。うん、私はアルダール・サウルという男性に恋愛感情を抱いている。それは間違いない。

 で、私が彼を好きで彼も私を好き。はいはいハッピーエンド。っていうわけにはいかないんだよね。

 だってさ、彼は私の仕事をしている姿とかそういうのを見て良いなあって思ってくれたかもしれないけど、こういうモテない女の部分っていうのは正直みっともないって自分でも思うわけですよ。

 今だっていっぱいいっぱいで子供か! って自分でツッコミたいくらいだもの。


 それでもって、私はやっぱり前世からここまでずっと、自分が傷つくのがすっごく嫌なんだよね。

 自分がモテるはずがない、異性として好かれるに魅力が足りないって思ってるから。今世だって、お父さまに散々美人じゃないとか可哀想とか言われたしね……?

 だからこそ、こういう間抜けな私の部分を見て幻滅される可能性だって大きいわけでしょ?

 そうなる前に、傷つく前に……諦められたら、傷は小さくて済むじゃない。


 わかってる。

 それはかなり卑怯なことだ。特に大人なんだからこそしっかりしろよと思うけど、大人だからこそ卑怯なのかなとも思う。


「アルダール・サウルさまは、その……お心をくださいました。とてもびっくりしましたし、お返事は園遊会の後でとお約束もしました。ですが冷静になればなるほど、貴方のような、女性に好かれるような方が何故お心をくださるのか理解できないのです」


「……そんなに不思議な事でしょうか?」


「え? だって私は、こう……愛想がある方ではありませんし。見目もぱっとしませんし……着飾ったりと華やかなことも苦手ですし……」


 それはそれはアルダール・サウルさまも驚いたような顔をしていました。目を丸くしちゃってまあ。

 えっ、そこ驚くところなのかな?

 自分で自分を評価してみるとおやおや……なんか悲しくなるぞ?!


「人を好きになることに、理由など後付けでしかない気がします」


「そう……でしょうか?」


「貴女と同じように仕事が出来たり頑張っている人はたくさんいると思います。ですが、私にとってそれは貴女だから好ましいと思いました。ユリア殿を好ましいと思うからこそ、貴女のすることが好ましい。そう思うのです」


「……」


「いえ、きっかけは当然あったと思います。あえて挙げるとするならば、弟のあの茶会の席で貴女が凛としていながら王女殿下に向ける優し気な眼差しに惹かれたのだと思います。噂を鵜呑みにして貴女が統括侍女殿のような女性だとばかり思っていた自分が情けないとあの時思ったものです」


「まあ!」


 統括侍女さまと同じって。

 あんなに怖い……おっと失礼、威厳たっぷりな人間に見られてるんだろうか。愛想がないとか表情筋が仕事してないとか色々言われていることは知ってたけどさ……?

 あの時そんな風に思われてたとは知らなかった。いや、あの時はディーン・デインさまのお兄さま、くらいの認識だったしね。


「それから、貴女に会うたびに。貴女と言葉を交わすたびに、ユリアという人物のことを知れば知るほど好ましいと思ったんです」


「……あの、もう、結構で、」


「凛としている仕事姿とは別に、王女殿下や弟に向ける眼差しの優しさや、私への気遣い、小物などに気を使う細やかさ。そういうところがとても女性らしいと思うし……飾り気がないと仰るならば私が贈ったもので飾らせてすごく甘やかしてさしあげたい、なんてことも思います」


「ああああああのっ、ですからっ、もう、結構で!」


「正直に申し上げただけですが」


 くすくす笑っている辺り、私の動揺する姿を見て面白がっているような気がしないでもない。

 ……でも、じゃあ。私が社交界デビューの時のおたついていた姿を見ても。良い年齢の大人がみっともなく狼狽える今みたいに情けない感じでも。


 それでもいいっていう、ことなのかな?


「……ユリア殿?」


「お心を、私が……私なんかがいただいてもいいのでしょうか」


 本当に、嬉しいよ?

 好きだと気付くのが遅かったけど、好きだと思っている相手に想ってもらえるっていうのは心臓がつぶれるんじゃないかってくらいドキドキするけど、そのくらい嬉しい。

 だけど、私は臆病だから。アルダール・サウルさまみたいにすごい人の気持ちを貰うなんて、分不相応だって思うんだよね。


「私が、ユリア殿をお慕いしたのです」


「……」


「ですから、どうか……私が、貴女を慕うこの気持ちを、お許しください」


 どうしてこの人は、こんなに優しいんだろう。

 私がこんなにもみっともなく臆病で、受け入れるだけでいいことも受け入れられなくておどおどしてるのに。いい加減にしろって言われてもしょうがないと自分でも思うのに、ただ想うことを許して欲しいだなんて私に急がせることもなく、困ったように笑ってる。


 困らせているのは私なんだけどさ。

 私を甘やかしてどうしようっていうんだろう。


 どうしてこんな風に甘やかしてくれる人を拒めるって言うんだろう!


 私なんか、って言葉に対して良くあるような「私が思う女性を『なんか』呼ばわりしないでください」とか言わずに自分が好きなことを許せとかもうさあ、どんだけ恋愛レベル高いのさ。私がどう太刀打ちしろって?!

 いや、太刀打ちって別に戦っちゃいないけどさ……。


「ああもう! アルダール・サウルさまはどうしてそんな……!」


「ふふ、……余計混乱させてしまったかもしれませんね」


「え? いや、そんな……」


 一方的に文句の気持ちばっかり出たけれど、アルダール・サウルさまは悪くない。

 今この状況に関して言えば私が期限を言っておきながら、自分のために疑問に答えてもらっているわけだからね。

 でも、彼はすごく優しく笑って、ちゃんと……かなり恥ずかしいことを言われたけど、答えてくれた。

 その上で答えを急かすわけではなく、ただ想うことを許せと言っただけだもの。


「さて、そろそろ遅い時間になりました。お暇せねばなりませんね」


「あっ、……そ、そうですね」


「美味しいお茶をありがとうございました」


「いえ……」


 優雅な所作で席を立つアルダール・サウルさまは私に対して態度を変えることはない。

 私はみっともないくらい、あんな風に取り乱して……もう、あの方だって私の答えを察してるんじゃないの?


「ユリア殿」


「はい?!」


 おっと急に声を掛けられて動揺しちゃった。変な声が出なかったかしら今。


「正直な気持ちを、私は伝えております。それだけは、信じていただけたらと思います」


「アルダール・サウルさま」


「それでは、園遊会で」


 ……そのままさっさと行ってしまったあの人の後ろ姿を見て私は思う。

 っていうかこれしか思い当たらなかった。


(うあああああああああ、アルダール・サウルさまマジイケメン……)



 乙女力?

 私にそんなのを求めてはいけない!!

乙女力ナニソレ、な主人公であった。

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