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結局のところ、バルトチェッラ侯爵様がスカーレットに縁談を持ち込みたかったのは事実なのでしょう。
次男くんがどのような人物かは存じませんが、まあ弟に慕われる程度には家族仲が良いと判断できます。
だからって本人たちの相性がいいかどうかは別問題ですけどね。
後はもう私がどうこうできる話ではないと思うし、婚姻に関してはもうピジョット家とバルトチェッラ家で話し合いできたら……って感じじゃないでしょうか?
ただまあピジョット家は恋愛結婚を推奨しているようですので、スカーレットが良しとしなければお見合いも成立しないことでしょう。
今は仕事が楽しそうだから却下するような気がします。
それで泣きつかれても私はノータッチを貫くつもりですよ。
やっぱりここは先輩としても王女宮筆頭としても、私としてはスカーレットの味方をしたいですからね!
最後までしっかり笑顔でバルトチェッラ侯爵家のお二人の姿が見えなくなるまで見送ってから私は肩を軽く回して一息つきました。
それから戻ると、待っていたのは可愛い後輩たち……ではなく、ニコラスさん。
相変わらず胡散臭い笑顔は変わりませんが、私の姿を見るなり「おや?」という感じに小首を傾げたので悪い話を持ってきた……ってわけではなさそうです。
まあ聞いてみないとわかんないんですけど!
なんせね、悪い話ってのも聞いてみたら人それぞれの感想を持つものですからね!
でも大抵ニコラスさんが持ってきた話ってろくでもないんだよなあ!!
「いらしていたのね、ニコラス殿。急ぎの用件かしら?」
「いいえ? バルトチェッラ侯爵家の方々と何やら問題があったようですので、お力になれたらと思いまして」
「あら、それはありがとう」
ほほう……善意ですか。
そこで恩を売って今度は何倍にして返せって話なんでしょうかね?
さすがに完全なる善だなんて思っちゃいませんよ。
それはニコラスさんが相手じゃなくてもそうです。
私がいくら甘ちゃんでも、そこまでじゃないですからね!?
「ですが幸い私の裁量でなんとかできそうでしたから、お気持ちだけ受け取っておきますね。ありがとう、ニコラス殿」
「さすがユリアさまですね!」
なにがだ。
思わずそう突っ込みそうになりましたが勿論、無言の笑顔で応じましたとも。
まったくこの人を前にするとついつい突っ込みたくなってしまうんですが……なんでですかね。
「それにしてもピジョット嬢も大変ですねえ。バルトチェッラ侯爵家のご子息たちといえば、なかなか性格が変わった……おっと、違う。面白い……いえ、個性的……、うーん」
少し考えてからポンッと手を打ったニコラスさん。
大変楽しそうですね?
「ぶっ飛んだところのある方々ですので!」
「言葉を探すのを放棄するの、止めていただけません!?」
くっ、我慢できなかった……!
これはつい言ってしまうのも無理からぬことでしょう。
しかしなんだその『性格がぶっ飛んだ』って。
いや、まあ?
スカーレットも出会った当初は侍女たちの間では『ぶっ飛んだ』性格の子として有名だったわけですから?
珍しいわけでは、ない……のかも、ですが。
バルトチェッラ侯爵家の子息たちって言い方となると……ねえ?
「まあ悪い意味ではございませんよ。なんというか……特化型と申しましょうか」
「特化型?」
「はい。ご長男は能力の全てを経営と社交に振った青年で、ご次男は運動神経が抜群で声の大きな青年ですね」
(言い方ァ!)
いえ、なんとなく先程会った感じでも伝わるのが怖いところですが。
長男と次男で正反対タイプなんですね。
そういう意味では三男が両方のいいところを……? とちょっぴり期待したいですがどうなんでしょう……。
どっちもの悪いところを見習っちゃったパターンってのもあり得る……?
(……スカーレット次第ですが、オススメしたくないなあ……)
思わずニッコリ笑顔のままそんなこと考えちゃいましたよ!!




