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「……なるほど?」
「まあねえ、私だって色々考えたのよ?」
「道理でハンスがへとへとになって戻ってきたわけだ」
くすくす笑うアルダールですが、私は笑えませんよ。
まったくもう!
あの時ちゃんと考えてはいたんですよ?
ただ甘い顔をしたってわけではありません。
王宮所属の侍女とのトラブルなんだから、厳格に対処するべきかどうかってね。
でも王宮の外で、個人としての話だった……と言われればその通り。
双方共に迂闊であったことも事実。
騒ぎが広まる前に対処済みであることも事実。
ただ処罰をすればいいのか? というとそれはまた別問題なのです。
それに、現場が王宮内ではなく外側だったこともまた状況を複雑にするというか……まあ諸々厄介だったわけですよ。
そのあたりが、とても判断を難しくしたのです。
ましてや、相手はこの世界で言うところの未成年ですからね。
三男ともなればデビューせずに済ませる人もいるでしょうが、一応彼は十四才、侯爵家ですからご自宅でパーティーか何かをして済ませることでしょう。多分。知らんけど。
(……多分、ハンスさん個人でもあるけど、あの反応から察するにレムレッド家も何か絡んでそうな予感がするのよね)
だから今回はハンスさんの顔を立てて、注意だけで済ませることにしたのです。
それで同じような失敗をするなら次は容赦なく各所に言いつけますよ!
私からの苦情を受けて、親御さんがきちんとご子息を咎めてくださるといいんですけどね。
最低限、王城内での振る舞いについては親御さんが教育してくださらないと。
私は王女宮の子を守るので精一杯ですからね!
「それで?」
「スカーレットとメイナには注意をしたわ。反省文もそれぞれ三枚、ちゃんと書いてくれたし……」
大丈夫だと過信せず面会室を通すこと。
報告は正確に。
ライアンを呼んだのは良かった……そう具体的に指摘すれば、あの子たちは繰り返さないことでしょう。
ハンスくんに対してはどうするのかとスカーレットに問いましたが『偶然出会うならば仕方ありませんが、基本的にワタクシから顔を合わせる気持ちはゼロ! ですわ!』と晴れやか笑顔で言っていたので……。
でももしハンスくんの言っていたことが正しいなら、彼のお兄さんとの縁談が舞い込むのでは……?
勿論、絶対に受けなくちゃいけないなんてことはありませんが、世間の目ってものもありますしピジョット家も乗り気になっちゃうのでは……?
その場合、あの子と縁ができちゃいますけど? と思ってしまいましたが、まあ、それこそ私が首を突っ込んでいい話ではありませんからね。
スカーレットが困って私に相談してきた時にでも全力で応じれば良いでしょう。
「ハンスさまには絶対に厄介ごとに巻き込まないでって伝えておいてくれる?」
「ははっ、わかった」
アルダールが朗らかに笑ってくれたから、そちらはもうお任せです。
しかしスカーレットに縁談か……。
こうなると、働いている以上王女宮とは無関係ってわけにはいきませんものね。
いずれ、プリメラさまの降嫁についていくのがスカーレットと決まっているのですから。
何事もなければいいんですけど、ねえ。
バルトチェッラ侯爵と言えば割と温厚なおじさん……って感じの、人当たりの良い方だったと記憶しております。
ですので大丈夫だと信じていますが、いつ何が起こるかわかりませんからね!
しっかり気を引き締めて参りましょう!
人はそれをフラグと呼ぶ……(ときっと誰もがそう思う)




