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そしてやってきた園遊会前日。
幸いなことに(?)脳筋公爵が前乗りで我が家に襲撃しに来るようなことはございませんでした。
ええ、ちょっぴり心配していたんですけどね。
まああちらとしては当初の予定としては王城ではなく、王都内にある宿屋さんをご利用になるおつもりだったそうなんですが……そこはまあ、シャグラン王国からの賓客ですもの。
王城にお泊まりいただけるよう、王宮官吏たちが頭を下げたって話です。
(まあ、バルムンク公爵家としても……去年のことがあって、王城に世話になるのはいろいろな意味で複雑だったのかもしれないけど)
なんせ前回のあの騒ぎは表向き辺境伯家の一部が起こした醜聞とされていますが、シャグラン側のお家騒動やなんやらでバルムンク公爵家が狙われた……っていう部分もありましたから。
その際に先代バルムンク公爵夫妻の失態やらなにやらで我が国の王城に幾日も留められたことは彼にとって苦い思い出に違いありません。
それでも王宮官吏まで出てきて頭を下げられたのなら、貴族としての矜持があるからこそあの脳筋公爵も折れざるを得なかったのかも?
まあ我が国でも隣国からの賓客を王城でおもてなししないなんてわけにはいかないので、お互い納得できたならよかったと思います。
(噂じゃ奥方様はとても美人だって話だけど……)
バルムンク公爵夫人アドリアーナさまは、聞いた話によると凜とした佇まいで貴族女性としては珍しく、真っ直ぐな髪を肩で綺麗に切り揃えたスタイルの良い女性だったそうです。
ドレス姿だったそうですが、騎士服を着たらさぞかし……と話題になっていた模様。
アルダールによるとアドリアーナさまはバルムンク公爵家の分家筋のご令嬢で、自身も騎士として公爵家に仕える実力者。
あの性格なだけに脳筋公爵はいくら見合いをするにしても厄介な女性が入ってくるよりは……と家臣団が一致団結してアドリアーナさまを妻にするよう進言したって話ですよ。
いったい、どんな状況だったんだ……!
ちなみにですがアルダールがどうしてそんな詳しいのかというとそれはお師匠さまと脳筋公爵本人からお手紙でいろいろ一方的に教えられていたからだそうで……。
「私も会うのは初めてだが、先に会ったハンス曰く非常にさっぱりした女性だということだよ」
「へえ」
「貴族社会のご婦人としては変わり者として扱われることもあるだろうけど、身分とその堂々とした振る舞いがあれば逆に人気者になるんじゃないかとハンスは言っていたけど……」
(なんだろう、男装の麗人的な雰囲気なのかしら?)
私の中ではレジーナさんが髪を後ろで束ねて男装なんかしちゃったらまさしく! と思いますが。
彼女も凜々しい騎士で常にかっこいいですからね……!
「明日の園遊会が終わったら少し落ち着くといいんだけど」
「年末の生誕祭と新年祭があるからなあ。警備についてどうなるかはまだわかっていないんだ」
「でも生誕祭は私たちも貴族として参加するよう言われているわけでしょう?」
「まあだからミスルトゥ子爵家としての初仕事……みたいなものじゃないかな」
「ああ……そう思うと少し気が重いわあ」
そっちのドレスについてはすでに頼んであるので一月前には私もサイズ合わせに行かねばなりませんからね。
ダンスについてはアルダールとだけ踊るつもりでいれば……だめですかね?
「私はユリアと踊れるのを楽しみにしているよ。二人で生誕祭に参加するのは初めてだからね」
「……そうね。去年は、その……いろいろあったから」
プリメラさまが大天使だったこととか、ミュリエッタさんの初めての大きなやらかしとか……。
いやあ、今思い出してもあの時のプリメラさまかっこよくて可愛くて、王弟殿下が腹黒いなって改めて思わされたと言いましょうか……。
あっ、褒めてます。
「それにしてもあっという間に一年が過ぎていくわ……」
「そうだなあ、ユリアに告白してからもう一年か」
「ぐふっ……」
そうか、そうなりますよね。うん、そうでした!
いえ忘れていたわけではございません、実際には告白されたのはもう少し前と言いますかきちんとしたやりとり(?)をしたのが園遊会の後ってだけですよねわかっておりますよ記念日ィ!
……こういうところで女子力の低さを痛感致しました。
園遊会の後はちょっと後片付けとかもあるのですぐにはどうにもできませんが、ケーキの一つも用意したいと思います……!




