622
プリメラさまがお召しになる園遊会の! ドレスが!
完成しましたよー!!
オーダーメイドドレスは本人のサイズに合わせて美しさを最大限引き出してくれるよう作られているため、ここからは太ることも痩せることも許されません。
つまり、我々も気を抜けない日々の始まりです。
とはいえ、園遊会まであと一週間。
私たちは相変わらず客人のリストを頭に叩き込み、侍女としての優雅さを前面に出していけるよう侍女間でもレッスンがあったり情報交換をしたりと忙しい状況です。
どこの貴族家で御子が生まれたとか、アレルギーはないけど好みじゃないとか、妙な健康志向にはまっているらしいとか……そういう些細な情報が大事なんですよ。
それとは別にライアンが何やら動いているような気がしないでもありませんが、セバスチャンさんが何も言ってこないということは問題ないのでしょう。
(……ニコラスさんが絡んでなきゃいいんだけど)
うちのライアンに悪影響を及ぼさないでもらいたいものです!
まあ私が言うまでもなく、ライアンの方がしっかりとしていると思うのでそこは大丈夫だと思いますが。
「髪型に一手間加えたいですわね……」
「でもあんまりごてごてしちゃうと、姫様の可愛らしさを損ねちゃうんじゃない?」
「ですけれど、これまでとは違う髪型でこの大舞台に臨んでいただきたいじゃありませんの!」
化粧と髪型についてはメイナとスカーレットに任せているのだけれど、二人ともプリメラさまをいかに綺麗にするかに目覚めちゃって……ふふふ、わかりますよその気持ち!
我らがプリメラさまの愛らしさは前々から誰もが認めるところではありますが、最近は淑女としての自覚を持った上にディーン・デインさまとの婚約が正式に発表されたことで更なる輝きを放っていますからね!!
今回、プリメラさまのテーマはズバリ! 薔薇の妖精!
お好きなオレンジ色の薔薇をテーマにデザインしてもらった、ベースのドレス上に色味の違う白のシフォン生地を重ね、オレンジが透けて見える上品かつ可愛らしいデザインのものです。
薔薇のつぼみをイメージしたとデザイナーも言っておりましたが、まさしく今のプリメラさまはこれから大輪の花を咲かせるであろう予感をさせる美少女……園遊会でもきっとひときわ目を引くことでしょう!
ちなみにそのテーマに沿って、婚約者であるディーン・デインさまは胸にオレンジの薔薇を挿していただくことになっております。
初々しい二人の様子を近くで見られるなんて最高ですね……!
「ユリアさまもきっとお声掛かりが多くて大変でしょうねえ」
「……それはそうねえ」
ふとスカーレットが思い出したようにそう言うので、私は苦笑するしかできません。
とはいえ、彼女の言うことはもっともです。
なんと言ってもアルダールが注目されている中、私も陛下によって王家の墓所に足を踏み入れる許可を戴くという栄誉を賜った人間。
それについて興味を示す人が一定数いることは知っていますが、私に直接的な接触を図るには難しい。
お茶会などのお誘いもいただきはしましたが、諸々の忙しさを理由にお断りしてましたからね!
ちなみにこれは国王陛下がお認めくださってますから誰からも文句を言わせませんよ!!
(だからって結婚式を急かしたことは許さないけどね!)
ずっと心の奥底で文句を言い続けてやるんだから!!
決して口には出しませんけどね、宮仕えの基本です。
(……園遊会で今回はリジル商会に気を使うこともないし……)
今回はご夫妻が参加と聞いていますし、都合が悪くなったからと言って息子とその婚約者……つまりミュリエッタさんが参加するとは思えません。
なんせこう言っちゃ何ですが、まだまだ貴族社会において彼女の評判はあまりよくないので……治癒師として頑張っているって話は私の耳にも届いてますよ!
ただまあ、貴族としての評判は下がったままのようなので園遊会のような場に来たら針の筵とまでは言いませんが、ちょっと居心地の悪い気分を味わってしまうかもしれませんからね。
リジル商会側も、評判に拘わる問題として彼女をこうした場に連れてくることをよしとはしないはずです。
キース・レッスさまやファンディッド家に対してよくしてくださる方々にはご挨拶したいと思いますが、バウム家関連も……挨拶回りをしておいた方がいいんでしょうか。
(でもなあ、あくまで園遊会の場では私は侍女なんだから、婚家の関係で挨拶回りをするのは別よねえやっぱり)
声をかけられたらご挨拶をする程度に留めるのがやはり大人の対応でしょうね!
生誕祭の時には私もアルダールの婚約者としてきちんと挨拶回りするので、その予行練習だと思うことにしましょう!




