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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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(……思った以上にヘビーな内容だった……!!)


 読み終えた私の感想は、その一言に尽きますね。

 いやあ、ミュリエッタさんがどう感じたかどうかってのはまた本人に聞かないとわからないことも多いでしょうが……それでも彼女の『こんなつもりじゃなかった』『そんなはず』『いやだ』って発言については、なんとなくわかる気がしますよね。


 ミッチェランの創始者さんは、私と似たような感覚の持ち主だったのでしょう。

 前世のことはうろ覚えで、この世界を当たり前のものとして受け入れて日々の暮らしを大切に、前世の記憶でやりたいことを見つけたのです。

 と言っても私は専門職とかではありませんでしたし、モテ要素のない人生に慣れているから働けばいいじゃない! くらいのノリでしたけども。


 しかしチョコレートを求めて転生者に出会うって相当な強運ですよね!


 出会った〝恋人〟はミュリエッタさんに近かったんでしょうか?

 彼女は日記を読む限り、この世界を受け入れられなかったように思います。

 けれど創始者さんと共に手を取り合って店を切り盛りしたりそうしたことができたってことは、決して馴染めなかったとかそういうものではなかったんでしょうね。


(夢を見ているというか、VRで別世界を体験している、みたいな感覚だったのかしら)


 店の名前をミッチェランにしよう、ゲームの世界通りだとはしゃいでいたはずの彼女はいったいどうしてしまったんでしょう。

 彼女についてはあくまで日記の中で、創始者さんの目線でしか語られないので私たちにはわかりません。


 けれど前世を忘れられないのも、やはり難しいものなのですね……。

 名前も前世のもので呼んでもらいたかったというほどに、彼女の記憶は鮮明だったのかもしれません。


(……ヒロインのためだけの世界じゃない、かあ)


 その言葉は、大切な人を失って尚大切な存在のために気丈にふるまった男性の言葉は……ヒロインであることを自負していたミュリエッタさんにとって、辛いものだったんじゃないかなと思います。

 まあ、あくまで想像ですけれども。


(もしかしてミッチェランが王都のあの場所から一度も移転していない理由って……ずっと彼女のことを待っていたのかしら)


 一緒に建てたお店で。

 一緒に働いたお店で。

 彼はずーっと、彼女のことを待っていたんでしょうか。


 ヒロインのための世界。

 でも恋人であった彼女がいなかったら、創始者さんは別の店名をつけていたかもしれなくて。

 強制力ってやつなのかななんて少しだけ頭にそんなことが過りましたが、さすがにそれは無理がありますもんね……。


 ショコラティエでどうしてもお店をやりたい人をピンポイントで転生させて、プレイヤーの転生者と出会うまでが強制力ってさすがにこじつけが過ぎるなと自分でも思いました。

 それに強制力云々言うんだったら、今の私を取り巻く環境がまずもって破綻しているわけですから……偶然に偶然が重なって、ゲームと同じ状況を私たちが(・・・・)作り出してしまったってだけのように思います。


「はあ……」


「読み終わったのかい?」


「ええ。……わからないことだらけってのは確かだけど、特に気にするべきではないと思うわ」


 ミュリエッタさんにとっては辛いことかもしれないけれど。


 自分(ヒロイン)のための世界だと思っていたら、それを用意した人がいて……その人は、元の世界を恋しがって今の世界に生きる恋人を置いて消えてしまった。

 そして残された彼はこの世界を愛しながらも、ヒロインのための世界ではないと力強く否定したのですから。


(……誰が悪いってわけじゃないだけに、どうしようもないことだわ)


 今を生きる、ただそれだけがこんなにも難しいだなんて!

 私は曖昧に笑って、日記帳を大事に箱に入れました。返却しなくちゃいけませんからね。


(……私の世界が一変するようなことはなかったけれど)


 転生者って案外いるんだなあ、なんて。

 そんなことを思った日でした。

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