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「アルダール」
「うん」
「……アルダール」
「うん」
私が名前を呼んでも呼んでも……ああもう!
にこにこしやがってええええええ可愛いなあもう!!
そう、王弟殿下の執務室で宣言したとおり、私たちは茶会に顔を出すことにしました。
プリメラさまには『婚約式にお招きする方々が職務上、どうしても高位貴族の方々にばかりになってしまい問題も多いので少人数で行うことにした』ことと『あまり準備に時間もかけられないこともあるので、茶会などに参加してご挨拶をして回ろうと思っている』という点をお伝えしたところ、頑張ってと応援していただきました。
うちのプリメラさまお優しいでしょういいでしょう!!
ってなわけで、今日はアリッサさまの関係でお茶会に参加です。
ビアンカさまからも後日お誘いいただけるそうですが、まずはバウム家側から親しくなった方が無難だろうということで……。
やはりアリッサさまがアルダールのことを実子同然に可愛がっているということはバウム家寄りの夫人たちの間では知られている話。
ですからアリッサさまが喜んでいるということで私たちの関係も肯定的に受け止めているだろうと見込んでのことです。
持っているドレスの中から落ち着いた色合いの……って落ち着いたのしかないんですけども。
とにかく選んでアルダールと連れ立ってやってきたんですがもうね……なんていうかもうね!!
馬車の中でずーっとアルダールがニコニコしてるんですよ!
もうにっこにこですよ! そんなに嬉しそうにしないでこっちが照れちゃいますからあ!!
「今日はそんなにその、気合い入れる必要はないんですからね……!?」
「うん、でも嬉しくてね」
ニコニコしたままのアルダールが私の左手を取りました。
そして薬指に軽くくちづけをし、蕩けるような笑みを浮かべて上目使い。
ううっ、見慣れてきたとはいえ破壊力ぅぅ……。
「これまでもユリアは私の恋人だと堂々と宣言していたつもりではあるけれど、公の場で婚約者と言えるのはやっぱり気分がいい。早くここに指輪をしてもらえるよう、婚約式を調えなくてはね」
「そ、そうですね……」
んんんんっ、甘い。あっまーーーーーい!!
こうなったらもうアルダールは止まらないっていうか、いいのかこれこんなアルダールを外に出して他のお嬢さんたちが色気にやられちゃわないかしら、これからの出会いに影響出ちゃわない?
アルダールみたいな人と出会いたいとか言ってもこのレベルの人はいないだろうし逆に愛人志願が出てきちゃったらどうしましょういやもう私以外眼中にないって態度を見せて諦めてもらう計画でした大丈夫かこれ。
(いやでもこれからはアルダールとこうやって夜会にも出なくちゃいけないんだから、味方の多い場所から少しずつ、少しずつ慣れて……私が慣れないとだめだ!)
アルダールの色気に惑わされるのは世のお嬢さん方だけではありません。
一番影響を受けるのは誰であろう、そう、私ですからね。
今だって正直普段とは違う装いで多少はまあ、華やかな装いっていうか髪型を変えて華美にならないけど未婚の女性らしくしていますのでね。
こう、侍女生活での気合いが入っている状態ではありませんのでつい赤くなってしまうというか表情が緩むと言いますか……。
「んんっ、ゴホン。今日はアリッサさまが同じ派閥の中でも親しい方々と茶会をなさるとのことで、ご家族で参加しておられる方も多いのよね?」
「ああ、そうだね。さすがにシーズンではないから夫君は職務を優先するようだ。まあ私のように騎士職に就いている人が多いから当然といえば当然かな。代わりに子供たちを連れてくることが多いらしい。今後の顔見せと言ったところだろうね」
「そこで私たちの様子を見聞きした彼らが学園やその他で話に花を咲かせてくれるといいのだけれど……」
夫人たちの噂とはまた別に、子供世代が実家関連で見聞きしたことを話の種にするなんて良くある話……らしいので、それに期待ですかね。
「私たちは結婚する前のご挨拶をして回っている、お目にかかれて嬉しいといった感じで話をすればいいですね。……あまり会話として話題に出されたくないのは何がありますか?」
「そうだな、親父殿と上手くやっているのかとか、王家との繋がりがどうかと問われるのは濁して答えようか。子爵位を賜った後に陛下から今もお声がかかるかどうかとか、気にする人はしているようだしね……まあ、義母上の知人が多いならそんなことを言ってくる人はいないと思うけれど」
「気をつけるにこしたことはないし、私の方は……そうね、プリメラさま関係のことで細かく話を聞いて来たがる人は避けたいかしら。憧れを抱いているというだけならいいけれど、その純真な気持ちも利用しようとする大人がいないとも限らないし……」
「うん。あとは私たちの結婚についてあれこれ言ってくる人は覚えておくとしよう。義母上にも相談はするけれど、これから警戒する相手だと思えば……」
「そうね、いつまでも親の庇護を求めてばかりはいられないし」
社交初心者だから最初は人の手を借りることも致し方ありませんが、いつまでも……というわけにはいきません。
私たちもいずれ、少なくとも来年には『ミスルトゥ子爵家』としてあちこちに呼ばれ、国家行事にも参加するようになる立場である以上これは学びの機会と考えて経験を積ませていただこうではありませんか。
くっ……しかしこうやって毎回ドレスアップしてこの甘い表情を浮かべたアルダールと並んで歩いて笑顔で挨拶か……ハードル高いな!
少なくとも結婚してから最初の一年間は社交でお招きしてもらう機会も多いでしょうし、新婚期間ってこともあってアルダールがこの状態なのは予想ができるから私がどう耐性をつけていくかが課題でしょうかね!
(それにしても、プリメラさまの社交用の服を考えたりするのはあんなに楽しいのに自分のこととなるとどうして面倒なのかしら……)
今はメイナとスカーレットに手伝ってもらえるけれど、自宅に移動したら新しく雇った侍女と足並みを揃えて頑張っていかないといけません。
予算内であれこれ考えることも、商人に発注をかけることも私の得意分野ではありますが……それを自分に向けるとなると、こう熱が入らないんですよねえ。
まあいつまでもそれじゃ困るので、自分でも気合いを入れ直して頑張ります。
「……それじゃあ行こうか、ユリア」
「ええ、初めて二人で社交をするけれど……いつも通りでいけば大丈夫」
「そうだね。……だけど、私たちの仲を見せつけるのが主目的なんだからそれを忘れずに、ね?」
「わ、わかってる……わかってますとも」
すりっと耳元を指でなぞって笑うアルダールに、どうしてドキドキしないでいられるっていうんでしょうか!
ああ、もう! 今からそんなんじゃ心臓が持たないんで止めてもらえますかね!!
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