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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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「転生しまして、現在は侍女でございます。」コミックス5巻が3/11発売です!

 到着してすぐ、私たちを出迎えてくれたのはディーン・デインさまとメレクでした。

 相変わらず仲良しのようで、大変微笑ましいです。


「私たちが最後になってしまったのね、待たせてごめんなさい」


「いえ、大丈夫ですよ姉上。僕らは早く着いてしまっただけなので……ほら、ファンディッド領からここは少し距離があるでしょう? だから早めに出てしまって。御者も不慣れな道でしたからね、十分休憩を取れるようにと配慮したんです」


「うちは母上が折角なら早く行って観光もしたいと言い出したからだし、兄上たちもお気になさらず!」


「そうか」

 

 出迎えてくれた二人によると、なんと意外なことに両親たちはすっかり打ち解けたっていうんですよ。

 ちょっと驚きじゃないですか?

 あのコワモテなバウム伯爵さまと小心者のお父さまが仲良くなってチェスをしてるっていうんですから!


「まあチェスで勝負するというよりは、父上がバウム伯爵さまに手ほどきしていただいているというか……」


「チェス嫌いのお父さまには辛くないのかしら」


「それが、バウム伯爵さまの教えがよほど上手なんでしょうね。あの父上が楽しそうにしてらっしゃいますよ」


「まあ!」


「そのうち、家でも練習するようになるかもしれませんね」


 クスクス笑うメレクですが、実は結構チェスが好きなんですよね。

 お姉ちゃんは知ってますよ!

 それなのに、勝負事全般が苦手なお父さまはチェスも苦手だったので、なかなか相手をしてもらおうにも遠慮していたのだとお義母さまから聞いていましたのでこの変化は大変嬉しいものでしょう。


(でもそうやって考えると、お父さまはよく賭博なんかに手を出したものよね……)


 きっかけは領地の運営費をなんとかしようというものだったのでしょうが、最終的には大公妃殿下に対する憧れの一心で賭博場まで足を運んでいたのかしら。

 まあチェスを勝負事と捉えるよりも、親しい人とのコミュニケーションツールの一つとして楽しめるようになれたのであれば幸いです。


「それにしてもバウム伯爵さまはチェスがお好きだったの?」


「いや。軍の駒遊びと同じような感覚だと思うよ。だけどほら、あの人も親しい友人っていうのがクセのある人ばかりだから、ユリアのお父さんみたいに裏のない穏やかな人といて落ち着くんじゃないかな」


「なら、いいのだけど」

 

 ちなみにアリッサさまとお義母さまに関しては、二人とも割と穏やかな性格だから打ち解けるのもなんとなくわかります。

 女性陣は刺繍の話題で盛り上がっていたんだとか。


 ディーン・デインさまとメレクは先ほどまでこのホテルの中庭を散策していて戻ってきたところ、ちょうど私たちの到着が見えたので来てくれたんだそうです。


 本当に可愛い弟たちだこと!!


「俺、今日を楽しみにしてたんだよ」


「メレク殿に会えるからか?」


「それもだけど! 兄上の結婚だよ、結婚! しかも相手がユリアさんだから、俺嬉しいんだ!」


「……そうか」


 ディーン・デインさまのはしゃぐ姿にアルダールが目を細めて笑いました。

 まるで、眩しいものを見るみたいに。

 手を伸ばしてくしゃくしゃとディーン・デインさまの髪を撫でる彼の表情は、どこに出しても恥ずかしくない兄の姿です。


 出会った時から、アルダールは複雑な気持ちを抱えながらもディーン・デインさまに対しては常に優しい表情をしていましたものね。

 今となってはわだかまりも解消できて、ただ弟を可愛がることができるようになったのでしょう。


「僕も嬉しいです」


「ディーン・デインさまと親戚になれて?」


「もう! 姉上、意地悪なことを言わないでくださいよ……」


 メレクが照れたように不貞腐れる姿を見ると、領主代行で頑張っている青年なんだけどやっぱりまだまだ可愛い弟で、いやいや一生可愛い弟だな!


「……メレクにエスコートしてもらって社交界デビューを果たしたのが、随分前の話みたいだわ」


「そうですね、そんなこともありましたね。あの頃は姉上も結婚とかそういうのは考えられないって言ってましたけど」


「本当、不思議なものね」


 笑い合う私たちでしたが、メレクはすっと大人びた表情を浮かべて姿勢を正しました。

 そして私の隣に立つアルダールを見上げ、深くお辞儀をしたのです。

 唐突なその行動に私が目を丸くしていると、メレクは顔を上げて口を開きました。


「バウム卿。姉はこれまで大切な人たちのために自分のことを後回しにしてばかりでした。その姉がこうして自分の幸せを手に掴んだこと、弟として御礼申し上げます。どうか、姉をよろしくお願いいたします」


「……メレク……」


「それを言ったら俺も、ユリアさんにお礼を言わなくっちゃな。ユリアさんがいてくれたから、うちの家族も仲良くなれたし、兄上も自分の幸せを選んでくれるようになった。本当に、ありがとうございます!」


 可愛い二人にそんなことを言われて、まだちゃんとした顔合わせの会をしていないのにもう泣いてしまいそう!

 思わず感動で目が潤んできた私ですが、アルダールもきっと同じような気持ちなのでしょうね、幸せすぎて困ってしまうみたいな表情を浮かべています。


 そんな私たちを見て、二人の弟たち(・・・・・・)は満面の笑みを浮かべて私たちの背に回り、とんと背中を押しました。


「さあ、行きましょう」


「母上たちも楽しみにしてるんだ」


 ああ、幸せだなあ。

 でもこの幸せは間違いなく、私たちが掴んだものなんだなあ。


 何度も何度も噛みしめる、この気持ちはなんと名付けたらいいのでしょう。

 いいえ、名付けるなんてとんでもない。


 ただ、幸せなんだってことだけわかっていればいいのです。

 ここに来るまでがあれこれあっただけで、ちゃんと私たちは私たちのペースで歩んできた。

 それだけを理解して、祝福してくださる方々に顔向けできないことだけは決してしないように生きていこう。


「それじゃあ行こうか」


「はい!」


 これからの生活とか、まだ終わっていない公務とか、ミュリエッタさんのこととか……少しだけ気になることはあれこれありますが、それでも今は、忘れていいでしょう。

 

 というか、忘れないとそれはそれで後で話を聞きに来たビアンカさまに「何してるの!」って叱られる未来が見えた。間違いない。


(……ナシャンダ侯爵さまの養女になる件とか、一体どうしてそうなったって話は今でも頭の片隅にはあるけど、それもこれも全部引っくるめて問題ないってことなんだろうし。バウム伯爵さまが早々にリタイアしたがっていることとか、あれこれあるけどそれについてとかは今回話すのかなあ)


 いやいや、そんな込み入った話はないか。

 そうですよね!


 でもこれって結構、親戚付き合いする側からしたら大事……でもないか!

 お父さまも仲良くなったなら隠居後は遊び友達になれるし。

 ディーン・デインさまが継いだとしても代官を置いているだろうし、メレクも先輩領主として相談には乗れるだろうし。


 アルダールと私は城下に暮らすし、騎士爵だからバウム家の跡目争いも消えるだろうし。


 ……うん? あれ?

 なんかすごく上手くまとまってない?

 脳内であっという間に解決してしまった!!


(これはもう、単純に顔合わせを楽しめってことで……いいのかな)


 そうですよね。

 悩んでばかりじゃ白髪が増えるというものです。


 いや! 私に白髪など! ない!!


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