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「は、え……いえ、叙勲式が行われるということは存じておりますが、私も同席……でございますか?」
「ああ、そうだ。おそらく近日中に統括侍女殿から詳しい話が行くと思うが……そのつもりでいてほしい」
叙勲式については勿論、この国における公式行事です。
以前ウィナー男爵が叙爵されたのとは違って、定期的にこの国では騎士や文官、国に尽くした人物を表彰する式典があるのです。
それは華々しく国内に示されるようなものではなく、あくまでその功績を称え、認めているとするもので……でもそれを国王陛下が直接褒めてくださる機会がある、そこが重要なのです。
たとえどんなに努力してもそれを認めてもらえないとやっぱり辛いじゃないですか!
とはいえ、この王城内だけでなく国内の騎士や文官も含めると相当数になりますので一生に一度でもその栄誉に与ることができたならばそれは砂漠で砂金を見つけるくらいの、ものすごいことなのだと言われております。
これまではプリメラさまは未成年で公務を担っておられないということで参加するに能わずと王妃さまより申しつけられておりましたので不参加でしたが、今年からは参加と決まっておりますので……当然、そうなれば筆頭侍女たる私も予定を知っているというものです。
(同席……!?)
でもその予定を知っていても同席するってことの意味がわかりません!!
基本的に侍女である私がその式典に参加することはないんですよ。
ええ、だって裏方ですもの。
式典の準備ですとかプリメラさまの衣装その他諸々については勿論忙しく動く立場ではありますが、式典そのものは文官がたのお仕事なのです。
参加するにしたってお偉方……国王陛下と公務を担う王族の方々、それから高位貴族の方々、王城内で高い地位の役職についておられる方々、表彰される方々。
表彰状や表彰される方を案内したりなどの進行役を担う文官、神官の方々。
それから陛下の護衛としての近衛騎士が数名、会場を警護する騎士たちといったところでしょうか。
普段でしたらそのような形になりますので、侍女が〝同席〟するなど聞いたことがありません。
ですからベイツさまの言葉に困惑するなって方が無理な話なんですよね。
勿論、そのことについてはベイツさまもご存じだからでしょう。
困ったように笑みを浮かべたかと思うと、アルダールに視線を向けました。
「今回、アルダールも表彰に値する働きをした人物の一人として認められたことはとても喜ばしいことだ」
アルダールはその言葉に、身じろぎせずベイツさまを見返していました。
確かに、彼の働きはこれまでも堅実でしたし……昨年の園遊会ではモンスターを撃退したし、その後もバウム伯爵さまの仕向けたこととはいえモンスター退治を各地で行うなどそれはもうとんでもない活躍だったのでは?
むしろこれを認めず誰を認めるんだって思えば、そうですよね。
アルダールが公に頑張ったのだと褒め称えられると思うと嬉しいな!?
あんまりにも驚いていましたがその事実にジワジワと喜びを感じてにやけそうになる表情筋を律するのが大変です。
しかしアルダールは違うようで、ベイツさまが呆れたように言葉を続けました。
「ファンディッド嬢と結婚し、騎士爵になり近衛騎士として生きていくと決めたのだろうがこの表彰はそう悪いもんじゃない。バウム家に頼らずとも、お前が生きていく中で役に立つものだ」
「……わかっています」
「目立ちたくないのはわかっちゃいるが、男爵位くらい実家からせびったっていいんじゃないか? 国家から俸禄がもらえるから新生活には大助かりだぞ?」
ベイツさまの言葉に私は目を瞬かせました。
爵位でもらえる俸禄を新生活用にどうだって勧めるのってどうなの?
庶民的というかなんというか……いや、新生活って確かに何かと物入りですけども。
それに新生活って言っても私たちはまだ正式な婚約すら調っていない状態だから、ちょっと先走りすぎじゃないのかと思わなくもないんですが……いや、こういうことこそ先を考えて準備しておけよってことなのか?
「できれば、バウム家から爵位をもらいたくないんです。……立身出世を強く望んではおりませんが……」
ちらっとアルダールがこちらを見ました。
うん? あれ、それってもしや私との暮らしを考えて出世を私が望むなら頑張るよってことですかね?
(出世、出世ねえ……)
確かに、役職があがると給与もボーナスももらえる額面は多くなりますけどその分、責任や面倒ごとが増えるのは確かです。
今はまだ私も働いていますし、プリメラさまが降嫁した後も働きたいと思っていますから収入に関してはそこまで慌てていないっていうか。
(私もアルダールもそこまでお金を使うような趣味があるわけでもないし……それなりにこれまでの稼ぎを貯金もしているし)
そう考えると、慌てて出世して! っていうようなことはないんですよね……。
出世するために努力する人のことを否定するわけではありませんが、私たちに関しては特別急ぐ必要は感じません。
(この点については後で話し合う必要がある、かな?)
今この場で話すようなことでもありませんしね!
私がそう心の中で結論づけてベイツさまを見れば、あちらも私の方へと視線を移しました。
そして目を細めるようにして笑ったのです。
「なるほど、ファンディッド嬢もその考えには賛成してくれているようだ。良い婚約者殿だなアルダール」
「……そうですね、私には勿体ないほどの女性だと思っております」
「ア、アルダール!」
「ははは、お前に堂々と惚気られる日が来るとはなあ!」
アルダールの言葉に私は思わず狼狽えてしまいましたが、ベイツさまは楽しげに笑うばかりです。
うう、人前でそんな風に褒められるとは思いませんでした……なんだこれ、どんな羞恥プレイ……。
これは後で注意しておかねば!
今後もこのようなことをされては私の身が持ちません。
あんまりそんなおおっぴらにされると恥ずか死ねるし、折角アルダール狙いの人たちが最近諦めてくれたのに妬まれて嫌がらせが再燃するかもしれないじゃないですか!
いやまあ、嫌がらせはもうほぼないのであんまり心配してませんけどね。
なんでか割と高位の貴族夫人方が私に対して好意的な態度を見せてくださるおかげで、嫌がらせの方はかなり下火になってきたんですけど……きっとビアンカさまかアリッサさま、どちらかが手を回してくださったんだろうなあ。
もしかしたら両方かも?
なんにせよ、頼もしい方々のおかげだと思って毎日感謝しています。
「まあ、その件については二人の問題だから私はこれ以上口を挟まないでおこう。ただ、お前も表彰される身だからな、おそらく多くの貴族たちが注目し、そして騎士爵となるお前を囲い込もうとするだろう」
まあ、そうでしょうね。
私も想像できることですから、アルダールがあまりいい顔をしていないのはそういうのを考えてのことなのでしょう。
いくら名誉なことだとはいえ、それが立身出世の役に立つからこそ喜ばれるってのも要因の一つなのです。
有能な人材を求める人は多く、その人材を自分たちの派閥に加え、力をつける……うーん、わかりやすい!
元々アルダール自身、次期剣聖なんて呼ばれている段階で注目株ですからね。
これまでは〝バウム家の長男〟であったが故に婚姻以外での囲い込み方法が見つからなかったのでしょうが、騎士爵になるとなれば話は別。
そういう意味ではバウム家から爵位を譲ってもらうというのは、バウム家に所属する者である……ということで派閥の目を誤魔化すこともできるのだと思います。
ベイツさまが仰っているのはそういうことでしょうし、きっとアルダールもそのことは理解しているのでしょうが……そこは複雑なところですね。
自分の力で生きて、柵から解放されたいと思っているアルダールからしてみれば爵位を譲ってもらって……というのはあまり状況が変わっていないようにも思えてしまいますから。
(うーん、難しい!)




