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さて、そんな物騒な感じから数日後、私の元にまたまたお客さまが訪れてこられました。
なんとね、そのお相手。
今度はバウム伯爵夫人アリッサさまだってんだから、面会室に大慌てで向かいましたよね!!
エイリップ・カリアンさまの時と対応がえらい違うって?
そりゃそうでしょ、好感度がまずもって違いすぎますもの。天と地ほどの差があるわ!
勿論プリメラさまにはご許可いただいてからの行動ですよ。
職務放棄なんていたしません。
今度お茶会をする予定なのにどうしたのかとプリメラさまが心配しておいででしたが、私個人に面会申し込みなのでおそらく茶会とはまるで関係ないのだと思います。
でも、本当に何事でしょうか。
ここのところ物事が順調に動いていると思っていた傍からこれですよ!!
「お、お待たせいたしました!」
「ユリアさん! ごめんなさいね、お仕事中に……」
「いえ、アリッサさまがおいでになるということは、大事なことかと思いますから」
「ありがとう」
面会室の個室をとってまでのお話となれば、何かあるのだろうと思うじゃありませんか。
思いますよね? 普通。
とりあえずアリッサさまが着席してから私も対面で座らせていただきました。
「お茶を運ばせましょうか?」
「いえ。……長くなるお話でしょうか?」
「いいえ。今日はね、ユリアさんに謝罪をしに来たのよ」
一度断りはしたものの、話が長くなるならお茶をもらったほうがいいかなと思っての質問でしたが、思いも寄らない返事がきました。
「謝罪……ですか?」
「ええ。アルダールから連絡が来てびっくりしたの。もうそちらに話が行っていただなんて……」
「アルダール……」
恋人の名前に、私と彼の間に何があったっけ?
疑問符が頭の上を飛び交いましたが思い当たるところが一点。
そう! エイリップ・カリアンさまの存在です!!
というか、パーバス伯爵家からの横槍の件ですね。
しかしそれで何故アリッサさまが謝罪をするのでしょう。
再び疑問符が頭の上を飛んだところで、大きなため息と共にアリッサさまが口を開きました。
「実はね、アルダールと貴女の婚約の件、パーバス伯爵に話したのはうちの人なのよ」
うちの人。
アリッサさまがそう呼ぶのなんて、お一人しかいらっしゃいません。
そう、バウム伯爵さまですね。
「あの人ったら何を思ったのか、いいえ、何も考えていなかったのでしょうね。多分浮かれていたんだと思うけれど……パーバス伯爵が軍人出身だというのはご存じかしら? 爵位を継ぐにあたって退役なさったのだそうだけれど」
「は、話は義母から聞いたことがございます」
詳しくは知らないけどね!
お義母さまも兄妹仲が悪くて職務に口を出すなと言わんばかりの態度だったから、軍人らしいってのを人づてに聞いたとかそのレベルだったらしいし。
正直、お義母さまも私もどうでもいいっていうか興味がないから別に知ろうとも思わなかったんですけど。
「それでね、どんな理由でかは知らないけれど登城してきていたところにばったり出会ったとかで夫がパーバス伯爵家とも縁続きになるから、そろそろ両家共に親世代の確執を忘れないかって話をしたらしいのよ……」
「は、はあ」
え? ちょっと前向きすぎないかな?
そう思ってしまう私が物事を悪く捉えすぎなのでしょうか。
まあ確かに現パーバス伯爵からしたら、先代のモラハラ責任とはいえ煮え湯を飲まされたと八つ当たりされ続けただけなので、由緒あるバウム家と仲良くできるならそれにこしたことはない……と考えればかなり良い話ですよね。
そもそもがパーバス伯爵家がバウム家を嫌っていたってだけですけど!
(でもまあ、そんな将来を見据えての建設的行動を現パーバス伯爵も起こせなかったんだからあの妖怪爺にして現当主ってところか……)
どうせその話を聞いて今度はこっちが奪ってやる! とかそんなことを考えて、私とエイリップ・カリアンさまを結婚させようなんて思ったんでしょうね。
どうして上手くいくと思ったんだか!
「まあきっかけはそれだったのだけれど、もう察しているとは思うけれどうちをよく思わない連中が焚きつけたのもあったみたいなのよね。でもなんにしろきっかけはうちの人が婚約も調っていないというのに口外したからだわ、本当にごめんなさい」
「い、いえ。大丈夫です! 実は先日、エイリップ・カリアンさまも面会に来てくださって、そのおつもりはないと話しておいででしたので……」
「そう……そちらにもご迷惑をかけてしまったわね」
申し訳なさそうに眉尻を下げて謝罪するアリッサさまですが、アリッサさまが悪いわけじゃあないんだよなあ!
バウム伯爵さまも善意で行動したんだし、咎めるのも……いや、やっぱりちょっと考えなしで行動するの止めていただきたいかな……。
せめて事前にアリッサさまかアルダールに、パーバス伯爵家とも仲直りができたらいいなって相談してくれてたらこんなことにはならなかったと思うんだよね!!
確かに貴族同士仲違いしてたって良いところはないし、バウム伯爵さま的にはクレドリタス夫人の件、人助けをしたとはいえパーバス伯爵家に干渉してしまった負い目もあるのでしょう。
ここいらで水に流してお互い国家のために尽くせたらいいなと思ったりなんかしたのかもしれません。知らないけど。
(……まあ、婚約だってほぼほぼ調っているようなものだし、そこで横槍を入れてくるだなんて予想外もいいところだったんでしょうね)
普通は婚約の話が出ているって段階でほぼ確定ですからね。
その状況で破談になるって相当なことがない限り、聞いたことがありません。
だからこそ、バウム伯爵さまもパーバス伯爵にお話ししたのだと思います。
それに、浮かれていたってアリッサさまが仰っていたように……長男の結婚を喜んで失敗したんだろうなっていうのが容易に想像できてなんとも言えない気持ちになったのは内緒ですよ!
不器用って言葉は確かに色々な意味を含むことがありますが、あそこまで職務以外全てが不器用な人ってなかなかいないんじゃないでしょうか?
不器用っていうか、ここまで来るともう空回りしかできない人ですね!
将来義父になる方だと思えば、将軍職という大変な重責を担う尊敬すべき方と理解もしているのですが……これまでのアルダールに対する対応のまずさですとか、言動が空回っていると理解できてからはもうね。なんていうかね。
思わず久しぶりにチベットスナギツネもかくやというほどの遠い目をしてしまった私、悪くないと思うんですよ。
そんな私に向かってアリッサさまは笑顔でぽん、と手を打ちました。
「夫のことはわたくしが責任を持ってギッチギチにしめておいたから、二度とこんなことは起こさないとお約束するわ!」
「は、はあ」
「安心してちょうだいね。もし心配なことがあった際はいつでも連絡をよこしてちょうだい、すぐに駆けつけますからね!」
アリッサさま、笑顔でなんだかすごいことを仰っている気がします。すごく可愛らしい笑顔と仕草なんですけど、今とても物騒じゃありませんでしたか?
ギッチギチってなんでしょう。
いえ、頼もしい限りです。頼りにしてます! させていただきます!!




