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とはいったものの、さすがに近衛隊の隊長さんとなるとお忙しい方なのでしっかりとお時間を取るにはもう数日必要だそうで。
……しっかりとお時間を取るとは一体なんですかね!?
(それにしても指輪かあ……指輪、ねえ)
アルダールと別れ、自分の部屋でベッドに寝転びながら手をかざして指を見る。
私の指に、嵌まるもの。
今までだって、アクセサリーをつけたことくらいある。これでも令嬢ですからね。
でも、仕事仕事で……指先が割れていたり爪が調っていないとみっともないからきちんとそこのケアはしてきたけれど、侍女として働いている間は指輪なんてする必要もなかったわけで。
今まで、ネックレスとイヤリングくらいは……まあ、それなりにね。嗜みとして購入したものですが、指輪は自分でも買ったことがなかったことに、気づきました。
(どんなのがいいだろう、私だけじゃなくて……アルダールにも似合うもの)
お互い、職務があるから普段使いというわけにはいかないし、装飾が派手なものはネックレス状にするのは適さないかもしれない。
でも婚約指輪ともなればお披露目会を開いた時に映えるものにするのが一般的だし……ああ、悩ましい!
(いやいや、今からこんなに悩んでいてどうするの私)
なんなら宝飾店の人に相談しながらでいいことを、こうやって悩むだなんて!
どんだけ浮かれてるのかって話よね……まったくもう。
いい加減婚約するってわかってるんだから落ち着きを持ちたいと思っているし、理性を働かせねばと自分を叱咤する日々ですよ。
(そういえば、手紙が来てたんだっけ)
ふわふわした気分のまま部屋に戻ってベッドに突っ伏したけれど、私的な手紙が届いていたことはちゃんと気づいてましたよ!
ただ、誰からのものなのかとか、確認はまだでしたけども。
急ぎの手紙が来る予定もないし今すぐ見る必要はないのでしょうが、なんとなくこの気持ちのままだと落ち着かなくて私は手紙に手を伸ばしました。
青いシンプルな封筒をひっくり返してみると、そこにはお義母さまのお名前が。
予想外のことに私は目を瞬かせました。
(なんで?)
考えたところで答えは目の前の手紙に記されているのだと封を切れば、お義母さまから時候の挨拶から始まって、顔合わせについての打ち合わせは順調だから安心してほしいという頼もしい内容が記されておりました。
おそらくバウム領での顔合わせ、もしくはバウム伯爵さまのご都合によっては城下のバウム邸での顔合わせになるらしいそうです。
なんてことはない内容でしたが、お義母さまとしては今後お付き合いがあるかどうかはともかく、折角のご縁なのでファンディッド領の菓子をご賞味いただきたいと思うが失礼だろうかという微笑ましいものもありましたね。
きっとアリッサさまなら喜んで受け取ってくださると思います!
まあ、確かに地方のお菓子ってことで華やかさには欠けますが……。
(素朴な味わいの焼き菓子の数々、捨てたもんじゃないと思うんですよねえ)
うちの領は自然豊かだから木の実とかもたくさんありますしね!
さらにメッタボン監修でファンディッド家の料理人たちのレベルアップもしているわけですし。
「あら?」
そんな微笑ましい世間話が記された便箋は、二枚目が存在しました。
そして二枚目に入った途端、お義母さまの一行目がめちゃくちゃ不穏ではありませんか。
『慶事の最中にこのようなことを伝えるのは不本意だけれど、万が一と言うことがあるので知らせておきます』
なんと、現パーバス伯爵……つまりお義母様の兄がどこからか私とアルダールの話を聞きつけて、待ったをかけてきたんだとか。
は? なんだそれ。
勿論、お義母さまもそう思われたそうですが、届いた手紙を見る限りそりゃもう驚いてしまったそうで……どうにもまともと思えないので、断りの書状は送っておくしバウム家にもこちらが乗り気であることは念押ししておくがそちらも気をつけて、というものでした。
いやあ、要約するとなんていうか、同じ伯爵家ならファンディッド家とパーバス家の繋がりをより強めるためにもエイリップ・カリアンさまと私とで婚約させるべきである……というものだったんですよ。
は? なんだそれ(二回目)。
パーバス伯爵がどのような思惑でそんなことを言ってきたかわかりませんが、貴族的に見たってファンディッド家になんのメリットもありませんね!
そりゃもう笑っちゃうくらい。
(同じ伯爵だなんて、よくも言えたなコノヤロウ)
そういやお義母様の兄ってのはキース・レッスさまを一方的にライバル視してたんだっけ?
その息子のエイリップ・カリアンさまも一方的にアルダールをライバル視してたことがあるから似たもの親子なんだなあ!
同じ一方的でもまだ脳筋公子の方が真っ当に見える不思議。元々厄介な性格だったけど、少なくとも真っ直ぐは真っ直ぐだったものね……。謝罪も一応できる人だったし。
とはいえ、そんなことを言い出すなんて確かに普通では考えにくい……。
確かに私とエイリップ・カリアンさまは年齢だって釣り合っているし、縁続きとはいえそれは血縁ではないので婚姻関係を結ぶのに問題はありません。
ただまあ、確かにそういう風にして婚姻関係を兄弟姉妹で結び両家の繋がりを強めるということは今も昔も聞いたことはありますけど……ファンディッド家とパーバス家でそんな結びつきをする必要性ってまったくもって聞いたことありませんね!
(どうしてそれでいけると思ったのかしら)
お義母さまが昔のまま、唯々諾々と従うと思ったから?
それとも、この手紙自体は特に意味はなくて他に何かがある?
……いずれにしても、確かにこれは念のため警戒をしておくに越したことはありません。
(アルダールに伝えるのは当然として)
後は誰に伝えるのが妥当かしら。
本当なら顔合わせを済ませてからご報告するつもりだったけど、統括侍女さまにもお話を通しておくべきな気がしてきましたね。
(それから……ビアンカさま、王弟殿下、キース・レッスさまにご相談の書状を送って、他にはセバスチャンさんと王女騎士団に相談して警戒を強めてもらうってところかしら)
万が一にでも私を通して王家を狙う輩が関与しているなんてことになったらとんでもないことです。
ないとは思いますが、それでも最悪を想定して行動をしておくべきです。
私の婚約について触れているとはいえ、相手は『宮廷伯のバウム家』だったり『剣聖候補』だったりしますからね……そして私だってただの子爵令嬢でないことはそろそろ認めるべきなのでしょう。
プリメラさまに信頼をいただいている侍女で、王家の方々と言葉を交わすことを許されている王女宮筆頭で、王宮内に精通している私がただの子爵令嬢と名乗るには少々自覚が足りないというものです。
そのくらいは自惚れではなく自己分析できていますよ!!
まあ、口に出してとか、自慢とかするようなことでもないから言葉にしないだけで。
(ただまあ、そこに誰がどのような価値を付けるかってのが問題だってことですよね)
まったくもう、真面目に働いてようやく恋にも慣れて関係を進めるまでに至ったってのにあれこれ外野がうるさいなあ!
ほっといてほしいもんですよ、私たちは誰にも迷惑かけずに幸せになろうとしているだけなのに。
そこに権力とか暗躍とか、厄介なものを持ち込まないでいただきたい!




