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青い薔薇は、前世でも今世でも自然には存在せず、それゆえに『希望』や『夢が叶う』といった花言葉を持つ象徴的な花です。
家族の慶事や、病気の快癒などを祈ってこうして絵画にすることは珍しいことではありません。
だけど、これはお父さまが描かれた、世界に一枚の……娘への、父親の愛が籠もった贈り物だと思うとどんな高名な画家が描いたものよりも私にとって大切なもの。
(というか、お父さま、本当に絵がお上手だったのね……!!)
長年娘でしたけど、まだ知らないことがあったことが新鮮でなりません。
いや、当然といえば当然なんですけどね!
つい最近打ち解けたというのもおかしな表現ですが、そんな感じですからね……反省してもしきれませんとも。
でもそうです、私とお父さまにはこれからがあるんですから!
「どこに飾ろうかしら!」
さすがに執務室では私情だと言われてしまうでしょうか?
でも一応、執務室の内装はともかく装飾の一つや二つ、自由にする権利はありますので……ああでも私室でベッドの近くでもいいなあ。
いい夢が見られそうじゃありません?
(アルダールにも見せてあげよう)
お父さまも祝福してくれたと知ったら、きっと喜んでくれるに違いない。
反対はきっとされないとわかっていても、こうして祝福をされているのだと目にわかるものがあるとないとではまた違うのです。
好きな人と想いを重ねて過ごし、家族に祝福されて、新しい家族になるのだと思うと……なるほど、これはいくら言葉を連ねようとも上手に説明できる気がしません。
多くの本や絵画のテーマになるのもわかる気がします。
「さて、アリッサさまの方は……?」
お父さまからの贈り物で胸いっぱいになってしまいましたが、もう一通の手紙のこともきちんと覚えていますよ!
未来の義母からだと思うとちょっぴり緊張もいたしますが、別に問題はなかったはず……。
「まあ」
開いて内容を何度も確認して、私はどうしようかと少しだけ考えました。
アリッサさまから、プリメラさまと私を招いて三人で茶会をしたいという申し出だったのです。
ただ、まだそのようにしたいという計画を立てようと思っている程度のお言葉が綴られていましたので、伯爵夫人としての立場から王女殿下をお誘いすることについてあれこれと身分関係やら世情やら、貴族間の情勢やらと複雑なのでしょう。
とはいえ、将来家族になる女同士で是非一度集まって互いに仲を深められたら嬉しいと思う……そういう内容が書かれていると確かになあと思うのです。
将来的にプリメラさまにとっても、私にとっても義母となるアリッサさまとの関係は良好でありたいですし、あちらもそう望んでくださっているのだからとてもありがたいことです。
世の中には嫁姑戦争なんて言葉もあるようですからね!
(しかし、こうして考えると……特に問題はなさそうねえ)
お父さまからの贈り物でわかるように、ファンディッド子爵家としては私の幸せを応援してくれるのでしょうし、アリッサさまから伺った内容を考えればアルダールの騎士爵スタートも私との婚姻も喜んでいただけていることですし。
となると、顔合わせも穏やかに終わりそうで何よりじゃないですか?
あらやだ、そうなると顔合わせのセッティングとか私が張り切った方がいい?
オルタンス嬢もお招きした方がいいのかしら、いえいえそれは先走りすぎか!
(でも、そうね)
あれこれさすがに私が口出しするよりも、やはりここはお父さまたちにお任せするのが一番ですよね!
基本的に本人たちの意向を大切にしてくださるのはもうわかったわけですから、あとは貴族のしきたりに則って婚約の申し込みから、当主同士の了承を経て顔合わせで男性側の家に行って、お互い親族となるにあたって和やかな会食をして……。
まあ最近じゃあ男性女性、どっちがどうとかではなくお互い都合がいい場所とかがいいよねって風潮なので次期当主とかじゃないなら別に城下町でもいいんでしょうけど。
とはいえ、バウム家は名門中の名門ですものね、そうはいかないか……。
(いやいや、私の顔合わせのことは後回し! 今はアリッサさまのお茶会か……)
浮かれすぎか、自分!!
まだ旅行気分が抜けきっていないようですね、反省しなくては。
ここは王城、私は王女宮筆頭。
いくらプリメラさまに報告したことやお父さまからの贈り物でテンションが上がってしまったからって気持ちを切り替えてしっかりしなければいけません。
しかし、これは困りましたね……。
(プリメラさまはきっとアリッサさまからのお申し出に喜ばれるでしょうね)
是非お茶会をとお望みになることでしょう。
でもアリッサさま主催よりはプリメラさまが個人的にお招きする、その方が無難かなとも思います。
未来の義母を立てるという意味ではアリッサさま主催のお茶会の方が良いのでしょうが……いくらほぼ確定しているとはいえプリメラさまとディーン・デインさまの婚約はまだきちんと調ったものではないのです。
それを考えれば、アリッサさまのお茶会で私たちだけが招かれる非公式なものというのは少々、貴族的な物言いをするならばはしたない行動と後ろ指をさされる可能性が出てしまうのですよねえ。
私だけならば格下の娘を招いたということで問題にならないでしょうが、王女殿下をお招きするのに他の夫人やご令嬢を誘わないとなると角が立つわけですよ。
しかもプリメラさまはまだ社交デビューをなさってはいない。
こうなると、まだ年端もいかぬ子供を政治的に利用しようとするという風に見られてしまうわけで……アリッサさまだってそのことを知らないはずもないのです。
だからわざわざ私に手紙を出してきたのでしょうね。
『お茶会を開きたい、できれば自分たちだけのお茶会を』
逆パターン、つまりプリメラさまがお茶会を開けば問題ない。
将来の義母になる可能性がある女性を招くという、茶会経験を積むためのもの……でもなんでもいいから適当に言い訳を作って、他の女性陣に文句を言わせない。
これもまあ、淑女の戦いですよね!
わあ、めんどくさい!!
(とはいえ、これはこれで私にとっても良い経験になるかも?)
そうです、プリメラさまは王女として今後の公務で『茶会を開く』ことが幾度もあるはずです。
その際は当たり前ですが王女宮筆頭として私を先頭に王女宮全体でお客さまをおもてなしするのです。
であれば、これは本当に良いチャンスではないでしょうか?
「善は急げね!」
プリメラさまが喜んで、アリッサさまも楽しめて。
お花は何がいいだろうか、お茶とお茶菓子はなにがいいだろうか。
クッションは?
場所は?
ああ、あれもこれも準備をしなければ。
(そうだ、近いうちに一度リジル商会とジェンダ商会にも行っておきましょう。珍しいものがあるかもしれないものね)
その際はレジーナさんか、それかケイトリンさんか。
彼女たちの意見だって有用ですからね、是非とも聞かせてもらいたいです。
メッタボンは連れて行くと食材から離れないでしょうし、ああでも茶葉に関してはセバスチャンさんにも意見をもらいたいところです。
ああ、悩ましい。
だけれど侍女として、プリメラさまが喜ぶ茶会を開くその準備ができる。
それが嬉しくて楽しくて。
(やっぱりこういう侍女業務って、楽しい!)
私はアリッサさまからのお手紙を手に、再びプリメラさまのお部屋へと向かうのでした。




