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「ああ、うん……いや、確かにそうなんだけど……」
歯切れの悪いアルダールに、私も自分がなんてことを仕出かしたのかと居たたまれない気持ちです。
ええ、そうですねコレに関しては私が悪いです、私ったらなんといううっかりを発揮したのでしょう!
「ご、ごめんなさい。今聞くような話題じゃなかったですね……」
いやいや違うだろ私、今聞くようなでもないしなんなら今後も聞くな!
アルダールも困っているじゃないですか……ああ、なんてことでしょう。
オロオロする私たちの様子を見て、アリッサさまは呆れるでもなく微笑ましそうに見ているだけで、助けてくれる雰囲気ではありません。
(どうしたもんだこれ)
自業自得なんですけどね!
アルダールの方も動揺はしているのでしょうが、頬を染めて咳払いをしたと思うと、私の方を見てから困ったような顔を見せました。
「ええと……とりあえず、その件についてはまた後で。義母上の前では少し、ね……その、話しづらいから」
「あら、わたくしのことは気にしなくて良いのよ?」
「義母上」
「いいじゃあないの、貴方がユリアさんに想いを寄せてここまでこぎつけるのに努力をしていたって知ってもらっても問題ないと思うけれど……」
小首を傾げるその仕草は大変可愛らしいですが、言っている内容が私としては引っかかるところですね!
えっ、なんだなんだ、アルダールは私と付き合ってから色々何をしていたんだろう?
(いや、アリッサさまのお言葉から察するに、アルダールは家のために結婚するつもりだったから、恋愛はする気がなくて……でも私のことを好いてくれた)
そんな彼だから、恋愛するなら『結婚を前提に』ってなった。
うん、そこまではわかった。
まあ恋愛観に関してはなんとなくそうだろうなとは思っていたけど、結婚観に関しては何も知らなかったからびっくりしすぎてポロッと言葉が出てしまったわけですが……。
(……結婚するために、何を努力したんだろう?)
どういう意味かわからなくてアルダールを見れば、困ったような視線が向けられました。
私はその意味を図りかねて、アリッサさまの方へと視線を向ければとても良い笑顔を返されました。
いやだからどういうことだってば。
「なんだったらわたくしが説明してあげましょうか?」
「止めてください」
「ふふ……ええ、ええ、ちょっと意地悪がすぎましたね。ごめんなさいね、アルダール。でもこういう息子のことをお嫁さんの前で突っつくの、夢だったんですもの!」
「……本当によしてください」
げんなりとした様子のアルダールになんとなく同情しますが、アリッサさまに『お嫁さん』って言われたことに私としては内心動揺が。
いやあ、うん、婚約すると決まったからといって、相手のお母さまから『嫁』って言われるとなんだか現実味があってドキドキしますね!
「ねえユリアさん、今度是非、王女殿下もお誘いして、内輪のお茶会をしたいのだけれど……参加してくれないかしら?」
「え? は、はい。勿論でございます」
「ありがとう! うふふ、将来、お嫁さんに来てくれる二人と一緒にお茶だなんて夢みたいだわ。息子たちの話をたくさんさせてちょうだいね!」
「楽しみにしております」
いやそれは本当に。
アルダールが自分でも知らない、そんな彼の幼少期を聞かせていただけるならば是非!
きっとプリメラさまだってディーン・デインさまのことをもっと知りたいでしょうし、お喜びになるのでは。
そんな私をよそにアルダールはげんなりした顔をしていますけどね!!
「さて、もう少しゆっくりお話をしたいところだけれど……あまり二人の時間を邪魔しては息子に叱られてしまいそうだから、最後に忠告を」
「忠告、ですか?」
「ええ。息子からすでに聞いているかも知れないけれど、貴族の結婚は横の繋がりである以上、アルダールが騎士爵を選ぼうともバウム家との繋がりを望む人間がこれからは貴女に近づいてくることも増えるでしょう」
「……はい」
アリッサさまはそれまでの優しい表情から一転、厳しいバウム伯爵夫人のお顔をみせました。
それはどこかもの悲しげでもありますが、凜としていてやはり素敵です。
「騎士爵となり我が家から独立しようとも、アルダールはバウム家の長男であることに変わりありません。そのことでよそから文句を言われる筋合いはないのでそのことについては気にしなくて良いけれど、きっと貴女の周りも少し騒がしくなるかもしれないわ」
「承知しております」
「……そう、ならいいの。ごめんなさいね、心配性で」
「いいえ、ありがとうございます」
心積もりをしておけという忠告なのでしょう。
うん、まあそんな気はしていましたからね。
確かに私も浮かれてはいますが、貴族令嬢としての教育も、貴族社会を一歩引いて見ることができる侍女としての立場と経験もありますのでその辺りは割と理解できていると思います。
勿論、理解できているからといって対処が万全であると自信をもって言うことはできませんが……それでも『こんなことになるなんて知らなかった!』と嘆いたり慌てたりはしないよう、気をつけたいと思います。
「それじゃあアルダール、わたくしはファンディッド子爵家へ婚約申し込みの手紙を書いてきますから、寛いでいてちょうだい」
「えっ、もうですか!?」
「こういうのは横やりが入る前に行う方が良いものなのよ。あの人には一応許可は取るつもりだけれど……先に用意をしておいていつでも送れるようにしておきたいわ。アルダールも手紙ができたら一筆ちょうだい?」
「わかりました」
「それじゃあユリアさん、我が家と思って……というのは難しいかもしれないけれど、寛いでちょうだいね! アルダール、一応婚約前ということでドアは開け放しておくのよ? いいわね?」
「わかっていますよ、義母上」
苦笑するアルダールですが、念を押したアリッサさまは満足そうです。
いやあ、母は強し、ですねえ……ちょっと違う気がしますが。
それにしてももう婚約の申し入れとは予想よりも展開が早すぎて。
私もお父さまへ手紙を書くつもりですが、申し入れより早いほうがいいのかしら。
それとも申し入れの手紙が届いた後の方がいいのかしら……悩むところです。
「あー。ユリア、言い訳だけしてもいいかな」
「アルダール?」
「ええと、先程の件なのだけれど……」
侍女さんも執事さんも下がって、ドアが開いているだけの部屋というのはなんともかんとも結局二人きりと何が違うのかな?
そんなことをボンヤリと考えながら、私はアルダールを見ました。
彼は困ったような表情を浮かべたまま、私の方をじっと見ていたかと思うと目を逸らしてしまいましたが。
「結婚は、割と早くから意識していたというか。……付き合うなら、君のような人がいいなと思ってから、君じゃないといやだと思うようになって……うん。どうせなら、ユリアが何も心配いらないようにと……まあ、それを、義母上は努力と言っていたんだ」
「そう、だったん、です、ね? あれ、じゃあ……以前、アリッサさまにせっつかれた時に言葉を遮ったのって」
「言っただろう? 周りに流されることなく、君の意思で私を選んでほしかったって」
以前町屋敷でアリッサさまが私に対し『いつ嫁にくるのか』と尋ねて来た時、アルダールが強めに言葉を遮ったんでしたね。
そしてそれに対して私は、アルダールは結婚とかしたくないんだろうなって思ってたんですが……ああ、なんだか本音を聞かされると、あの頃はとっくの昔に彼の中では私との結婚は視野に入っていたんだなあ。
「ああもう、格好悪いところばかり見せているなあ……こんなはずじゃなかったんだけど」
そんなことないよ、そう言いたいけれどなんだか胸がいっぱいで、私はアルダールの手をそっと握りました。
こんな時に言葉は上手く出ないけれど、気持ちは伝わりますようにと願って。
「アリッサさまは良い方ね。ところでアルダール、ファンディッド家へアリッサさまがお手紙を書くなら私もお父さまへ手紙を書きたいのだけれど……」
「便箋を用意させるよ。ところで……義母上とお茶会をする時は、私に一声かけてくれるかな?」
「あら、それはアリッサさまに伺わないとなんとも言えないわね!」
私の言葉にアルダールは苦い顔をしたけれど、すぐに諦めたように笑ってくれました。
アリッサさまから見た愛息子の話、楽しみだなあ!
不手際で更新が遅れました(´・ω・`)ごめんね




