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「まず、私に口止めをしたのは誰か……というところから話そうか」
「はい」
「まあ、そこは想像がついていると思うけれど、親父殿だ」
アルダールの言葉に私も頷きました。
彼に対してそのように強制力のある人物は、そう多くないと思うのです。
アルダール・サウル・フォン・バウムという人物は、宮廷伯の息子であり、現在の大将軍の息子であり、史上最年少で近衛騎士隊に入隊した……つまり、近衛としてはベテランとまでは行かずとも、それなりに勤務年数という信頼と実績を持つ人です。
加えて、次期剣聖と期待されるほどの実力者。
そんな彼に対して『口外してはいけない』と言える立場の人はそういないはず。
特に、近衛騎士隊の職務に関することであれば、私に対して『あとで説明する』なんて言う必要がないのです。
となれば、消去法で可能性が高くなるのはバウム伯爵さまということになるわけで……。
だからなんの不思議もないっていうか。
アルダールだってきっと私がそこに行き着いているって気づいていて、再確認みたいな言い方でしたしね!
「ユリアも知っているとおり、貴族の一員として生きるにあたって自由に振る舞えないところが多いだろう? 私は……まあ、割と好きにさせてもらったのだと今なら思えるけれど、何をするにも当主の意向を重んじねばならない」
「それは……ええ、そうですね」
アルダールは幼い頃から剣を学ばせてもらい、騎士隊への入隊も許されたことを〝好きにさせてもらった〟と言っているのかもしれないけれど……バウム家の人間としては割と王道な生き方なのではと思ってしまいました。
もしこれが冒険者になりたいとかだったら全力で反対されていたような気もしますが、まあ今そんなことを口にしても話が進まないので大人しく肯定だけしておきましょう。
それに、好きにさせてもらったというならば私もそうです。
貴族家の娘として生まれた以上、婚姻を結んで良い縁をもたらすことが一般的。
当主同士で話し合われたりなどして幼い頃から婚約者がいたり、適齢期になればそういった場で縁を見つけてくるのもよくある話。
お父さまも、そういったことを私に望んでいた。
だけれど私がプリメラさまのお傍にいたいと願って、それを許してくれた。
それってかなりレアケースともいえるわけだけど……まあ、単純にお父さまが強く出られない性格だったってこともかなりの比重を占めている気がしないでもない。
ともかく。
貴族の子供であるということは、その家にとって役割を持たねばならないということでもあるということを、私たちはよく知っているわけです。
とかく、領地持ちであったり王宮に役職を持つ貴族の家となれば……。
「私は、父上にこのまま近衛騎士であり続けたい旨を告げたんだ」
「えっ、それは……」
「バウム家の、分家を立ち上げるつもりはないと……そう、親父殿に申し上げた」
「思い切ったことをしたのね……いえ、アルダールは近衛騎士であることに誇りを持っていたから、認めてもらえたならそれは嬉しいことだけれど」
「……そうだね、怪我で引退なども可能性としてはあるけれど、私の年齢で言えば長く務められることだろう」
近衛騎士隊は、騎士隊の中でも選り抜きの貴族騎士集団。
その中でもまだ若いアルダールが近衛騎士を続けるつもりなら、きっとこれから二十年以上務められるはずだ。
……何もなければ。
そんな私の考えがわかっているのか、アルダールは柔らかく微笑んだ。
「分家を逃げ道にする気はない。その覚悟で、親父殿に宣言した。だから、ディーンの補佐には、なれない。ならないとね」
バウム伯爵さまが、いずれディーン・デインさまにバウム家を譲った際にアルダールがその補佐として領地を盛り立ててほしいと願っている……という話をアルダールから聞いているだけに、随分と落胆なさったのかもしれない。
それとも、アルダールが真っ向から意見を述べたことを喜んだだろうか?
(わからない)
バウム伯爵さまは、何故私を呼びつけてまであんな話を聞かせたのだろう。
そのことが、頭にちらついた。
「他にもあるけれど、まあまずはそれについてだね」
「えっ? 他にも?」
「うん。まあ順々に話すよ、で、近衛騎士として続ける条件。そのためには、簡単に怪我などせず、役立つことを証明して見せろ……というものだった」
それが連日の、各地でのモンスター退治に繋がっていたと……えっ、無茶ぶり!?
反対されていたんでしょうか、思わず自分の眉間に皺が寄るのを感じます。
各地のモンスター退治が必要だったのは確かなのですがこれって公私混同ではありませんか!
しかも口外してはならない理由は誰かに助言をもらったり、手助けする人が現れては彼自身がなし得たと言えないから……らしく。
でも両陛下と近衛騎士隊隊長さまはご存知なのでしょう!?
それに、王太后さまもきっとご存知だったはず。
ああ、だからあんなにバウム伯爵さまにあきれていらっしゃったのかしら。
でも、モンスター退治は国民の益にはなるし……誰かが行かなくてはならないのであれば、確かにちょうどいいと言えばちょうどいい……?
いや、なんか納得出来ないな!?
「そんな顔しないで」
「ご、ごめんなさい」
アルダールがそれを見て指先を私の眉間に当て、くすくす笑いました。
いや、だって……嫌だったんですもの!
連日で大変そうでしたし、疲れている姿だって見かけましたし、怪我しないかなとか心配だったんですからね!?
私だって仕事がありますし、表向きそういったものを顔に出さないのは得意ですが……だからといって、無理難題にも程があるっていうか。
でもそれをアルダールはやり遂げたんだよなあ……。
「それから、義母上とディーンに説明と説得と言われたけど……まあこちらは特に問題なかったかな。むしろ応援された」
「ああ……」
それはなんとなくどころかよくわかるっていうか。
あのお二人ならアルダールの覚悟がわかったなら、全力で応援するんじゃないかしら。
(むしろ、アルダールの方が二人を宥めるのに大変だったりして?)
思わず想像してくすっと笑えば目の前のアルダールが不思議そうな顔をして小首を傾げましたが、私はなんでもないのだと首を振りました。
「おめでとう、アルダール」
アルダールが選んだ道は、きっと普通に考えたら厳しい道です。
分家を立ち上げ、当主としてバウム家がいくつか持つ爵位の中のどれかを彼に持たせることで安泰とし、兄弟で仲良く領地を守っていく……それはとても穏やかで、誰も不幸にならない、一族として見るなら最高の未来でしょう。
それこそ、建国当初のバウム家で兄弟が支え合ったというお話のように。
でも、私はアルダールが自分の選んだ道を歩めるということが、とても喜ばしく思えました。
爵位がなくとも、領地がなくとも、きっとこの人は騎士として立派に生きていけるのだと私は誰よりも……というのは言い過ぎかもしれませんが、知っているから。
そんな私の祝辞に、アルダールは少しだけ驚いたような顔をしてから照れたように笑ってくれました。
「ありがとう。……ユリアなら、そう言ってくれるとわかっていたんだけど……それでもやっぱり直接言ってもらえると、嬉しいな」
そりゃそうでしょう。私は、なんたってアルダールの恋人ですから?
お祝いを! 言わないなんて!
それこそあり得ないのです!!
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