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目的地の町には予定通りの時刻に到着いたしました。
町を挙げて王族の視察を歓迎するという雰囲気で、王太子殿下もプリメラさまも笑顔で手を振っていらっしゃいました。
社交界では仮面をつけておられるプリメラさまですが、公務では着用しないため、その愛らしい笑顔はきっと領民達を魅了したことでしょう。
きっと今頃、あんなに可愛らしい王女さまがいてうちの国は幸せだとか家族で話していたりなんかするかもしれませんよ!?
まあ、それはともかく。
到着してすぐ、プリメラさまは旅装からこの後のディナーのためのお支度です。
勿論、フィライラ・ディルネさまにご挨拶を……という部分も忘れてはおりませんが、お着替えと化粧直しというのは淑女としては礼儀の一つ。
ここでどれほど主に負担をかけず時間を短縮できるか、かつ完璧な仕事がこなせるかで使用人の質もわかるというものです!
「それではプリメラさま、予定通りのドレスで問題ないでしょうか?」
「ええ、お願いねユリア」
「かしこまりました」
当然のことですが持ち込んでいるドレスは予備も込みで予定と併せて色合いや暖かさ、見る人に与える印象など計算尽くなものを選んだ上で、プリメラさまから了解を得てのものです。
ただ当然、体調問題の他に気温など人間の手ではどうしようもないこともありえますから、いくつもパターンは想定済み!
とはいえプリメラさまご自身の了解を得て、私たちは仕事を進めます。
今回は夜の晩餐ということですが、正式な宮中でのものではありません。
お相手は町長たちですから、あまり仰々しくしては彼らにとっても負担なのです。
なのでそこまでかしこまらず、かつ王族としての優雅さと気品を見せるため、ふんだんにレースをあしらった淡い青のドレスをお召しいただきました。
あまりごてごてと飾るよりもプリメラさまの美しい青い瞳と金の御髪を際立たせるため、アクセサリーはとてもシンプルに。
素材自体もとても軽いものですので、締め付けも少なくかなりご負担はないはずです。
「終わりました」
髪型はゆるふわなアップスタイルで可憐さをより演出してみました!
私の手伝いをしていたスカーレットも仕上がりを見て満足そうです。
わかります。自分たちの主が今日も一段と美しく輝いているのを見るのは、侍女冥利に尽きるというものですよね……!
「これなら、王太子殿下のご婚約者さまも王女殿下の魅力にメロメロですわ!」
ふんすと鼻息も荒くふんぞり返るスカーレットですが、だから言い回しがいちいち面白いんだよなあ!
でもまあ、わかる。
このプリメラさまの可愛さったら、いつもいつも可愛らしいお方ですが今回はもう大爆発して可愛いのかたまりです。
王太子殿下だってきっとプリメラさまのこのお姿を見たらずっと笑顔になってしまうこと間違いなしです!
……いえ、それはそれで困るか。
婚約者のことを考えたら妹にべったりで甘く微笑みかけてばかりというのもちょっと、こうね……。
「それでは、これからフィライラ・ディルネさまにご挨拶なさいますか?」
「ええ、そうするわ」
「かしこまりました。……スカーレット」
「はい」
私の言葉に、スカーレットが一礼して部屋を出て行った。
何をしに出て行ったかって?
先触れでフィライラ・ディルネさまのお部屋のところへ行って、これからプリメラさまが訪問しますがよろしいですかと伝えてもらうんですよ。
で、私たちは彼女が出て数分後に出るって寸法ですね。返事?
そういうのはいいんです、あちらも挨拶に来ることはわかっていて、わかりましたって応えるだけですからね。
(まあ面倒だけど、様式美ってだけの話じゃないからなあ)
これは身分が高い人にとって、一つの礼儀作法というだけの話ではないのです。
勿論、面会があるのだと連絡することで相手は驚かず慌てることもなく……というのは最低限想い遣りの話ではありますが、こと貴族間に関しては違います。
害意がない、だからこそ相手に準備をする猶予を与える……こちらはその余裕がある、というややこしい表現でもあるのです。
害意がない。
これはわかりやすい。
ではコチラに余裕がある、とは。
(どんな準備があろうとも、向かいますよ……っていう宣戦布告みたいな、ね……)
まあ戦時中はともかく、今となっては慣例みたいなものだし前者の意味がメインですけどね!
だからこそ侍女を向かわせるのであって……これが護衛騎士とかだと物々しい雰囲気になること間違いありません。
「それでは、プリメラさま。我々も」
「ええ」
「ご挨拶のみで戻りたいと思いますが、よろしいですか」
「ええ。ディナーまで時間も差し迫っているし、とりあえず直接ご挨拶ができれば今は十分よ」
にっこりと私の〝挨拶のみで〟という言葉の意を汲んでくださるプリメラさま、さすが我らがプリンセスう!
はしゃぐ内心はぐっと抑え込んで私もにこりと微笑んでドアを開けました。
当然、この部屋の外には護衛騎士たちが立っていますが、事前にスカーレットが出て行ったことで彼女たちも私たちが何を目的としているかはわかっているはずです。
「王女殿下がご挨拶に参ります。護衛の騎士は一人でお願いします」
「承知いたしました。ではわたくしが」
名乗り出てくれたのはレジーナさん……ではなく、別の護衛騎士の女性でした。
巻き毛が可愛い女の子で、なんと彼女はレムレッド侯爵家のご息女……つまりハンスさんの妹なのです!!
名前はケイトリンさんと言って、こう……小柄で可愛らしいんですが、一生懸命キリッとして見せようとしているところがまた可愛い、護衛騎士隊の中でも妹キャラとして大人気なんだとか……。
私の中にあるハンスさんのイメージがこう、お調子者なのですが、ケイトリンさんは……なんていうか、とても真面目な人です。
あの兄を反面教師にしたのでしょうか、聞けませんが。
「ありがとうございます。ではケイトリン殿にお願いしてよろしいですか」
他の護衛騎士たちを見れば、彼女たちも頷いてくれました。
ケイトリンさんは可愛い妹キャラですが、護衛騎士の選抜を勝ち抜いてきただけあって実力は確かなものなのでしょう。
彼女が戦う姿とか想像できないんですけどね。
事前にどこのお部屋かは王子宮筆頭を通じて私も知っていますが、護衛騎士たちも把握はしているはず。警備の都合も色々あるでしょうからね。
ケイトリンさんが先頭に立ち、迷わず歩くのに私たちはついていきます。
町で一番の高級な旅宿とはいえ、王族所有の狐狩りの館と同じ程度の広さでしょうか。
勿論王族の方がご利用ということで、今回公務中はどどんと貸し切りです。
そして王太子殿下とプリメラさま、フィライラ・ディルネさまは皆離れた部屋を利用しています。
これは警護の問題もあるのですが、後はいくらご婚約者といえど年頃の男女が近い部屋なのはよろしくないという配慮もあってのことですね。
「スカーレット」
「お待ちしておりましたわ」
そしてとある部屋の前で、異国の服装に身を包んだ騎士と共に私たちを笑顔で出迎えたスカーレット。
そんな彼女の横に立つ、きっちりとした格好の女性が一歩進み出ました。
「お越しをお待ちしておりました。我が主が、お待ちでございます」
ああ、この人がユナ・ユディタ。
今回の問題児(?)って人だなと私は直感したのでした。




