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「ユリア! こちらから連絡をしようと思っていたところだったのよ」
「王城でキース・レッスさまが先にお話を耳にしたとのことで、こうして同乗させていただいたんです。……お義母さま、大丈夫ですか?」
「ええ……覚悟はしていたから」
「そうですか……」
ファンディッド家に着いた時、お義母さまがすぐに出迎えてくれました。
お義母さまは少しやつれた様子ですが、笑顔を見せてくれて私たちを家の中に迎えてくれましたが……やはり落ち込んでいるのだと思います。
あんな妖怪ですが、身内の不幸というのはやはりショックだと思いますから当然のことでしょう。
「セレッセ伯爵さまも、ありがとうございます」
「いや。夫人、お悔やみ申し上げる。このような時に急かすべきではないと承知しているが、どれほどであちらに出向く準備が整うだろうか?」
「夫と息子が領内の視察に出ておりますので、帰ってきたらすぐにでも」
きびきびと、領主夫人として答えるお義母さまはかっこいいです!
いやあ、こうして改めて考えるとパーバス家ってお義母さまを軽んじてもったいないことをしたんじゃないでしょうかね?
だってお父さまの領地経営の手伝いをして、その合間に母親業をこなし、近隣の村長たちからの話を聞いたりお父さまが社交に出渋るのを説得して行かせ倹約に励んでいた……ということはメレクから聞いております。
(なんせお父さまの領地経営補佐になったメレクに補足をしてくれているのがお義母さまって話だから、ね……)
それを知ったメレクも大分驚いたようですがそれを手紙で知らされた私の驚きやいかに。
とにかく、お義母さまにはもう訃報が届いていたようで私に早馬で報せるところだったそうなのです。
まあもともとこうなった際は私に連絡をして合流をしてからパーバス家に向かうということで約束をしておりましたから行き違いになることはないのが幸いですね。
「ねえユリア。レジーナさんは護衛だというのはわかるけれど……どうしてあちらにウィナー男爵令嬢がいらっしゃるの?」
お義母さまが小声で私に問うてこられましたが、まあ気になりますよねそうですよね!
でも正直私にもなんででしょうねとしか言いようがなくてですね!!
困ってしまいましたが、一応建前上の理由である『立会人を前に、エイリップ・カリアンさまが迷惑をかけたことによる謝罪をパーバス家はきちんとしたい』という話をさせていただきました。
その立会人っていうのがニコラスさんであることも、以前迎えに来ていたことから納得してもらえたようです。
お義母さまは複雑そうな顔をしていらっしゃいましたが、特にそこには触れることもなく「そうなのね」とだけ仰いました。
ありがとうございます、空気を読んでくださって!
ミュリエッタさんはお義母さまをちらちら見ているし、ニコラスさんは相変わらず胡散臭い笑顔でお義母さまにご挨拶をするしで本当に落ち着かない雰囲気です。
「レジーナさんもお役目ご苦労さまです。こんなことで再会するのは残念だけれど、またお会い出来て嬉しいわ」
「おそれいります」
「どうか娘のことをよろしくお願いしますね」
「……必ず、お守りいたします」
お義母さまも大分色々肩の荷が下りてすっかり丸くなられて、レジーナさんと柔らかく会話している姿を見ると……人って変わる物だなあって、すごく感じますよね。
それもまあ本人が変わろうと努力した結果なので、お義母さまはやはり元々すごい努力家だからこそなしえたのだと思います!
「お父さまたちはいつ頃戻るんでしょう」
「そうねえ、貴女たちが来る少し前だったからあと一時間は戻らないと思うの。先日、獣被害が出たところがあって慰問を兼ねているものだから……普段なら行かないのだけれどね、メレクには現場を見せておくのも大事だってあの人が」
「わかりました」
そういうことなら仕方がないです。
一応お義母さまも人を走らせて、メレクだけでもすぐ戻るように連絡を入れてくれたようなので私たちはそれを待つことにしました。
執事たちに後を任せて出ても大丈夫なのですが、お義母さまからすればキース・レッスさまに対してご挨拶くらいは家長ないし跡取りがちゃんとしておかなくちゃということらしいです。
まあそれもそう遠くないところへ視察に出ているだけだからって話なんですけどね。
とりあえず立ち話も何ですから私は喪服に着替えてくるようお義母さまに言われたので自室へ。
ほかの方々はみなさんサロンで休憩していただくこととなりました。
私が送った荷物はちゃんと届いていたんですね、良かった良かった。
着替えて戻ってきた時にはなんというか、全員が微妙に離れて座っていて沈黙に満ちた空間っていうね、足を踏み入れにくいわあ……。
とはいえキース・レッスさまとお義母さまはにこやかに話をされてましたけどね!
「ユリア、支度が済んだのね? じゃあ私も着替えてくるからお客さまのことをお願い」
「はい、かしこまりました」
私の姿を見つけてそう言ってサロンを後にしたお義母さまの背中を見送って、キース・レッスさまは柔らかく微笑みました。
「すっかり夫人は憑き物が落ちたかのように穏やかになられたねえ」
「はい、よかったです。……とはいえ、お義母さまにとって今回のことはやはりお辛いことと思いますのでパーバス伯爵家に着いた後もできる限り私はおそばにいるつもりです」
「うん、その方がいいだろうね。戻ってきた後はファンディッド子爵が引き受けてくれるだろうし」
「メレクもおりますから、帰ってきてからのことは心配しておりません」
今回私がお義母さまと共に行くことを、お父さまもメレクもきちんと了承してくれています。ちゃんとその計画はお義母さま経由で伝えてありますからね!
反論の手紙がこれまで来ていないのは了承してくれたんだと思ってます。
さきほども、お義母さまから何も言われなかったから多分大丈夫です。
メレクかお父さまがお戻りになったら一応確認はしますが、香典とか色々そちらの問題もありますからね……。私? 当然、準備してきましたよ!
前世で伊達にOLやってません。
ちなみに転生したこちらの世界でも香典袋ってものが存在していて、ちょっと不思議な感じですよね……勿論、水引みたいのはなくて白い封筒にお札と故人へのお手紙を書く、みたいな感じで。
私も当たり障りのない定型文だけ書いておきました。
お義母さまはもう少し、ちゃんとしたものをきっとご用意しておいででしょう。
まあ、私は家を出て独自の生計を立てているし血縁ではないので別に用意しましたが、ファンディッド子爵家として用意してあるはずなので問題はないはずです。
(……セレッセ伯爵家が行くように、バウム家も弔問で人を寄越すのかしら。バウム伯爵さまが行くとは……なんとなくだけど、思えない。不仲だって話は聞くし……でも貴族同士の体面上、お悔やみの言葉くらいはきっと)
だとしたら、誰が届けに来るんだろう。
まさかと思うけどこれでアルダールが来るとかは……さすがにないか。
今頃きっとまだモンスター退治で忙しくしているだろうしね……。怪我をしていないといいけど。
なんとなくそんなことを考えていると、サロンの扉が開きました。
そこから入ってきたのは息を切らした、メレクです。
私が立ち上がって弟を迎えようとしたとき、視界の端でミュリエッタさんがぎゅっと手を胸元で握りしめ、かすかに震えながらこちらを見ていることに気がつきました。
(え、なに……どうしたの……!?)




