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まあそんなこんなでなんとかプレゼントを回避しつつ、お茶会は和やかに終わりました。寒くなる前に解散ということで、プリメラさまはお部屋の方にメイナとスカーレットを伴って戻られ、侯爵さまはお仕事の方へ戻られました。
そう、なんだかんだとジェンダ商会の会頭さんもずっとその場にいたので実質一緒にお茶会をしたのです。
さすがに王女殿下と商人を同じテーブルに……というわけにはまいりませんので、少し離れた所にという形にはなっちゃいますけどね。
(まあ何点かのブローチを侯爵さまに贈っていただいたのは……大切にさせていただきますけども)
回避できなかったのかって? これでも頑張ったんだよ……!!
あれもこれもいいねえなんて穏やかにとんでもないことを言い出しそうな侯爵さま相手に、とんでもないお気持ちだけで結構ですって言い続けるにも限界ってものがあってですね……最終的にはジェンダ商会の会頭さんがお勧めするブローチを何点かということで落ち着いたんです。
それでもプリメラさまにとってはとても楽しい時間だったのでしょう。終始ご機嫌でしたし、会頭さんが持ってきてくださった商品を見て、その品物にまつわる話などを聞いては目を輝かせておいででしたから。
「本当にありがとうございました」
「よせやい、俺と嬢ちゃんの仲だろう」
会頭さんがお帰りになるのをお見送りするのは、本当は侍女のお仕事であって私がすることではないのですがプリメラさまのお許しを得て、お見送りをしています。
本当はプリメラさまがお見送りしたかったんですよね! でもできないから、私に託したっていう……この健気さ! 伝わりますか!!
まあ令嬢としてではなく、いつもの侍女ならオッケーだったかっていうとここは侯爵邸なのでそれはそれでグレーなので、今の状況はいうなれば彼女たちのお仕事を奪っているような気がしないでもないっていうか。
家人の方も一緒にお見送りしているので問題はない、のか……な?
「忙しい合間を縫ってきてくださったのでしょう。お仕事は奥さまお一人では大変ではありませんか」
「そりゃまあそれなりにな。だが、それでも……な」
「……はい」
会頭さんにとっても、価値ある時間であるということなのでしょう。
プリメラさまと過ごせる時間なんて、どのくらい持てるのかなんてわかりませんからね。そういう意味ではこういうタイミングを逃すなど、できるはずがありません。
「あいつもそのうち連れてこれる日があるとは思うんだが、商人夫婦が揃ってってのも悪目立ちするといけないからな。まあ……いつか、そんな日が来たら、だけどよ」
「……プリメラさまがバウム伯爵家へ降嫁なさる日がきたならば、いつか町を見物しに行くこともあるのではありませんか」
「そうか、そういう未来もあるか。……そりゃぁ長生きしないとなア」
「はい、是非に」
私の言葉に会頭さんが優しい笑顔を浮かべてくださいました。
バウム家の奥方となられたなら、忙しいこともたくさんあると思いますが王女である今よりも、プリメラさまはもっと自由に身動きが取れるのではないかなと思うのです。
そうしたら、ジェンダ商会にだってお一人で……とはいきませんが買い物に行くことだって可能なのかもしれないじゃありませんか。
玄関に着いたところで帽子をかぶった会頭さんが、私に向かって何とも言えない表情を浮かべて小さな声で言いました。
「侯爵さまのことも、まあ許してやってくれ。あの人も嬢ちゃんに対して色々してやりてぇんだろう。やりすぎないようにはこっちからも一応、声はかけておくからさ」
「……そうしてくださると、ありがたいです。本当に」
「あんまり期待されると困っちまうが、まあできるかぎり、な?」
「そこまでしていただけるようなことをした覚えはないんですが……」
「まあまあ。侯爵さまの気持ちってやつだ、あの人にはあの人なりの理由があってのことだろうさ」
会頭さんにはそう言われましたが、もらいっぱなしってわけにはいかないじゃないですか……こう、なんか落ち着かないんですよ!
小心者だって? ええ、ええ、その通りですとも!!
私の中身は小市民。貴族の令嬢ったって、貧乏貴族ですからね……、それに加えて前世だって庶民ですもの。
良いのです、下手に贅沢を知って暴走するよりもこのっくらいの感じがちょうどいいってもんですよ。
そりゃまあ、ちょっとくらいは贅沢な暮らしをしてみたいとか、お姫さまみたいな生活をしてみたいな~なんて前世でちらっとね!? ちらっとですよ!?
考えたことがないとは申しません。
ですが、現実に貴族社会ってものを目の当たりにしている今世においては、とにかく穏やかに過ごせればいいんです!
(いただいた品々は大切に使わせていただきますが、あんまりたくさんもらいすぎてもどうしたらいいのかわかんないんだってどうやったら理解してもらえるのかしら)
例の養子縁組の件だけではなく、侯爵さまが善意であれこれと贈り物をしてくださっていることは理解できております。
できておりますが、物には限度ってモノがあるんです。
私は一介の侍女であって、茶会のファッションリーダーを目指しているわけじゃないんです。
そんなにたくさんのドレスをいただいても着る機会もないので、タンスの肥やしにですね……いや待って、今後増えるのか? メレクとオルタンス嬢の結婚式とかでも色々と物入りなのは確かだしね?
いやそういう時は自分でちゃんとドレスを用意しますけどね!?
その話し合いとかでどこかに行くとかなったらやっぱり余所行きが必要になるんだからやっぱり助かります、ありがとうございます。
「あっそういえば」
「どうした?」
「以前お勧めしてもらったハーブティがそろそろ切れそうなので、追加で今度王女宮に送っておいていただけませんか?」
「ああ、あれか。すっかり気に入ってくれたもんだねえ」
「はい、仕事で疲れた日にとても助かっているんです」
そうです。だいぶ前のことですが、会頭さんが美味しいカモミールティーを仕入れたからとおすそ分けしてくださったことがあるんです。
それが本当に美味しくてですね、仕事で疲れた日には重宝したものですから定期的に購入しております!
なくなると困るんですよ、本当に。
あれっ、そういえばアルダールには淹れてあげたことがなかったような……今度出してみることにしましょう。
「ははは、嬉しいことを言うねエ。戻ったらうちの飴玉と一緒に嬢ちゃん宛に送っておくよ。料金はいつものように後でいいからさ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、またそのうちにな」
「はい、会頭さんもお元気で」
爽やかに去って行く会頭さんは、なんだかその帽子とコート姿のせいでしょうか。
商人っていうか、マフィアのボスっぽく見えたのは……内緒です。
いやあ、侯爵さまもナイスミドルですけどやっぱり会頭さんもかっこいいですね……なんでこの世界、イケメンだのイケオジだの美男美女ばっかりなんでしょう。
あ、でも私のお父さまはそういう意味では平凡で、その娘の私は……あ、ダメだこれは考えてはいけない。
(さて、私も戻ってアルダールに手紙を書きましょう!)
考えることは一旦横に置いておいたけど、会う約束だけはちゃんとしておかないといけません。社会人ですもの、そこのところは計画的に。
いえ、正直なところ普通に約束するよりもいつに大事な話をするって覚悟を自分の中に決めたいだけなんですけどね。




