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遅くなりましたが本日分の更新です°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
お父さまに出した手紙が届いて、そして返事が届いた今日この頃です。
要約すると『ファンディッド家への出入り禁止以外は特に接近禁止とか申し渡していないし、そこまでするとなると貴族議会に意見申し立て書とか提出することになって超大ごとになるからできる限り顔を合わせないように頑張って』というお父さまからのお手紙でした。
まあそうなるよね! 知ってた!!
(私としても大ごとにしたいわけでなし、貴族議会なんてものとも関わりたくないですしね。いいですよいいですよ、王女宮の中で真面目にお仕事してればいいだけですもの!)
それってつまり日常をきちんと過ごしていれば大丈夫ってことですから、任せてください。
とはいえ私が警戒をしてから数日、まるでなにもありません。もう一回くらい面会室から連絡が来るかなと思っていただけに、ちょっと肩透かしを食らった感じです。
いえ、私だって『なにもないのが一番』だと思っていたことなので特別問題はありませんけれどね。
備えあれば患いなしとも申しますし、警戒だけは続けておきたいと思います。
とりあえず、アルダールが調べてくれたことによると、エイリップ・カリアンさまは軍の、爵位持ち貴族の血縁ということで町の警備隊とかではなく城内勤務の隊に配属されたようです。
これは身分による平民と貴族を区別するものではなく、有事の際に爵位持ち貴族が血縁だと色々と面倒だというどこからかの指示があった結果でしょうね……。
主に、血縁関係からの圧力とか利権問題とか、派閥とか?
パーバス伯爵家がどこに所属していてどう関わりがあって、どんな権力をお持ちかは存じませんがその辺が関係しているものと思われます。
城内警備はある程度厳しくもありますが、貴族であれば礼儀作法もできるからという配属への建前もできますし。
(礼儀作法がなっていなくて叱られている可能性もあるけどね!)
まあ、アルダールが聞いてきたところによればエイリップ・カリアンさまは伯爵家の直系だということを自慢げに吹聴していて、すでに同僚から鼻持ちならないヤツ、もしくは痛いヤツくらいの生温かい目で見守られているようです。
実力については何も言っていませんでしたが、訓練についていけているようなので大丈夫じゃないですかね。知らないけど。
(……ファンディッド家と縁戚だなんてことを口にしてないといいんですけど)
うちは! 関係ないですから!!
巻き添えで評判が落ちるのはごめんこうむりたいところですね。
「ユリアさまー」
「あらメイナ」
「どうしよう、緊張してきました!」
「大丈夫よ、落ち着きなさい」
「だ、だってもう……本当にすみません、うちの父が……!」
今日は外宮の庭園に来ています。
ちょっと離れた所にレジーナさんがちゃんと護衛でいてくれますので安心ですよ?
その辺は護衛騎士たちに相談して、ちょっと外出の際は手を貸していただけることになっているのです。
ではなぜここに、というものですが。
実はメイナのお父さまが本日仕事の都合で王城に来るらしく、娘に会いたいしその上司にご挨拶していきたいというお手紙が届いたのです。
メイナのお父さまは商業ギルドでもある程度責任ある立場にある方ですが、原則的に面会室は一対一が基本の場。
それ故に護衛騎士を伴って、外に最も近い王城内の外宮にある庭園で少しだけお話をしましょうということになったのです。
勿論こちらは休憩時間ですけどね。
一般開放されている庭園の中でも最も人通りの少ないところを指定したので、メイナも人目を気にせずお父さまとお話しできるんじゃないかなと思います。
私なりの気遣いです。
とはいえ、まったく人がいないわけではないんですが……地方から来た商人の方とか物珍し気に庭園を眺めていく姿はなんだかほっこりしますね。
素敵な庭園だとため息をついている人を見るとなぜか私まで誇らしい気持ちになります。
「メイナのお父さまにお会いするのは初めてね、どんな方なのかしら?」
「ちょっと熊っぽいです」
「熊」
想像できません。
メイナがあまりにもきっぱり言うからそうなのかと納得しかけましたけど、いやいやそれってどうなの?
そう思ったところで庭園の入り口からぬぅっと入ってくる、大きな人影を見つけて私たちはそちらへと視線を向けました。
瞬間的にレジーナさんが警戒をした様子が見えましたが、それもすぐメイナが駆け出したことで霧散いたしました。
「お父さん!」
「メイナ!」
それはもう、大柄な男の方でした。
メイナと同じ明るい茶色の髪に同じ色をした豊かな顎髭、身長はアルダールよりも大きいのではないかしら。
「ユリアさま、こちらがうちの父です!」
「いつも娘がお世話になっております。きちんとしたご挨拶を今までできませんで、申し訳ございませんでした」
「いえ、娘さんはいつも明るく真面目に仕事に取り組んでくださっていて、私としても大変助かっております。王城勤務ということでなかなか帰省をさせてあげられなくて、大変申し訳なく思っております」
「いえいえそんな! 粗忽な娘ですが、どうかよろしくお願いいたします。警備隊の方に王女宮宛の果物を検分していただいておりますので、どうぞ後程皆さまでお召し上がりください」
きちんと王城でのルールを守った上で手土産を渡す用意がしてあるだなんて、さすがに商業ギルドで役職をお持ちな方です。
笑った雰囲気がメイナとよく似ていて、親しみが持てる方です。
いくつかの近況のやりとりや、メイナが王城でどう過ごしているのか。そんな会話をしてはメイナが顔を赤くしたり青くしたりお父さまの口を塞ごうとして手が届かなかったりと色々賑やかでした。
なんだかとっても、和やかな三者面談でした。
「うぅ……もう、お父さんったらあんな昔の話しなくてもいいのに!」
「まあまあメイナ、お父さまも立派になったメイナが嬉しかったのよ」
「だからって子供の頃おっきな木によじのぼった話とかしなくてもいいと思いません!?」
「メイナのことは前から活発な子だと思っていたけれど、なかなかお転婆だったのねえ」
ご挨拶を終えて、女三人仲良く王女宮へと戻る中でメイナはぷりぷりとしながら恥ずかしそうにして、私とレジーナさんはそれを見て微笑ましく思っていたわけです。
その時にふっとレジーナさんが私の腕を掴み、ぱっと己の背に庇うようにしたので私はぎょっとしました。
当然私が驚いたように、メイナも驚いたし周囲を歩いていた人々も驚いたに違いありません。
まだ城内の区分け的には外宮の回廊でしたので、人の行き来はとても多く、ぱっと周辺の人々が私たちから距離を取りました。
だけれど、レジーナさんがなぜそんな行動をしたのかは一目瞭然。
そこにいたのはエイリップ・カリアンさまでしたから。
「……何事だ」
不快そうに眉間に皺を寄せてそんな風に呟いた彼は手を伸ばした状態のままで、どうやら私たちに声をかけるついでに肩でもぽんっとやろうとしたのでしょうね。
それを察したレジーナさんがそれを阻止した、そういうことだと思います。
「みだりに女性の背後から手を伸ばすのは無礼と思うけれど? 礼儀をわきまえてはいかがかしら、城内警護の騎士殿」
レジーナさんが冷たい声でそう言えば、エイリップ・カリアンさまはさらに眉間の皺を深めました。
「親戚なのだ、その程度でうるさく言う方がどうかしている」
「まあ、親戚ならば良いと? 礼儀作法を一から学びなおして出直すことをお勧めいたしますよ。行きましょう、筆頭侍女さま」
「え、ええ」
「待て! ユリア・フォン・ファンディッド、貴様俺が面会に来てやった話はすでに耳にしているだろう、なぜ折り返して俺に面会を申し込まんのだ!」
え、なんでですかね。
心底わからなくて彼の言葉に今度は私の方が眉間に皺を……いや、なんか無表情になったのを自分でも感じます。
なんでですかね。
聞いたら面倒そうですが、聞かないとだめでしょうか?
素直に王女宮に戻らせてもらえなそうで面倒だなあ、そう思ったらだめでしょうか。
折角今日は穏やかな日で、この後美味しい果物が待っているというのに!
そんな私の声を代弁するかのように、メイナが心底不思議そうに私を見上げて言いました。
「え、面会ってお断りしたらこっちから申し込むべきなんですか?」
「そりゃ会いたいと思える相手ならそうすればいいと思うわ」
「というわけで、私としてはエイリップ・カリアンさまにお会いする理由もございませんので折り返しませんでしたが、いけませんでしたか」
私が二人の言葉に続けてそう言えば、ものすごく驚いた顔をされました。
いやいや驚くことじゃないからね、そう突っ込まなかった私は、偉いと思います。




