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あれから一週間程が経ちましたが、喜ばしいことに私の生活、変わり映えのしない日常が戻ってきました。
平穏です! 万歳!!
最近色々ありすぎましたから、この何もない穏やかな日々を噛みしめております。
とはいえ、まるで変化がないわけではありません。
繰り返し伝えられたミュリエッタさんの『寮に入る』という話。
それが何を示しているのかと言われれば、ニコラスさんの言葉を借りるなら『一枚岩』じゃない人たちみんなが納得しているっていうことです。
王弟殿下とキース・レッスさまで思惑が違うのもなんとなくわかっておりますし、ニコラスさんは当然王太子殿下、それからクリストファは……宰相閣下に言われて私に教えたのか善意なのか、判断はつきかねます。
とりあえず、そんな一癖も二癖もある方々が彼女を寮に入れるということに賛成し、その方向でもう話は進んでいる……のではなく決定したのでしょう。
その証拠に、その話は瞬く間に王城内の侍女たちの話題にもなっていて、ここでその話が出ているということは当然、町の方にも話が広まっていることでしょう。
そういうところ、怖いよね!!
「ユリアさま、ため息増えてますよ?」
「幸せが逃げますわよ?」
後輩コンビに突っ込まれるこの状況も慣れたものですが、いやぁなんていうか怒涛の展開でため息くらいいいじゃないですか……。
とはいえ気を抜きすぎですね!
「ごめんなさい、気を付けなくてはね」
「でもわかりますよぅ、公爵夫人のお茶会が近いんですもんね!」
「けれど、ごくごく身内のお茶会なのでしょう?」
「……ええ。そうね」
そうなのです。
以前から打診を受けていた例のお茶会、その日が近づいてきているのです。
当然その日は私もお休みを頂いて行動するのですから、二人も知っているというわけで……なんだか私よりも彼女たちの方が堂々としているような気がする。
いや他人事なんだから当然か。
今回公爵領まで行くのではなく、城下にある公爵家の町屋敷……屋敷ってレベルじゃないんだけど、そこでお茶会をすることになっている。
パートナー同伴であり、他の参加者は秘密だが私の誕生日を祝うことが前提の、ごく内々の茶会だから礼儀作法や話題などそこまで気にすることなく気楽に参加してほしい……って言ってもらえているのだから私は本当に果報者だと思います。
「ビアンカさまとは光栄にも幾度となく言葉を交わさせていただいておりますけれど、やはり子爵令嬢として訪問する立場というのは初めてですからね」
「公爵家のお茶会ってどんななんでしょうね!」
「今ある公爵家の中でも最も力があると言われるお宅ですもの、たとえ町屋敷で開かれる茶会であったとしても格式高いものに違いありませんわ!」
「……二人とも、私以上に楽しみにしているようなのは気のせいかしら?」
きゃっきゃと楽し気にあれこれ想像する二人は可愛らしいけれど、その内容は私のプレッシャーになるんでちょっと控えていただけませんかね。
なにせ今回、私はお客さまの立場……普段ならおもてなしする側なのに、もてなされるのです。
慣れない。圧倒的にこの不慣れ感。
筆頭侍女としてお伺いするっていうお話なら何も緊張なんてちょっぴり、ほんのちょっぴりだけで済むんですけどね!
とはいえ、私もこのお茶会はずっと楽しみにしておりました。
(公爵家のおもてなし、当然ですけれど最高位貴族としてきっと質の高い使用人たちを雇っておられるに違いありません。バウム家の町屋敷の方々もなかなかハイレベルでした!)
うん、是非とも見て学ばせていただきましょう。
私もまだまだ若輩者、近年王女宮の筆頭侍女としての仕事で評価を頂くことも増えましたが、本来の私はプリメラさまの専属侍女なのです。
勿論、王女宮の筆頭侍女という立場も非常に学ぶことが多く、充実感があり遣り甲斐もあるという素晴らしいものなのですけれど……こうして可愛い後輩もおりますし。
(でもやっぱりプリメラさまに喜んでいただける侍女でありたい!!)
あと、出来たらあのドルチェ好き夫婦の下で働くコックが用意するお菓子類はしっかりと見て覚えていきたい!!
作れるかどうかは別として! 私が味と盛り付けを覚えて伝えれば、きっとメッタボンが何とかしてくれる……かもしれませんし。
(でも他に誰が参加するのか、それが気になるなあ。ビアンカさまが招待するお客さまなのだから、大丈夫だってわかっちゃいるんだけど)
今回はサプライズ尽くしですものね。
まさかのアルダールにエスコートされるという行く前からのサプライズは見事に驚かされましたけれども。
でも快く引き受けていただけたのですし、まあそこの緊張はまた別もの……ああうん、そっちも緊張する。
「ユリアさま、当日お化粧とかお手伝いしなくて大丈夫ですか?」
「ありがとうメイナ、……一応自分でやるつもりだから大丈夫よ」
「はい、わかりました! でもいつでも仰ってくださいね!」
「ワタクシも、髪を整えるなどでしたらお手伝いいたしますわ」
「スカーレットもありがとう。私がいない日、しっかり頼みますね。セバスチャンさんもいるから大丈夫だとは思うけれど」
「はい、わかってます!」
「ワタクシにお任せになるのですから大船に乗ったおつもりでいてくださいまし!」
スカーレットが相変わらずどや顔するのももうすっかり慣れました。
いやあ、なかなか直らないものですね……前よりはずっと大人しいので可愛らしいところだとみんな微笑ましく見ているんですが、スカーレットは気づいておりません。
「後は当日天気が良いといいですねえ!」
「ええ、でもそれはもう運だものね」
メイナの言葉に私も頷く。
こんな感じで穏やかな日が続けばいいんだけどなあって思います。
初のお茶会経験は恐れ多くもお友達であるビアンカさま主催だし、ちょっとだけ緊張するけれど要するに誕生日パーティ開いてもらうようなものです。
いやそれはそれで恥ずかしいな、小学生か!
小学生の誕生日会と同レベルでないことは当然ですが、……自身に茶会参加経験がないっていうのがこんなにも“参加者としての自分”が想像できないものだなんて思わなかった……自分の想像力の貧困さに今愕然としてる……!!
(とにかく、怖いことは何もない! 危ない人もいない! そこは安心できること!!)
そして、今回のお茶会が終われば来月は顔合わせです。
弟の結婚、家族の一大事! でももう両想いで幸せオーラ出しているようなので、そこもあんまり心配いらないのはとても私の気持ち的に助かります。
(でも緊張はするのよねえ……)
だって初めてのお茶会ですよ! 令嬢として礼儀作法、大丈夫ですかね。
あんまり気にしないで良いってビアンカさまは言ってくれたけれど。
エスコートされて転んだりとかしないかな、今までそういうのなかったけどその時だけやらかすとかそんな面白おかしいコメディ映画のお約束かってことを仕出かさないか自分が心配でたまりません。
ついでに顔合わせの方も実はすでに緊張しております。
だって、弟のお嫁さんですよ! ああーあの子がお嫁をもらうだなんて……しかも可愛かったオルタンス嬢。ゲーム画面で確かに見たことがあるけど実物は超可愛かった。
あんな子にこれから『お義姉さま』って呼ばれるとか新しい扉が開かれそうで怖い。
顔合わせの日に声が裏返らないかも怖い。
今のうちに胃薬を買っておこうかしら。
……実家のお父さまに聞いたら良い胃薬紹介してくれないかしら?




