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「話はまとまったようで何よりだ」
「は、はい! 畏れ多くもこのような新参者に、お優しき配慮をしていただけること、光栄でございます……!」
「ああ。この国の民であり英雄である男爵には今後も期待をしている。周囲の環境が変わったことで苦労もあるだろう、そなたの娘もデビューの場で良き繋がりができて互いに支え合う友ができると良いな」
「む、娘のミュリエッタもその優しいお言葉を聞いたならば感激することと思います、ありがとうございます!!」
支え合う友という言葉に王太子殿下がちらりとディーン・デインさまを見て二人して何故か頷き合っている姿はなんだかよくわかりませんがこの短時間でお二人は友情をはぐくまれたんでしょうか? 間にいらっしゃるプリメラさまがニコニコしているので、まあ可愛らしい!! じゃなかった、どうやら良い関係を築いたのだなあとは思いますけれど。
ぺこぺことお礼を言い続けるウィナー男爵に、王太子殿下が一つ頷いて「そういえば」と言葉を続けられました。
「予定よりも早く到着したようだし、昼食はどうした?」
「え、いえ、あの……た、食べておりません」
真っ直ぐなその視線に恐縮しっぱなしのウィナー男爵は、身体を縮めてついには下を向いてしまいましたが……その様子を王太子殿下が気になさることはありませんでした。
ウィナー男爵のその言葉に王太子殿下が一つ頷きました。
一緒に食べるつもりだったのかなと私は少しだけ思いましたがいやまあこんな様子ではそんな大それたことは考えて居なそうです。
「ニコラス、食事をウィナー男爵たちに準備するように。共にテーブルをと言いたいところだが。あまり娘を一人にしておくことは男爵も心配であろう、客室の方に準備をさせよう」
「あ、ありがとうございます……!!」
「それでは直ぐにでも準備を。男爵さまを客室までご案内して参ります」
そしてニコラスさんはそのまま王太子殿下に向かって綺麗なお辞儀をしてウィナー男爵を伴って部屋を後にしました。
多分緊張しすぎて時間を間違えたとかそんな感じだったのかな……と思ったところで私はこれがニコラスさんが仕組んだんだと思い当たりました。気付くのが遅いというか、まさかそんな姑息なことをする必要がどこにあるのか意図がまるで見えなくて怖いなあ!
だって、王子宮から迎えの馬車を出しているって言っていたんですからね。
時間に対して遅れることはもとより、先に着きすぎてもいけないということくらい御者だって承知しているはずです。
ましてや、ここは王族直轄の森。周囲が他の馬車によってどうこうというトラブルもないことを考えると幾分か早く着きそうでも時間調整で途中スピードを緩めるとかできそうじゃないですか。
我々の昼食が終わっていないことを考えると、かなり早めについた計算になりますからね。
(社交初心者だから準備に手間取るだろうとか、そういう建前を述べて急かして乗せたとしたら?)
思わず王弟殿下を見れば、にやりとした笑みが返されましたよ。
その笑顔の意味はどっちだ!?
意味を図りかねて私はアルダールの方を見ました。彼ならわかるかなと思いましたが、私の視線に気が付いたアルダールは小さく苦笑を浮かべただけでそれ以上何かを教えてくれる様子はありませんでした。
(……つまり、あまり深く私は関わるなってことでいいんですね?)
多分、そういう意味じゃないかなって思うんですけれども。
にこにこと楽しそうにしているプリメラさまのお気持ちが暗くならないならば、まあそれなら構わないんでしょうが……楽し気なこの会の裏で何が行われているのかなって思うとあれですよ。
オトナって、コワイ。
その一言に尽きますよね!!
私なんてこう、しれーっとなんでもないような顔してこの場に座ってますけどね!
内心このようになんで大人の陰謀渦巻いているような場所に招かれてるのか心底不思議でしょうがないんですけども。私はしがない侍女なんですよ!
いやまあ筆頭侍女している段階でしがなくはないのか!?
よし言い方を変えましょう、私はこの場においてはしがない子爵令嬢です! うん、これならしっくりくる。
(って違うわ! そういうことじゃない!!)
ああーもう、どうしてみんな平和に生きていけないんでしょうか。
いえ、わかってますよ。ミュリエッタさんの今までの行動がちょっとそぐわないことばっかりだったってことですよね。
だから監視だけで済んでいたのがそれじゃ足りないなって判断が下されてのニコラスさんですもんね! わかってますよちゃんと理解しておりますとも。
で、私絡みで、というかアルダール絡みで彼女が妙な行動を起こしてクーラウム王国の品位を落とされては困るってことですよね?
そういう意味で捉えていますが、違うのかな。
まあなんにせよ、私としては積極的に接点を持っているわけじゃないしアルダールだってそうなんだから逆にこんな場を整えられちゃったことの方が怖いんですよ。
いいじゃないですか、デビューの場があるからそこに行くようにねって教育係さんを通じてお知らせしてくれればそれで済んだ話じゃないですか。
(……あえてこの場で、仲間外れ状態で、多分今頃父親からその話を聞いているであろうミュリエッタさんの気持ちを考えると、ちょっと……うん、いや大分、同情的な気持ちになるっていうか)
そんな風に考えるのは良くないって前も自分で思いましたけどね。
それでもこのやり方は、随分と意地が悪いように思うんです。
プリメラさまはどこまで知っているんだろう、とか……私だけが知らなかったのかな、とか……まあこう、ぐるぐるモヤモヤするっていうかですね。
わかっちゃいるんです。
これは『英雄』というネームバリューを持つがゆえに生じた問題点。
それだけ彼女たち父娘は注目を国内外から集め、民衆にとって影響力があるっていうことです。貴族になるっていう羨望を一身に集め、憧れを受ける立場となった彼らが軽率な言動を取るようでは示しがつかず、だからといって厳しくしすぎては民衆の反感を買う……そうならないためにも必要なこと。
(でもこれ、逆効果になったりしない?)
ミュリエッタさんが、私と同じ転生者で前世の感性のまま行動をしていたら、とそれを物差しにして考えるとちょっとよろしくない気がします。
この世界の一般常識の物差しと、彼女が描く『ゲーム世界』の物差しではかなりの違いが生じてそれがストレスにならないかなって。
「ユリア」
「はい、なんでございましょうプリメラさま」
「あのね、もし良かったら……なんだけど、あの、ウィナー男爵とミュリエッタ嬢にね、マシュマロを分けてあげられないかしら。同じテーブルを今回は囲むことができなかったけれど、せめてここまでいらしたのだもの。何かしてあげたいと思って」
「プリメラさま……!!」
あっ、私がぐるぐると悩んでいるっていうのにこの天使!
天使がいます!!
そうよね、やらない善よりやる偽善ってなんか聞いたことある気がしますしね!!
私からなにかしてあげられることなんてないんだから、せめて美味しいお料理……は王子宮の方々にお任せするとして、マシュマロくらいは共有して楽しんでくれたらいいですよね!
「そこまでの量はございませんが、きっと楽しんでいただけることかと」
「そうよね、このお菓子わたしは大好きよ! ね、兄さま、ディーン・デインさま!」
「ああ、不思議な食感だ」
「ユリアさんは本当に色んなことを思いつきますね」
「恐れ入ります。王女宮の料理人が大変有能で、かつ行動力に溢れる人物ですのでいつも私も助けられております」
メッタボンの顔を思い出して、私とプリメラさまは笑い合いました。
プリメラさまが見せた気遣いによって、場の空気が一気に、こんなにも温かなものになるなんて!
やっぱりうちの姫さまは、最高です……!!




