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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 隠すこともない嘘くささ満載の和やかさ。

 ああー肩が凝るっていうか、こういう腹の探り合い? マウントの取り合い? そういうのって私の柄じゃないんですよね!!

 もうお父さまは我関せずって感じというか、口を挟みたくてもどこから挟んでいいのかわからないっていう感じですし。私が話題を振っても一言二言で終わらせちゃってたらそりゃ会話も広がらないけど。緊張しすぎでない!?

 あちらの次期伯爵さまはどうやらこの場を静観すると決めたらしいし、自分の息子が失言しないように見張っているという方が正しいのか。


 だとすれば、パーバス伯爵さまとそのご一家は確実に『伯爵本人が中心で回っている』と考えていいのでしょうね。息子に意見を求めることもなく、娘であるお義母さまに私を止めるように言わない辺りすべてを自分の思うがままにコントロールする、そういうタイプなのでしょう。


「そういえばメレクや、オルタンス嬢とはどうかね?」


「はい、おじいさま。仲良くしております」


「そうか、そうか。今まで自領の方が忙しく、お前にはなにもしてやれなかった祖父を許して欲しい。今回息子を伴ったのもな、近くわしは引退をして伯爵家を息子に譲るつもりでな? そうすれば時間がいくらでもとれるゆえ、今更ながらで悪いが祖父と孫、改めて時間を持ちたいと思ってな?」


「……」


 メレクが、答えを上手く出せずにいるのが見えました。が、ここで私が口を挟むのは良くないのでしょう。お義母さまも何かを言いたそうですしね。

 あちらのエイリップ・カリアンさまはものすごくイライラした様子を隠せていない辺り、彼は私と同じ年頃でもあまり社交的な場数を踏んでいないことがわかります。

 まあ次期伯爵が父親、という段でそこまで世間では重要視されない身分ですからね。伯爵家の直系、軽んじるほどでもないが重んじることはないというところでしょうか。将来を見据えて多少仲良くしておこうかなっていうところでしょう。

 なにせ彼の年齢でしたらメレクと同じくして『次期』とか呼ばれる人の方が多いですからね……そういう意味ではパーバス伯爵さまが今まで隠居なされずに長く伯爵位にあられることは、あちらの家にとっては色々な問題を孕んでいたのかもしれません。まあそこのところは我が家に関係ない、で済んでいれば別に気にするほどでもなかったんですが……そうも言っていられないのが現状。


 ではなぜ、そこまで長く就いておられた伯爵位を今になって引退すると決めたのか。

 考えられるのは、年齢。それから……次期伯爵に問題があったと仮定してそれが解決された、とか?

 メレクがセレッセ伯爵家と姻戚関係になるそれが引き金であることは間違いありませんが、そこで引退すると言ってくる辺りが問題ですね。


「息子に家督を譲り次第、わしをしばらくこのファンディッド家に置いてもらえんかな? 子爵。なに、領地運営の邪魔などせんよ! 可愛い孫との時間を取り戻したいだけじゃて」


「は、は……いえ、それは、あの……」


「お待ちくださいおじいさま、お言葉はありがたく思いますが僕は次期子爵として行動をせねばならない時期。幼い子供ではありませんので、ぜひこれからは社交界などで親交を深めていただけたらと……」


「メレク、折角おじいさまが仰ってくださる言葉に……」


「……母上……」


 おずおずと言わんばかりのお義母さまは、どう見たってパーバス伯爵さまの顔色を窺っているかのようだ。うーん、あまり良くない。

 というか、今まで放置していた孫を可愛がりたいから準備期間をやるから自分が暮らす場所を用意しておけよっていう要約になるんですが、それって乗っ取り案件? メレクを傀儡にしたいってこと?

 うーん、お義母さまとあちらの次期伯爵を見る限り、私の判断としては父親に逆らえない親子関係という感じなんでしょうかね。まあ、良い大人なのでちょっと表情を読み取るとかはできませんが。

 なにせイライラしているとはいえ、エイリップ・カリアンさまもパーバス伯爵さまから叱責を受けないよう大人しくしているところを見ると伯爵家内の力関係ははっきりしておりますものね!


 侍女という、主人の後ろにいてみなさまを観察して行動するということがテーブルについているとできませんからね。勿論、侍女の時でも不躾にじろじろ見ているわけではありませんが……その時よりもさらに控えめに行動しなければならないのは、少しばかり窮屈です。

 とはいえ、今の私は『ファンディッド子爵令嬢』としてこの場をどうしたものやら。


「お義母さま」


「な、なぁにユリア」


「パーバス伯爵さまがご滞在なさることは、メレクにとっておじいさまとのお時間。それは間違いありませんけれど……そうなると、セレッセ伯爵さまにもお伺いせねばならないと思うんですが」


「えっ」


「その点、どのようにお考えですのパーバス伯爵さま」


「……そうですなあ」


 あっ、目が笑っていないその顔知ってますよ。

 余計なことを言いやがって、ってところでしょうか? 残念、そういうお顔は王城でたくさん見ておりますから私、怯むことはございませんよ。寧ろ私の隣に座しておられるエイリップ・カリアンさまからの視線の方が痛いっていうか見過ぎ。


「私としては反対も賛成もできぬ立場ですが、セレッセ伯爵さまとは光栄にも以前の社交界デビューの折りにお言葉をいただいております。今回あの方の妹君がメレクと婚約していただくとなると、いくら引退済みとなっていようが、ご当主経験のあられたパーバス伯爵さまがご滞在となるとセレッセ伯爵家としてもあまり良い印象をお持ちにならないのではと思うのです」


「あ、姉上。そうだと僕も思います! ね、父上!!」


「そ、そうだなあ。でもパーバス伯爵さまはメレクの祖父であることも事実で……」


「ええ、ただそうするならばご一報入れないというのは失礼ではと思うんです」


「うむ、うむ。ユリア嬢は本当によく気が付かれる女性だ! 素晴らしい!」


「ありがとうございます」


「その点についてはわしから一筆書いて済ませようかと思っておったが、そうじゃなあ、ついつい孫可愛さにファンディッド子爵家の顔を潰すところであったわ。わしの一筆と共にファンディッド子爵からの一筆もあれば良いのではないかな? ん? どう思われるかな、ユリア嬢」


 にんまりと笑った顔が、ちょっといやな雰囲気よね。

 私はにっこりと笑うしかできないけれど、そんな手紙をもらったらセレッセ伯爵さまが良い顔をなされないだろうなあってレジーナさんからの話を聞く限り思うわけで、なんとか阻止しないといけない。


 とはいえ、私は直の血縁ではない以上……そうだ。


「けれどそうなりますと、そのまま繰り上げでエイリップ・カリアンさまが次期伯爵になられるということですのよね。マルム・フリガスさまも領地を継いだばかりの折はお忙しいでしょうし、次期当主の教育には当主筋が携わるのが常というもの」


「……俺が、次期伯爵」


「そうでしょう? マルム・フリガスさまが跡目を継がれるのであれば、その嫡子であられるエイリップ・カリアンさまが次期伯爵と指名されるのは貴族としては当然ですもの。ですけれど、爵位交代の折はどこもそうですが混乱がないとは申せませんのでパーバス伯爵さまがそのまま後見としておそばにいてくださったらきっと心強いでしょうと思います」


 にやぁって笑ったエイリップ・カリアンさま、ちょっと不気味です。うん、嬉しいんだろうけど……もう少し社交界的には顔に出さないってことも覚えた方がいいんじゃないかって他の家の人ですが若干心配になるレベルですね。

 私の言葉に、次期伯爵であるマルム・フリガスさまも思うところがあるんでしょう。思わず父親の方に視線を向けている辺り、パーバス伯爵さまが独裁者気質なのでは、と私は感じざるを得ませんでした。


 そのパーバス伯爵さまは、ニィ、とただ笑っただけでそれがかなり不気味だなあ、なんて。

 

(さすがに、ちょっと失礼か)


 勿論、顔には出しませんでしたけどね!!

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