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8/10 第二巻発売となっております! 我らがスカーレットの活躍、どうぞご覧いただけたら幸いです~!! 恋愛もちょっぴり増しての園遊会編! よろしくお願いいたします。
クリストファと少しだけお喋りをした後に、彼からの贈り物を開けてみました。
小箱には可愛らしいポプリの瓶とハンカチが入っていました! わあこれ、このポプリは手作りかな? 良い香りがします……!!
可愛らしいことだと嬉しくて嬉しくて。
思わず聞こえたノックにも上機嫌で出てみたら、あっこれやばいパターンだった、と思うのでした。
ええ、うん、あのね。アルダールが来てくれました。
まあそこはね!? 仕事が忙しくて久しぶりに会いに来てくれた恋人、嬉しくないわけじゃありませんよ。ただほら、ね? 明らかに怒ってるっていうの? 不機嫌そうっていうのはさ。
しかも私に心当たりがあるっていうのがね? ちょっとこう……居心地悪いっていうか。
「あ、アルダール、あの、もうお仕事落ち着かれて……?」
「うん、そろそろ恋人の顔を見に行くくらいの余裕はね。入ってもいいかな?」
「……え、ええどうぞ」
深夜というほどじゃないにしろ夜の時間帯に、自室側にお客様もとい恋人を招き入れるというのはどうにも背徳的な何かをにおわせるような気がしますがそこんとこどうなんでしょう。勿論そんなことありませんけど! ありませんけど……あっ、でももうキスはしたしないとは言い切れない……?
むしろどこかの誰かが夜に恋人の部屋に入っていく姿を見たらそういうことになっていると思われても仕方ない……!?
い、いえ。
アルダールと恋人関係なんだからまあそういう風に誤解されたとしてもしょうがないかなとどこかで思ってますけど! それにここは使用人区画とはいえ王宮側なんだから誰かに見られて、なんてこともそうないでしょうけど!!
アルダールを部屋に招き入れると、ようやく彼は少しだけ表情を和らげて微笑んでくれました。思わずこっちもほっとしたわ……。イケメンの不機嫌な顔は綺麗だけど怖いって。
あれ? でも今なんかドアの鍵かけませんでした? あれあれぇ!?
「あのアルダール? 今何か鍵を……」
「ああうん、かけたね」
「何をしれっと!?」
「いやだってユリアだって普段は自室側は鍵をかけるだろう?」
「それはそうですけど! あれ? いやでもなんか違う!?」
なにかおかしなことを言ったのかってくらいしれっと言いましたけどやっぱりなんかおかしいですからね!? さすがにごまかされませんよ!!
ま、まあ鍵を開けっぱなしというのは不用心ですからいいのかな。いやでもアルダールが一緒なら大丈夫な気もしますけど。
「まあまあ。何かやましいことがあってのわけじゃないし、勝手に入ってくるような人はいないだろうけど念のためね」
「……う、うーん?」
まあ確かに恋人同士の語らいなんぞしてる時にまたスカーレットの乱入とかあったら恥ずかしいですしね、私が。ン? あれ、結局アルダールのしたいようにされている……?
い、いやいやそんなことはないはず。そうよ、私がちょっとだけ後ろめたいからあんまり強く出られなかっただけの話です! それにほら、正しいこと言ってたわけだし……? うん? 本当に正しいのかと問われるとちょっと自信が……?
「ほら座って」
「いえ、ここ私の部屋で……お茶淹れますね」
「ありがとう」
ニコニコ笑うイケメンの破壊力よ……!!
仕事が終わってから来たらしく、ラフな格好だしさ……。さっきまでの不機嫌は一体なんだったのか。いえ多分この後お説教が待っている気がする、うん間違いない。
お茶とお茶菓子で懐柔……できないだろうなあ。
「どうぞ」
「ありがとう。……今日、演習場に来ていたね?」
「ええ、よく気が付きましたね」
「ちらちらと人影が見えてはいたからね。……で、何をしていたんだい」
「エーレンさんが演習場に行くのは気が引けるというので、私権限であの部屋に入って見学したんです」
「……ふうん?」
かいつまんで、エーレンさんがエディさんと共に行くこと、それを改めて認識してもらうために行ったのだという話をすればアルダールはただ頷いただけでした。え、お説教回避できた?
いやあのニコニコ笑顔には裏がある! そう私の本能が告げている!?
そんな能力持ったなんて話生まれてこの方ないですけども。
「ねえユリア?」
「はい」
「そこの小箱はなにかな?」
「これですか?」
あれっ、やっぱりお説教は回避?
ちょっとほっとして私は先程クリストファからもらったばかりのポプリとハンカチをアルダールに見せました。
「クリストファがくれたんです! 私は何もお返しを用意できていなかったんですが……こうして職場も違う子に慕われるというのは、とても嬉しくてありがたいものですよね……!」
本当にね! だってクリストファは宰相閣下の、というよりは公爵家に仕えている子だからね。
私がついつい声をかけたりしたのがきっかけとはいえ、こうして新年の贈り物をくれるくらい慕ってくれるというのはとても嬉しいです。口には出しませんが、弟のように思っておりますから。だって可愛いんだもの……!!
「そうか。……うん、良かったね?」
「はい! あ、れ、あの、アルダール?」
「うん? ほら、こっちへおいで」
「いやいや、えっと」
「こっちへおいで?」
優しい声に手招き。人が見たら、恋人がただ甘やかに呼んでいる……と思うでしょう。
でも違うぞこれはなんか違うぞ、私は知っているぞこれアルダールが意地悪な時の、というよりはあの新年祭の時の甘ったるいお説教と同じ匂いがする! これは危険だ……!?
でもこれ、行かなかったら絶対アルダールが実力行使に出てもっと酷いことになるパターン。そう、私は学習する女です。……ええ、まあ。そう、アルダールの座っている椅子に、別の椅子を持って近づいて、と。
「わぁ!?」
「うん、これでいい」
「ここここ、こ、こ、これでいい、じゃないです!?」
これで満足だろうと彼の隣に椅子を持ってきて座ろうとした私の腕を掴んだかと思うとそのまま……そのまま、ひょいって。ひょいって!?
わぁ力持ち~……とかそういう問題ではありません。私、オン・ザ、膝の上。勿論アルダールの。
椅子は丈夫ですからね、大人二人の体重でも軋むことはありませんでした。わあ、さすが王宮にある一級品の家具ですね……って違ああああぁぁぁぁう!!
なんですかこの状況! なんですかこの羞恥プレイ!
「アルダール! おろして……っ」
「だって会えていなかったから」
「は!?」
「少しはユリアを補充しないと」
「ななな何を仰ってるんですか! だめです破廉恥です降ろしてください!」
いやいや、キスした仲ですし恋仲ですしある意味ありっちゃーありなのかもしれませんが私的にはアウトです!! そこまで大胆にはなれませんからね!?
だってあのキスだって私意識してやったわけじゃないからほらノーカウントですノーカンです。
私がじたばたしたせいか、アルダールがちょっとムッとした雰囲気を出しました。
あっ……怒らせちゃった? 思わず心配になって彼の方を見上げれば、ぎゅっと抱きしめられました。
(うわ、うわ……)
「ツレないなあ、キスまでした仲だろう?」
「そっ、れは、そう、ですけど……!!」
でもそれとこれは別だって!
アルダールが拗ねたような声を出すから私が悪いみたいになってるけど、いや恋人としてはここは素直に甘えるのがいいのか!? いやでも恥ずかしいよね、恥ずかしいでしょこれ。これはあまりにも恥ずかしいでしょ!!
「じゃあ、キスはしてもいい?」
「えっ!?」
「だってこの間はきみからしてくれたじゃないか、だからそこまでなら触れてもいいってことだろう?」
「そっれは!? そう!? じゃないっていうか! 違う、嫌なわけじゃないんですけど……!」
「嫌じゃないなら、いいね?」
「ええええ」
あれえええええ!?
アルダールってこんなに強引だったっけ!?
私が目を白黒させる姿に、アルダールが目を細めて笑う。
あっ、これ揶揄われたんだ……と思った瞬間に顔にかかる影。
「可愛い、けどね……もう少し、警戒しないと悪い男はすぐにそこにつけ入るから気を付けないと」
「あ、あるだーる?」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で、アルダールが笑った。
青い目が、私のことを見る目が、あの新年祭の日みたいに、いつもと違う雰囲気を讃えていて。
「私みたいな、ね?」
そしてそのまま、私の反論は呑み込まれたのでした。
あれえええええ!? やっぱりこうなるのかな!?
ゆりあ は にげみち を ふさがれた!




