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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 威勢よく啖呵を切りました! よくやった私!!


 ……とお思いでしょうか。いやいや個人的には頑張ったつもりですよ。ええ、自分自身を褒めたいです。

 でもまあ、それもこれも脳筋公子側もお忍びであること前提だからこそ、であってですね?

 これがもしお付きの人とかで何も考えないタイプの脳筋とかだったら私無礼討ちされてたかもしれませんよね。まあアルダールがそばに居る以上、守ってもらえるかもしれませんが……そこに期待して行動するようでは浅はかというものです。

 かっとなってやった。反省はしているが後悔はしていない。

 まさにこの状態ですが、今後も似たような状況になったときに上手くいくとは限りません。


(私もまだまだ未熟者ってことですね……よくないなあ、気をつけなきゃ……)


 で、なぜ反省しているかといえば、まあ平たく言うとアルダールに説教されてるんですねこれが!!

 あの後、脳筋公子は私とアルダールを見据えたまま口を閉ざしあちらの爺やさんは青い顔をしたままオロオロしていたかと思うと、ようやく他の家人が現れてなんと脳筋公子、退散したんですね。

 状況が飲み込めない家人の方々は「えっ?」という感じでしたが、爺やさんに急き立てられるようにして脳筋公子の後を今度こそ見失わないように追っていったというわけです。


 あれはどう判断したらいいのかしら……と思いましたがほっとしたのが正直な感想ですね。

 で、それを見送った後にアルダールが私の手を取って歩き出したんですよ、無言で。

 向かったのは予定通りのミッチェラン製菓店だったので、ああデートの続きをするんだな、と思うでしょ?

 でもこれがねえ、まあ、……うん……無言怖いってやつですよ!!

 

 ミッチェラン製菓店は二階建て店舗で、一階がお店とキッチンエリア、二階にごくわずかな、お得意さまですとか身分の高い方が使用できる個室系の喫茶室があるんです。

 そこに私たちは今、いるわけでして……。

 隣り合わせで座るタイプのソファとテーブルが一つ、観葉植物、身嗜みを整えるための姿見などが置かれた室内。選び抜かれた調度品。まさに高級菓子店ならでは、なんですが……。


「……ユリア」


「わかりました。わかりました、本当にわかりました、すみませんでした申し訳ございません、このような真似はもう二度といたしません!!」


 ついでにこれだけの店構えというだけあって、ちょっとお金を払って城下の貴族館に下働きの方とかを走らせて呼んでもらうとかもできるわけですが、アルダールはここについて喫茶室の利用を申し出た後、鮮やかにそのように手配をしたわけです。

 それで私に向かって「近衛隊長に手紙を書いて届けさせるから、買い物はもう少し待って欲しい」と言われたわけです。

 なるほどって思うじゃん!?

 わかりましたって答えるじゃん!!


 で、手紙を出してお茶とチョコレートを注文して、店員が下がったらお説教開始だったわけですよ!!

 それも、しかもですよ。ぎゅっと抱きしめられて甘く、どれほど心配したか、とかこういう真似をして守るけど自分の目の届かないところだったらどうするんだとか、恋人って言ってくれたり呼び捨てにしてくれたりするのは嬉しいけど他の男に向かってってところがどうなのか……ってあれ? 途中からおかしくありません?


 で、まあそれはともかくとして。

 それを元々が隣の距離ですよ、肩が触れる距離ですよ? それなのに抱きしめるとか、耳に直接囁きかけるようなそれは……それは……あーっ、耳がくすぐったい! じゃない、ちょっと中毒性! 違う!!

 とにかくもうしませんとお約束するしかないじゃないですか! 何この恥ずかしいの。新手の拷問ですか昔からありますかそうですかこれは恥ずか死ねる。


「……なら、いい。ギルデロックはああいった気性だから、ユリアのことを手出しするような真似はしないだろうけれど……彼の家人はどうかわからないだろう?」


「そ、そうですね……その点は軽率だったと、反省してます……」


「でも。……ありがとう」


「えっ」


「私の為に、怒ってくれたんだろう? それは、素直に嬉しかった」


 ふっと心配そうに眉根を寄せていたアルダールの表情が、柔らかくなって笑みに変わる。

 嬉しそうに、目を細めて笑うその姿は本当……本当、イケメンってやつぁ!

 思わずなんでかこっちが恥ずかしくなって俯いちゃいましたよ。


「まあ、元々は私がギルデロックの要求をなあなあにしたことが原因だったんだ。だから巻き込んですまないと思ってる」


「……色々、聞いてもいいんですか」


「うん。聞きたいことがあるなら、……まあ、答えられる範囲でってことになるけどね」


「バルムンク公子が、公爵位を継がれると仰っていたのは」


「それは本当だよ。うちにも招待状が来てね……まあ行かないから、お祝いの品だけは贈らせてもらうことになっていたんだけど」


 まあ、普通に考えたら家同士のお付き合いがあるわけでなく、寧ろ隣国で名前を知っているぞっていう程度の関係。

 同じ剣の師匠の下で学んだとはいえ、リアルタイムで一緒だったわけでもない。

 あちらの国王の代替わりで外交的にとかでもなければ、他国の大貴族が襲名するからってわざわざお祝いとか行かないものです。それがわかっていながら招待状が来るって辺り、『勝負したい』ってまるわかりですよね。

 でも勿論返事はノー。それこそそんな場で何をって感じです。

 脳筋公子からすると、立場上これが最後のチャンスだったと思っていたのにやっぱり断られて、それでも……って思いで来ちゃったんだろう、というアルダールの見解でした。


「それじゃあ、あの、武闘大会は?」


「うん、新年祭の武闘大会はさっきも話した通りお祭りなんだ。冒険者ギルドや商人ギルドが中心となって行われているから、傷薬などは無償で提供、優勝者は栄誉だけ……っていうね。メリットがないわけじゃないよ、強い冒険者は腕試ししたがる人もいるし、名が売れればそれだけ指名依頼も増えるからね」


「なるほど……」


 そんでもって、お祭りだからか序盤戦とかにちょっと目立ちたがり屋な一般人とかが交じってくるんだそうです。

 大体そういう方々は過去の英雄ですとか、伝説的な悪役とか、そういうのに扮して登場する人もいるんだってことで……まあガチでやりたい人だけが最終的に残るので、要するに盛り上げ専門の前座ってやつでしょうか。

 だから『出てきたのが本人とは限らない』って……えぇーそういうノリってどうなの?

 さすがに国王陛下とかは不敬罪があるのでないらしいですが、バウム家の初代とかはよく名前を使われるんだそうです。あと『稀代の悪党』とか『伝説のなんたら』とかそういうのが人気。

 でも中には騎士団からも名前と顔を隠して、腕利き冒険者に挑戦するために参加する人もいるから残れば相当すごい戦いが見れるんだそうです。

 

 ちなみに、誰に扮しようが構わないけれども名誉を損ねるような振る舞いや行動をしたらコロシアムに衛兵さんが乗り込んでくるんですって。名の知れた冒険者とかになると、本人だけじゃなく真似っこさんが複数いてすごいことになるって……もしかしてメッタボン名乗る人とかもいるのかな……?

 呼び出した時エントリー番号と引き換えに入場しなければ不戦敗になるっていうわかりやすいざっくりお祭りルールであるというのをアルダールが教えてくれました。


「夏には御前試合があるんだ。陛下は王女殿下にそういうものを見せたくないというお考えだから、観覧席にはおいでになったことはなかったと記憶しているけど」


「……そうですね、ですがもうそろそろ公務の一環としてご参加すると思います」


「そうだね。もしかすれば、いずれはディーンも出てくるかもしれない」


 騎士を目指している少年ならば、確かに。

 御前試合は本当に、騎士にとってみれば栄誉でしかありません。優勝者には賞金と栄誉、そして敬愛する、剣を捧げた先――生きた国家である国王陛下より、お褒めの言葉をいただけるのですから。


「アルダールも参加したことが?」


「あー。うん。まあ、一応」


「まあすごい!」


 知りませんでした!

 いや、なんだろう、ごめん。興味がなかったから……反省ですね!


「今は、参加していないよ」


「そうなんですか?」


「うん、まあ……色々あってね」


 苦笑するアルダールに、あ、これ聞いちゃいけないやつだと理解しました。

 私は空気が読める女ですからね! さっきはちょっと失敗しましたけど!!


 でも、うん。

 これ以上は誤魔化しかな。


 私が本当に聞きたいのは、聞いていいのかなって思ってるのは、別のこと。

 聞いたからってどうなるとは思えないし、聞いたからってどうこうできるわけじゃないけど。


「……アルダール、あの」


「うん」


「身の内の獣ってなんですか? 今でこそ大人しい……って……」


「あー、……うん。いや、隠してるわけじゃないし騙しているわけでもない」


 アルダールが、私から視線を逸らす。

 それは、ちょっとだけ躊躇うみたいな仕草で。あれ、やっぱり聞いちゃいけないやつだった?


「あの、言いたくないことなら」


「いや」


 少しだけ、間を置いてから。

 アルダールは、改めて私の手を取った。


「あまり、聞いていても楽しい話じゃない。でも、知ってもいいと、ユリアが言ってくれるなら。……話したいなと、思う」


「アルダール?」


「聞かせるのは、恥ずかしい。私は、ユリアに無様な姿を見せ続けている気がするから余計にね」


「そんなことありませんよ」


「でも、……幻滅せずに、私を知って欲しいとも思ってる」


 曖昧に笑うアルダールの姿は、今までも何度か見てきた。

 それは大体、困った時だったり……誤魔化す時だったり。

 

 私に知って欲しいと言ってくれたのは。多分本心で……怖がっている、ようにも見える?


(どうしよう)


 いや、聞くのが怖いとは思わない。

 でもなんでだろう。

 

 私、この人のことが、どんどん好きになっている、と思う。

 いや恋情があるからね? お付き合いしたわけですが。

 こう……のめりこんでいくっていうの?


 だとしたら、この話を聞いたら……って考えてるんですよ。

 今までプリメラさまの幸せだけを願ってきました。そのお傍にお仕えすることが幸せだって思ってました。

 でも、それだけじゃなくて、この人の隣にもいたいなって思ってるんです。

 それって欲張りじゃないのかなとか、色々考えちゃうんですよ。


(もっとこの人のことを知りたい……って思っているけど、)


「……だめ?」


 ちゅ、と指先にキスが落とされる。

 それだけで、かっと体が熱くなる。


(ずるい)


 あんな風に心配して、甘やかしてくる癖にこうやって甘えてくるんだから。

 その上カッコよくて強くて家柄も良くて? なんてズルイ人だろう。


「……いいえ、聞かせて、くださいますか」


 そういえば折角注文したのに、チョコレートを食べてない。お茶だって手つかずだ。

 それなのに、なんだかもう甘いものをいっぱい食べたみたいな気持ちです。


 いやこの後多分ビターな気分とかになるのかもしれないけどね!? 

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