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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 翌朝、目覚めすっきりおはようございます!

 いやぁ、楽しい事の後ってちょっとくらい体はだるいですけど気分的にはやっぱりリフレッシュするもんですよ、やっぱり日々の生活に充実してるからって別個に楽しみはあっていいもんですね!!


 というのは私だけのようで、メイナとスカーレット、それになんとセバスチャンさんまで昨日のことを聞くと何とも言えない表情をするんですよ……でも大きな問題ではなかったようです。


「問題がなかったならば良いのですけど」


「いえ、プリメラさまは恙なく。バウム公子と楽し気にダンスを踊られ、歓談なさっていました。おふたりとも楽しそうでしてな、ダンスをしては歓談なさり、そしてまたそれを繰り返し。おさがりになる時間ぎりぎりまで仲良くお過ごしでしたとも」


「そうですか、それは良かった」


「例の父娘に関しては、両陛下も王太子殿下も優しいお言葉をおかけになり、父親の方は大層感動していたようですな。娘の方は表情も硬く、余程緊張していたのでしょう」


「……そうですか」


 いやあそれ緊張じゃないと思うな!

 とは口にしませんけども。そうか、プリメラさまはものすごくパーティを楽しまれたのね。良かった良かった。


 ミュリエッタさんに関しては私たちが退室してから一体どのくらい統括侍女さまのお叱りを受けたのか、想像すると……まあ本人の自業自得なんですけど、ちょっぴり同情したくなるのは人情ってやつですよね。きっと。でもこっちからアクションする気はありませんよ。大丈夫、私、地雷を踏みに行くような無謀な性格じゃないですからね!


「あら……? 王太子殿下から彼らにお声をかけられたのですか?」


「そうです。国のためによく頑張ってくれた、これからもよろしく頼む……と。立太の儀を控え、より上に立つものとしての貫禄が増しておられるように見えましたな。厳しさを見せるばかりが上に立つものではないと思う何かがあったのかもしれません」


「まあ、そうなのですか」


「それと、南の国よりお越しの姫君と歓談をなさるお姿は楽し気でしたぞ」


 その光景を思い出しているのか、セバスチャンさんの目がとても和んでます。

 あら……じゃあその姫君がお妃候補確定なのかな。ってことはやっぱり大分ゲームと違ってると思っていいんじゃないかな。

 だって確か私の記憶にあるゲームでは、王太子殿下は“ミュリエッタ”に冷たい言葉を投げかけるわけで。しかもシチュエーション的には慣れないパーティで父親とはぐれてウロウロしちゃってる時にぶつかって周囲には不敬だのなんだの叱られた上でのっていうイベントなんだけど……違うね!!

 まあここから王太子殿下狙いなら挽回していくしかないだろうけど。

 ミュリエッタさんの今までの行動を見る限りはアルダール狙いだと私は思ってるけど。


「ウィナー殿もミュリエッタさんもほかのお客さまと馴染めておいででしたか?」


「……そうですなあ、あまり。ウィナー殿は話しかけられるたびにオロオロしておりましたし、ご息女の方はそばに控えておりました統括侍女さまの手の者が常に注意していたようで」


「ああ……そうですか……」


 それじゃあウィナー殿はきっと事情を知らない人たちから少し微笑ましくもやっぱり田舎者はって思われたかもしれません。事情通な方々は生温かい視線かもしれませんが。

 まあ今後挽回していけばいいだけなので、夜会ってのは場数だってビアンカさまも仰ってましたから!

 是非とも今後、国の為に戦う勇士として頑張っていただきたいです。

 そしてミュリエッタさんは……うん、まあ。ほら、頑張れ……としか今のところ言い様がありません。平素はこれから厳しくなる教育に、王城では統括侍女さまの部下の目がとちょっと窮屈になっていくんでしょうね。

 でもそれもこれも自業自得というか……。


「……私的なことですけれど、私の弟はどうでしたか? 見かけませんでした?」


「勿論、お見かけいたしましたぞ。ご婚約者のご令嬢を伴い、セレッセ伯爵さまと歓談しておいででした。如才なく社交界を渡っておいでですな、安心しましたかな?」


「ええ。……プリメラさまも本日はゆっくりしていただきましょうね。毎年のこととはいえ今年は特に色々ありましたから」


「そうですなあ」


 そうですよ、この一年本当に色々ありましたからねえ。

 プリメラさまにとっても、婚約者候補との出会いから私のお家騒動、ナシャンダ侯爵さまの所でジェンダ会頭に会って、秋の園遊会で公務デビューなさって……ご側室さまがご覧になったらきっとお喜びのことでしょう。

 そのくらいご立派に成長しておいでです!

 

 特にほら、ミュリエッタさんとのやり取り。あれはハラハラしましたけどね。やっぱりあそこで王女としての品格を見せていただきました!!

 普段の生活からすると可愛らしい女の子でまだまだ甘えたい盛りの愛しい娘なんですけどね。ふふふ、私だけの特権でしょうか。


 どこかの小説で、恋は厄介だけれどするべきだ……なんてセリフがありましたがディーン・デインさまとの出会いもきっとプリメラさまにとって大きいんじゃないでしょうか。

 恋して成長するとかプリメラさまったらヒロイン!?

 いや私も恋してるはずなんだけど成長は感じないんですが……これが素質の違いってやつなんでしょうか……。


 というか昨日楽しく過ごして一晩ぐっすり寝て、思ったんですけど。

 この世界は『ゲームを元にした世界』なのか、『ゲームと似た世界』なのか、それとも『この世界をゲームが似せたのか』。

 今まで考えても答えなんか出ないだろうと考えることを放棄していましたが、ここまで“似て”いて、“違う”展開になっていくのは奇妙じゃないのかと思ったんです。

 いえ、勿論この世界は現実です。ゲームのようにセリフがあってそれの通りに動くだけではありません。日常を送る人々がいて、赤ん坊が成長して、泣いて笑って時々戦争とかの話題があって、やれモンスターの被害がとか血生臭いものが聞こえてくる。

 

 そしてミュリエッタさんと私、共通項は『転生者』。

 この世界にこうして生まれたのであれば、逆もあるのではないのか?

 私たちがいた世界に、この世界の記憶を持った人がその記憶のまま生まれていたら?


 ……あれ、余計に複雑になりましたね!!


 うーん。やっぱりそこは考えてもドツボに嵌るだけでしょうか。

 わかっているのは私たちが生きて暮らすこれが“現実”であるし、ゲームで見たことがある流れであろうともそこには小さいもの大きいものを含めて“違和感”があるということですね。

 そもそもヒロイン枠のミュリエッタさんが、前世の記憶を持つ少女、という辺りで大幅に違うってことなんでしょうけど。ある意味生まれ持ってのチート体質といえなくもありませんけど。

 ゲーム上では素質的にチートであって、現実はそこに加えて本人の記憶とやらがあるわけでしょうし。

 だからといってそれがプラスに働くとは限りませんよね。

 知っているからって変な行動をしちゃえば警戒されて当たり前。プリメラさまに対する発言のように。


 だとすれば、もうあんまり【ゲーム】に拘らない方がいいんでしょうか。

 だって王太子殿下だってミュリエッタさんに興味を持ったかどうかわからないですし、持っても別に良いですけど。要するにプリメラさまがお健やかでおられて、アルダールにちょっかいかけないでもらえたら私としてはそれでいいんですから。

 ……そう考えると私そこまで拘っていたかって聞かれると自信ないですけど。ほら、流れを知っててプリメラさまが不幸にならないならオッケー! って思ってましたので現状あんな天使で美少女な成長をしているから心配もそんなにないっていうか。

 聞く限りディーン・デインさまもミュリエッタさんの方を気にせずプリメラさまとのお時間を楽しまれたようですし……これは後でアルダールにも聞いておきたいですけど。


 まあミュリエッタさんの狙いが『攻略対象』でないならもうそっちも私の知っている【ゲーム】からは離れたと思うしかありません。今ある現実、現状でどうやっていくか。


 ……あれ、今までと何も変わらない気がする……?

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