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86

作者: 氷室吾朗

時は西暦2301年。今より遥かに科学が進んだ世界。人は労働と言う物の全てを人工知能を積んだ高性能なロボットやアンドロイド達が担っている世界。遥か昔、東京と呼ばれていた都市のとある区画のとあるアパートの一室。


何やら話し声が聞こえる。それは穏やかとは言い難く聞く者によっては漫才の掛け合いのようにも聞こえまた、口喧嘩のようにも聞こえている。


 『ハロお嬢様本当に行かれるのですか?』

「行く!ずっと前から決めてたから!私の夢を叶えに」

 「ほらロム、いいから早く出してよタイムマシーン」

 『お嬢様わたくしはロムなどと言う名前では無く子守り教育《青いタヌキ》型自律高性能アンドロイド型式(かたしき)番号AZ66号でございますと何度も申し上げておりますでしょうに』

 「ごちゃごちゃうるさいなぁもう、ワゴンセールの型落ちセール品のくせに、ロムはロムなの」


淡く透き通ったかのような金髪を持つ女の子と自称高性能アンドロイドの掛け合いは何時果てる事無く続くかに見えたが、所詮は人間とアンドロイド最後は全ての機械は人間に従うべし。と言う通称【人類保護プログラム】を搭載しているアンドロイドが負けるのは最初から決まっていた。それは一山いくらのワゴンセール品でも同じであった。


 『♪たらららったっら~タイムマシーン!』

 「毎回思うんだけと道具を出す時のその自分で口ずさむ効果音?みたいなのはなんなの?」

 『分かりません私のCPUの奥底に刻まれた(ごう)と言う事以外は』


座布団型タイムマシーンにぎゅうぎゅう詰めに乗り込んだ二人(?)はハロの目的地である、とある時代へと旅立って行った。


 「着いた~ここが21世紀ね、なんだが空気が汚れてる?気がするわね」

 『ハロお嬢様それは仕方ない事かと、この時代まだまだ石炭や石油等といった化石燃料を燃やしてエネルギーに変えていた時代ですので、慣れていただくしかないと愚考いたします』

 「そうね《郷に入れば郷に従え》なんて言葉もあったって歴史の授業で習ったわ。それよりほら早く次の道具を出してよ、このままじゃ私達不審者まっしぐらよ」

 『♪たらららったっら~《ご都合主義ボックス》』


こうして二人の戸籍や住んでるアパート、ハロのアルバイト先からロムの就職先まで実に大活躍の《ご都合主義ボックス》であった。


二人が時間旅行の末にたどり着いた21世紀に来て数ヶ月、ようやくハロの小さな頃からの憧れであった夢の第一歩を踏み出す為の準備が整った。


 『ハロお嬢様ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?何故わざわざアルバイトなどと言う労働をしてまで準備の為の資金を貯める必要があったのでしょうか?《ご都合主義ボックス》を使えば瞬時にお嬢様の夢も叶ったでしょうに』

 「夢だからだよ、夢だからそんな簡単に叶えちゃダメなんだよ自分で苦労して自分で働いて、自分で得たお金を使うからこそ意味があるんだよ。まぁ……何でも合理的に思考するアンドロイドの貴方に言っても理解されないと思うけどね」

 「それよりほら!もうすぐ時間なんだからロムは静かにしてて」


 そう言われたロムは小さな声で


 『スリープモード起動……』


 そう一言だけ呟き静かになった。


 ハロは後ろを振り返り律儀に正座までして座っているロムの姿を確認すると、高鳴る気持ちを抑え付けるかのように大きく深呼吸を1つした。


 「みなさん!はじめまして~おかえりなさい!24世紀の未来から来たヒヨコの86です。気軽にハロって呼んでね。今日は私の初めての配信ですみなさんも楽しんでいってね」


 元気な声でマイクを通して向こう側に居る人達へ挨拶をした。

当然、同接者の数はゼロを示していた。

ハロはそれでいいと思った、私の夢は始まったばかりなのだから。


 こうして未来から来た可愛らしい女の子のハロとハロに翻弄されつつもいつもハロの味方であるアンドロイドのロムの成長日記はスタートしたのであった。


 二人のその後はまた別の機会でもあれば語るとしよう…… 







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