第84回 万人敵(ばんにんてき) 必殺煙玉
火器と思わなくもないけれども、近代兵器ではないのでコッチに投稿。
万人敵・万人敵
以前に紹介した虎落のように竹をスパイク状にして地面に敷き詰めた防衛陣地の事を万人敵と言ったりします。
一騎当千という言葉がありますが、これは1人で1000人の兵士とも渡り合えるという武勇の高さを称える言葉です。
万人敵という言葉は、1人で10000人を敵に回しても渡り合えるという、一騎当千の上位互換の言葉でもあるようです。
今回とりあげる万人敵は防衛陣地でもなければ、褒め称える言葉でもありません。
中国は明の時代、押し寄せる敵軍を想定して城壁を守りきるために作られた、防御のために製造された特殊な武器の万人敵です。
泥で球状の容器を作っておいて、よく乾燥させて割れやすいように仕上げます。
この割れやすい容器の中に火薬を詰めて、導火線を付けます。あまりにも割れやすいため、木枠でこの容器を囲って出来上がりです。
使う時には導火線に火をつけて、木枠ごと城壁の下に居る敵兵に向かって落としてあげればオッケーです。
大きさ縦横高さが60センチ程度の木枠に収められており、中身は割れやすい陶器にパンパンに満たされた火薬ですから、重量はなんと40キログラムにもなっていました。
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~様々な効果~
城壁の上からなら、石を投げつけるだけでも落下のエネルギーが加算されるので十分な威力になります。重量は数百グラムでも十分です。
2階の屋根から拳程度の石を落としただけで、鉄板をひしゃげさせるほどの威力になりますよね。
万人敵は40キログラムもありますから、直撃でもすれは確実にあの世行です。
石は単体攻撃ですが、万人敵は中身が火薬なので爆発するため、攻撃範囲は面です。1個を落として爆発させれば複数人をまとめて攻撃できますし、万人敵の木枠や敵兵の物品が燃えますから、しばらくは敵の接近を阻むことができます。
中身を火薬だけでなく、毒薬を混ぜれば吸い込んだ敵兵をより追い詰める事ができます。助けに来た別の敵兵達も毒にやられて次々と倒れて行くでしょう。
こうなったら、無防備な敵兵が城壁の下で蠢いているだけですから、石でも落としてあげれば簡単に撃破することができます。
毒の性質も、煙に混ざっていくタイプだとしたらより範囲は広くなります。万人敵は落とされた場所の周辺を燃やしますし、使われている木枠自体も良く燃えるようになっています。
たき火で煙をもろに浴びてしまい、目が開けられなくなったという体験、あなたもしたことがありませんか?
中の火薬に毒の煙を立てる薬剤が混ざっていれば、風に乗って敵兵の1部隊全員に目潰しする事すら可能になります。
火や熱によって毒性や刺激性が失われない物であれば、万人敵に詰め込んで毒物として使用することが可能ですから、虫や植物、場合によっては毒キノコや鉱石などまで利用する事ができます。
万人敵は「天工開物」という書物にイラスト付きで紹介されているようです。
この書物は中国の明の時代の産業技術書で様々な物の作り方が載っています。鉄の作り方、布の染め方、農作業や漁業などなど、その中には武器や兵器の作り方も乗っており、万人敵によって悶え苦しむ兵士達もリアルに描かれています。
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現在の日本でもこうした目潰しに使える物というのは売っています。
当然扱いに資格が必要な毒物や劇物の中にもこうしたものは沢山ありますし、中学の理科室程度でも臭いを嗅ぐ事だけでもダメージを受けるような薬品が置いてありますよね。
近所の100円ショップやスーパーでも十分揃います。
粉わさび、粉からし、粉とうがらし、粉胡椒や山椒なども使えますね、これらを固形燃料で熱して周囲に成分を漂わせてやれば……
目も鼻も喉の奥までも潰せます。
自衛隊などではこうした攻撃を受けた時でも冷静に居られるように、無害でありながらも目を開けられず、鼻の奥を指したような刺激を与える成分で満たされた部屋で任務をこなす訓練などもあるようです。
現代でも万人敵のような、火を伴う毒性に対処する必要があるので、古いながらも洗練された武器だったということが分かりますね。
どれほどの威力になるのか試してみたくなりますが、色んな人に迷惑がかかるので、試してみてはいけません。
どうしても試してみたい方は、切れ味の悪い包丁で玉ねぎのみじん切りでもやってみましょう。
目も鼻も使い物にならないくらいの刺激を堪能する事ができますね。この状態では簡単にやられてしまうということが良く分かります。
目がぁ! 鼻がぁ! 喉がぁ!
混ぜる物によって様々な効果を持たせる事ができます。
ちなみに熱によって有効成分が失われる物は使えません。だから玉ねぎ混ぜ込んだりしても効果ないですからね。




