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第三話 ベビー・デーモンの進化

 キルアは密林の奥に足を踏み入れ、山を登っていく。山の上まで行かず、中腹の辺りで登るのを止めて山の中腹を歩く。


 生き延びるために喰い物が必要だ。食料になるヘビや虫の類はないか、気を配って進む。喰えそうなヘビや虫はいなかった。


 三十分ほど歩いて、山をほぼ半周すると、島の中腹に空いた洞窟があった。


 悪魔の目は闇を見通せるので、中の様子がわかった。洞窟は直径二mほどの通路が五m続いており、その先には二十五㎡ほどの四角い空間になっていた。


 空間には木製の机と椅子が二脚あり、机の脇には(むしろ)が敷いてあった。筵には誰かが寝ていた。

「おっと、先客がいるね。どんな奴だ?」


 じっと入口から中を窺うが、筵に寝ている人物は身動き一つしない。ゆっくりと近づくと、筵をそっとはぐる。


 中には白骨化したベビー・デーモンがいた。

「うわあ、これ、下手したら、未来の俺だよ」


「そうならないといいわね」

 背後で急に声がしたので、振り向く。いつのまにか女性が椅子の一つに座っていた。


 女性はピンクの長い服を着て、黒いブーツを履いた女性だった。女性の身長は百八十㎝と高く、青い髪を肩まで伸ばしていた。


 女性の頭には羊のような角があった。女性の肌は白いが、瞳はオレンジ色をしていた。

 キルアはとっさに棍棒を構える。


 女性は気にした様子もなく冷たい顔で簡単な自己紹介をする。

「私の名はラーシャ。悪魔神殿の神官よ」


 ラーシャは何もない空間から、手品のように一枚の黒い布の半ズボンを取り出した。

「生き残った褒美に、それを上げるわ。裸よりマシでしょう」


 ラーシャに裸だと指摘され、多少は恥ずかしくもあったので、ズボンを穿く。

「俺はいったいどうしたんだ? それにここはどこだ?」


 ラーシャが興味のない態度で告げる。

「貴方はベビー・デーモンとして生まれた。ここは悪魔王ゴーサンダイン領のモンブラン島よ」


 納得がいかなかった。だが、ラーシャの説明を否定するのは危険に感じた。


 ラーシャがあまり興味のない顔で告げる。

「名前がないと不便だから、名前を付けてあげましょう。そうね……」


「キルアだ。俺の名前は、キルアだ」

 キルアが名乗ると、ラーシャは不機嫌そうな顔をした。心の中ががざわめく。


 何だ? 俺の名前がまずいのか? それとも、俺が名前を覚えているのが、まずいのか?

「まあ、いいわ」とラーシャは投げやりに発言した。


「悪魔王様が直々にキルアにお話をしてくれるから、有り難く聞きなさい」

 ラーシャが軽く手を上げると、直径二mの、黒い鏡のようなものが出現した。


 鏡は真っ黒で、音声だけが聞こえてくる。


「まずは誕生おめでとう。お前はこれから『シャンナム』での悪魔生が始まる。今のところ、使命はない。好き勝手に生きろ。詳しい話はラーシャから聞け。以上だ」


 鏡からの音声が途絶えると、鏡は煙のように消えた。


 ラーシャが素っ気ない態度で告げる。

「そういうわけだから、勝手に生きなさい」


「放任主義も、ここまで来ると幼児虐待だな。俺はまだベビー、赤ん坊だぜ保護してくれよ」


 ラーシャが険しい顔で、突き放すように発言する。

「赤ん坊だから、何? 小鹿だって、生まれたその日から、厳しい生存競争があるのよ、甘えないで」


「わかった。なら、せめてこの危険な島から出してくれ」


 ラーシャが冷たい顔で拒否した。

「お断りね。島から出すのは私の仕事じゃないもの」


 ラーシャの言葉に苛立つ。

「何しに来たたんだよ? ありがたい悪魔王様からの伝言を聞かせるため、だけか?」


 ラーシャはキルアの首に掛かったメダルを指差す。

「私の仕事は、レベル・アップよ」


「レベルなんてあるのかよ?」


 ラーシャが素っ気ない顔で言い放つ。


「あるわよ。ちなみに銀貨五百枚で、キルアはレベル二になれるわ。銀貨は持ってないようだから、その金のメダルで物納してもいいわよ」


「経験値じゃなくて、金でレベル・アップする方式なのか?」


 ラーシャが当然といった顔で告げる。

「そうよ、世の中は金よ。金」


 レベルが存在するとなると、気に情報もある。

「レベルが上がると、やはり派生進化とかあるのか?」


「あるわよ。当然でしょう」


 レベルがある世界なら、上げるに限る。何せ、この島に格上モンスターが数十といる。せめて同等の強さになっておかないと、生き残りは難しい。


「わかった。レベルを上げてくれ」


 キルアが金のメダルを机の上に置くと、ラーシャがメダルを手に取る。

 金のメダルは空中に溶けるように消えた。


「必要な対価は、確かに頂いたわ」


 キルアの体が、サウナにでも入ったのかのように暑くなる。暑さは二十秒ほどで過ぎた。

 背が十㎝ほど伸び、背中がむずむずして、何かが生えてくる感覚があった。


 ラーシャが微笑んで告知する。

「キルアは、これでレベル二よ。ちなみに、レベル三になるには銀貨千枚よ」


 正直に感想を告げる。

「全然、強くなった実感がないな」


「強くなるのはこれからよ。レベル二になったキルアは進化先を選べるわ」

「レベルが一つ上がると、すぐ進化なのか。どんな進化があるんだ」


 ラーシャがテーブルに手を翳すと、四枚のカードが現れた。

 四枚のカードには簡単な説明が書いてあった。


マリン・デーモン……海辺に住む悪魔。潜水と泳ぎが得意。


デーモン・スケルトン……デーモンと名が付くスケルトン。この進化を選ぶと、レベルが四に固定される。スケルトンの中では下級魔法も使え、武器も扱える強いスケルトン。


悪運デーモン……悪運に恵まれたデーモン。ただし、運が尽きる時に命も尽きる。


死の奴隷……命の定めある存在は皆、死の奴隷である。死体からモンスターを創造できる。


「説明は、これだけ?」と訊くと「そうよ」と素っ気ない返事がある。


「マリン・デーモンへの進化は、ないな。泳ぎや潜水が得意でも、この島では生きていけない。また、島から泳いで出て行けると思えない」


「ないな」と思うとマリン・デーモンのカードが消えた。次に、デーモン・スケルトンのカードに目が行く。


「これもないな。レベルが一気に四になる利点がある。この島で一生を終えるならいいが、こんなわけのわからない島で、終わりたくはない」


 デーモン・スケルトンのカードも消える。

「残った進化先は悪運・デーモンか、死の奴隷か。この先って、どうなっているんだ?」


「それは、わからないわ。キルアがどう生きるかによって、出現する派生先も違うもの」

「死の奴隷の先には凄い悪魔がいる気がする。だけど、あといくつレベルを上げれば凄く強い悪魔に到達するんだ?」


 ラーシャがキルアの心を読んだように発言する。


「死んだ人間を人間として蘇生できる悪魔は最低でもレベル九よ。でも、しっかりとした能力が欲しいなら、十は必要よ」


「死者をも蘇らせるとなると、かなり先か」


 ラーシャがやる気のない顔で、淡々と説明する。


「そうね、レベル十にまで達する悪魔は、珍しいわよ。レベル五、六までは行っても、そこから先で(つまづ)くのが、ほとんどよ。人間に狩られたりもするわ」


「悪運・デーモンって、どれくらいツキがあるんだ?」


 運は生存に大きく影響する。まず、生き残るところが大事だ。

 ラーシャはやる気のない顔で、おざなりに意見する。


「賭場で良い気になっている奴を見るから、そこそこ、ついているわよ」

「なら、大した悪運でもないな。よし、死の奴隷に進化する」


 キルアの体が一瞬、金色に輝く。犬の顔から蒸気が上がる。顔を触ると犬の頭蓋骨を被った形状になっていた。


 ラーシャが冷めた顔で教えてくれた。

「おめでとう、進化を完了したわ。進化したキルアには、悪魔神様からギフトが一つ貰えるわ」


 レベル・アップ=進化で特殊な能力が貰えた。レベル二だからあまり期待はできない。

「どんな能力を貰えるんだ?」


「一つは『死の接触』よ。触れただけで、相手の生命力を削ぐわ」


「吸収じゃなくて削ぐって、のが難点だな。どれだけのダメージが出るかわからないが、棍棒で戦ったほうが、まだ確実だ」


 ラーシャがやんわりとした顔で、あっさりと告げる。


「もう一つは、『スケルトンの創造』よ。死体からレベル一のスケルトンを造れるわ。ただし支配できるのは、二体まで」


 筵の死体に目が行く。


「まずは、こいつで一体目が確保できるか。シオマネキのところにも死体があったから、うまく回収できれば、仲間が二体できるな」


「わかった。なら、貰えるギフトは『スケルトンの創造』にする」


 ラーシャは重要な情報を、さらりと告げる。

「あと、奴隷シリーズは、人間に変身できるようになる特典が付くわよ」


「人間形態になれるのか。といっても、無人島なら意味はないか」

「戦闘能力は悪魔形態のほうが強いわよ。レベル二だと、戦闘能力は悪魔形態の半分程度よ」


「それは素人同然だろう。でも、いいか。試してみるか」

 じっと手を見ながら、人間の姿を念じてみる。


 手に生えていた毛が引っ込み、すべすべの肌になった。犬の頭蓋骨のような頭が引っ込むのがわかる。


 ラーシャが鏡を出して渡してくれる。白い半袖の服に、ベストを着て、だぶだぶのズボンを穿いて、靴を身に付けた十六ぐらいの男の姿があった。


 キルアは鏡に近づいて覗き込む。キルアの顔は面長で、目つきは険しく、締まった口をしていた。髪も瞳も黒かった。

 

「これが、俺の人間状態の姿」

 返事がないので、ラーシャのいた席を見ると、ラーシャの姿は、そこになかった。

種族   死の奴隷 レベル二

ギフト  『スケルトンの創造』


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