第十二話 海戦デーモンと危険な大物釣り
デーモン・ゴブリンが乗員を見渡して尋ねる。
「誰かこの中で、先に出た船の奴らに連絡を取れる手段を持っている奴はいるか?」
誰も返事をしない。デーモン・ゴブリンが再び訊く。
「なら、水や食糧を出せる手段を持つ者はいるか?」
やはり誰からも反応がなかった。
デーモン・ゴブリンが、やれやれの顔で愚痴る。
「水と食糧なしで、一週間か。これは、きつい航海になりそうだぜ」
キルアは船の装備を教える。
「いちおうだが、船には釣り竿を二本、積んでいる」
デーモン・ゴブリンが渋い顔をする。
「積んでいるっていっても二本かよ。ないよりはいいが、子供の遊びだな」
「その子供の遊びが、命を救うかもしれないぜ」
デーモン・ゴブリンは力の抜けた顔で発言する。
「そうだな。あの状態から助かったんだ。贅沢は言えないな」
キルアは尋ねた。
「俺の名は、キルア。この船の持ち主だ。あんたらの名前は」
残った十四人が名乗りを上げる。デーモン・ゴブリンの男は、名をボンブと名乗った。
ボンブが釣り竿とルアーを持って来て告げる。
「さて、釣りタイムの時間だ。釣りが趣味な奴、ないしは得意な奴がいるか?」
レッサー・デーモンのシモンズが手を挙げる。次に人間と似た格好をしたギャザラー・デーモンのマーモンが手を挙げた。
ボンブが冗談めかして告げる。
「よしじゃあ、期待して釣り竿を渡す。でかいのを釣ってくれとは頼まない。ただ、数は、釣ってほしいな。七日間、飢えないくらいに」
シモンズが右舷で、マーモンが左舷で釣りを始める。釣りが得意だと名乗り出た二名だが、初日は全く釣れなかった。
他の者は、警戒のために船の見張り台の上に交代で上がり、人間の待ち伏せを警戒する。
舵を握った経験があるのは、ボンブとメジャー・デーモンのアーゴだけだった。
操舵は自動でもできる。だが、他の船が見えた時には、対処しなければいけない。操舵は替わってもらって交代で休んだ。
二日目になる。人間の襲撃はないが、魚も取れない。釣りをしていたシモンズがぼやく。
「おかしい。魚がまるで掛からない」
ボンブが冴えない表情で語る。
「腕を疑うわけじゃないが、船釣りで二日も釣れないって、おかしくないか?」
マーモンが厳しい表情で語る。
「俺のギフトに、近くに魚群がいるとわかるギフトがある。だが、全く反応しない。現状は腕がどうこうとかじゃなく、魚がいないんだ」
シモンズも、苦い顔で同調する。
「同感だな。まるで釣れる気がしない。でかい水溜りにルアーを投げているようだ」
ボンブは諦め顔で、投げ槍に発言する。
「水溜りで釣りか。そいつは釣れないぜ」
三日目になる。人間側の待ち伏せはないが、悪魔の船も見当たらなかった。
恵みの霧雨が降った。水を貯めるほどには降らなかったが、船に乗っていたモンスターたちの渇きを幾分か癒した。
飢えに乾きに苦しんだところで、四日目にシモンズの竿が大きく撓った。皆の視線がシモンズの竿に注がれる。
シモンズは気合で鰹を吊り上げた。船の上で歓声が上がる。他の悪魔が待ちきれないとばかりに、包丁を手に鰹を捌こうとした。
マーモンが真剣な顔で声を上げる。
「待て、待つんだ。その鰹を喰うな。この近くに。もっとでかい魚がいる。鮫クラスだ」
マーモンの言葉に皆が顔を見合わせる。
ボンブが難しい顔をして尋ねる。
「すっるってえと、何かい? 鰹をエサに鮫を釣ろうってのかい?」
マーモンは神妙な顔で意見する。
「鰹といえど、十五人で食べれば、当たっても一人、五切だ。鮫なら全員で腹いっぱい食えるぞ」
マーモンの提案に、船上がざわつく。
キルアは至極まっとうな意見を口にする。
「いや、無理だろう。鮫を釣るには、竿が細すぎる。竿が折れるぞ」
シモンズが真顔で口にする。
「俺のギフトに、手にしている釣り竿の強度を増す『竿強化』がある。また、大物を釣り上げる時に力を発揮する『大物釣りの』のギフトがある。俺なら鮫を釣れるかもしれん」
ボンブが顔を難しい顔で意見する。
「なら、やるか、鮫釣り。そんで、腹一杯に鮫を喰うか」
シモンズは厳しい顔で注意する。
「問題は鮫の大きさだ。俺のギフトがあっても、この竿なら二mを超えていたらアウトだ」
キルアはマーモンに尋く。
「鮫のでかさまでは、わからないのか?」
マーモンが申し訳なさそうな顔をする。
「一m以上の大きさだとは、わかる。だが、どこまで大きいかはわらない」
ボンブが曇った表情で腕組みをする。
「鰹を取られ挙句に、竿を折られるかもしれないか」
キリアは思った内容を口にした。
「鮫釣りをやろう。ここで、一匹の鰹を奪い合うよりは、ましだ」
「船長がそう決断するなら」とボンブが口にする。
他のモンスターの顔を確認すると、皆が頷いた。かくして、鰹をエサにした鮫釣りが試みられた。
皆が注目する中、シモンズが大きな針をつけた鰹を海に投げ込む。魚の位置がわかるマーモンが、船の速度や方向をアドバイスする。
キルアが指示通りに舵を操作すると、竿が大きく撓った。
「掛かった」とシモンズが大声で叫ぶ。
人間の力を凌駕するレッサー・デーモンだが、海に引き込まれそうになる。力のあるモンスターがシモンズの腰に手を廻し、引っ張る。二人では足りず、三人掛かりで吊り上げようとする。
シモンズが険しい顔で叫ぶ。
「だめだ。このままじゃ、竿が保たない。海面に魚が出たら、魔法で魚の頭を攻撃してくれ」
ボンブがすかさず注意する。
「狙いは細心に注意しろ。糸が切れたら、終わりだ」
海面に大きな魚が姿を現した。相手は予想通り鮫だった。
アーゴが海に飛び込んだ。アーゴがメジャー・デーモンの馬鹿力で鮫の頭を殴りつける。二撃、三撃と拳を振るう。
プツン、糸が切れた。アーゴは鮫もろとも海中に消えた。
全員が息を飲む。海面が真っ赤に染まる。
八秒後に鮫が浮いてきた。アーゴも海面から顔を出す。
「やったぞ! 鮫を仕留めたぞ!」
ボンブの声で、船上で歓声が湧いた。
鮫は悪魔たちの手により、船の上に揚げられる。
飢えたモンスターが鮫に刃物を挿し入れ、肉を切り取り食べていく。
久しぶりに満腹になったキルアは、ボンブに声を掛ける。
「何とか一息ついたな。あとは水さえあれば、ベセルデスまで着くな」
ボンブが遠くを見て、険しい顔で呟く。
「どうだろうな、船長。あれを見てくれ」
ボンブの指し示す先には黒い雲が広がっていた。




