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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
第八章『無謀な少年』

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94 決着の魔砲

 全ての戦いが勝利に終わり、僕は大きく息を吐く。

 勝てるオーダーを組んだつもりだし、例え此処で負けても魔界へ帰還するだけだ。

 だからって自分の配下が負け、肉体を破壊される所なんて出来れば見たくはない。

 それに悪魔は、一度負けた相手には、其れを苦手とする癖が付いてしまう。

 今後『虚飾の鏡』アウルザルとの関係がどうなるかは未だ不明だが、主力配下に楔を打ち込めた事は、決して小さくは無かった。


 だが此れで、向こうの勝ち筋は全て崩した筈。

 異界の神性が此方に来る足掛かりは、全て加護を奪うか、他へ転移させた為に無くなり、虹色の防壁が破壊され、もっと多くの人間に加護がばら撒かれる事も、悪魔達を倒して防いだ。

 此の状況なら、異世界の神性は兎も角、アウルザルは此方への侵攻を諦めざる得ないだろう。

 そうなればアウルザルは、もう一つの、本来の目的を早めて行う事は想像に難くない。


 グラーゼンから聞かされた、アウルザルは僕と似て非なる悪魔であると言う意味。

 其れは『虚飾の鏡』と言う名前にも現れている。

 アウルザルは、僕と同じく契約者を育てる事に長けているらしい。

 いやまあ、僕は育てようと思って育ててる訳じゃ無く、何故かそう言う事態になる事が多いだけだけれども。

 しかしアウルザルは、弱い者は強く、愚かな者は賢く、地位の無い者には立派な地位を、与えて育てるそうだ。

 但しアウルザルは能力を育てたり自信を与えたりはするけれど、心や精神は育てない。

 アウルザルの契約者は、はじめは成功して幸せになるが、徐々に自分の力、賢さ、地位に溺れ始める。

 そして其れは加速して、最期に待つ破滅の際に、アウルザルにその魂を収穫され、奪われてしまう。


 まあ正直、あまり仲良くしたいと思う相手では無いけれど、多分悪魔としては彼方がより正しい。

 今回の件も、恐らく弱く自信の無かった異世界の神性を、他の世界に侵略しようって強さと性格にまで育てたのはアウルザルだ。

 気に食わない話ではあるが、アウルザルと契約する事を選び、そんな性格になったのは他ならぬ異世界の神性自身なので、同情の余地は無かった。

 つまりアウルザルのもう一つの、本来の目的とは、異世界への侵攻に失敗した神性からの、魂の収穫である。


 その方法も、およその察しは付く。

 あの世界に、神性として降臨する手段は断たれた。

 けれども此のまま引き下がっては、昔の様に弱い神性として侮られるだろう。

 であるならばいっそ神性では無く、単純な破壊者としてでもあの世界に渡り、全てを破壊し尽してしまえ。

 手に入らぬ物など壊してしまってから、また改めて別に良い世界を探して手に入れれば良い。

 ……と、そんな風にアウルザルは言う筈だ。



 空の大穴から流れ込んで来る魔力が強くなった。

 どうやら異世界の神性が、アウルザルの口車に乗ったのだろう。

 あの回廊を無理矢理通った所で、此の世界からは神性とは認められず、何も得る物は無いと言うのに。


 アウルザルは此処に僕が居る事も既に理解していて、今回は負けた事にして引き下がるから、異世界の神性からの収穫は手伝ってくれと、暗に言っているのだろう。

「グレイ、イリス、協力して、極大砲撃魔法であの穴ごと、此方に来ようとしている異世界の神性を撃滅する。ヴィラは僕等三人のサポートを」

 配下達は全員、今の僕の心境を察していた。

 ベラが僕に、未だ傷の修復の終わらない身体を擦り付けて来る。

 僕はそんなベラを一度撫でると、空に向かって手を翳す。


 グレイとイリスが、僕を中心に等間隔で左右に別れて飛ぶ。

 今から放つ極大砲撃魔法は、グレイとイリスの距離こそが砲の直径だった。

 僕とグレイとイリスは、扱う魔法が似通っているから、こんな芸当も可能なのだ。

 構築されて行く魔法が、ヴィラの演算で更に強固な物となる。

 其処に僕が力を流し込めば、光り輝く巨大な魔法陣が中空に出現した。


 今から放つ魔法は、威力、範囲、共に極大だ。

 例え神性を滅ぼす為とは言え、過剰過ぎる規模だろう。

 でも此れは僕の怒りで、そしてアウルザルへの警告である。

 舐めた真似をしていると、次は此れを直接ぶち込むぞ、との。



 放たれた極大魔法は空の大穴に吸い込まれ、此方に向かっていただろう異世界の神性ごと其れを吹き飛ばす。

 神性を打ち滅ぼすだけでは済まぬエネルギーを叩き込まれた回廊で、果たしてアウルザルが異世界の神性の魂を得られたのかどうかはわからない。

 だが何方にせよアウルザルの肝を冷やす事位は出来た筈で、……今の僕には此れが精一杯だった。

 何にせよ、空にはもう一点の曇りも無く、後はこの魔力を散らして魔物の処理をしてやれば、虹色の防壁も解除されるだろう。

 

 もしかすれば此の世界の神性から、もう少し後始末の手伝いを頼まれるかもしれないけれど、今の所は頼まれた仕事を全て果たした。

 遊馬の願い『自分と幼馴染である葉月を、生きて一緒に日常に返して欲しい』が叶うのも、きっとそう遠い事じゃ無い。

 予想外の駆け足での解決にはなったけれども、今回は僕等の勝利である。


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