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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
第七章『背信の黒将』

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79 最も高貴な捧げ物


 長く悪魔を続けていると、自分を傷付けられる者なんて居ないと錯覚してしまう事がある。

 勿論実際にはそんな筈が無い。

 同じ悪魔は勿論、天使や神性、他の次元から来る概念体の類ならば、僕を殺す事だって出来るだろう。

 だから僕も其れ等と敵対、ないし関わる際でも大いに警戒もするのだが、……人間を相手にする際は、滅ぼされようが無いとつい油断してしまってる時期があった。

 此れから思い出すのは、けれども本当に予測が付かず、時に恐ろしいのが人間であると、僕が改めて思い知らされた時の話である。



 ある日僕は召喚を受け、其の世界へと降り立った。

 目を開けば、其処は全面が真っ白で無機質な部屋。何せ出入りする入り口らしき物すらないのだ。

 ……なのに、僕の目の前には二人の人物が居る。

 一人は黒衣を纏った壮年の男。

 如何にも強者と言わんばかりの強いオーラを漂わせ、此方を見ながら口元を歪めた。

 正直あまり良い印象は持てないけれど、どうやら彼が僕の召喚主らしい。


 そしてもう一人、ドレスを身に纏った、少女と女の丁度境目辺りの年齢の、銀色の髪の女性が一人。

 あれ、お姫様って感じだろうか?

 こんな部屋を作る技術は、剣と魔法の世界には到底なさそうなのだけれど。

 僕が疑問に首を傾げた時、壮年の男が口を開く。


「此れが悪魔か。想定されたエネルギー量は満たすな。ふん、よし、ならばこの女の命をくれてやろう。この宇宙で最も高貴とされる遺物だ」

 そう言うと壮年の男は、僕が何かを言う間も無く姫らしき女性に向かって手を翳し、その手を横に捻る。

「お願い、逃げてっ……!」

 彼女は咄嗟に此方に向けて叫び、そして其の首は、ボキリと横に捻られ圧し折れた。

 明らかに即死物の損傷だ。


 いや、まってまってまって!?

 今のは何?!

 魔術じゃない。魔術なら判るし、阻害だって出来た。

 魔法でも無い。人間に魔法を使う事は、絶対に不可能とまではいわないけれど、まずあり得ないレベルの難易度だし、そもそも魔法の発動だって僕なら止めれるのだ。

「よし、此れで貴様は私の許可なく退散は出来まい。ではもう会う事は無いだろうが、悪魔よ。精々この要塞の動力源となるが良い」

 驚く僕を残し、壮年の男の姿は眼前から掻き消える。

 やっぱりその仕組みも理解が不能だ。

 そして部屋の四方が輝くと、此の部屋自体が僕から魔力を吸い上げ始めた。

 吸い上げられる量は、下級悪魔なら兎も角、僕からすれば意識しなければ呼吸で口から洩れる量と大差はない程度だが、……この良くわからない仕打ちは非常に不愉快だと言えるだろう。

 暴れても良いのだけれども、或いは其れこそがあの男の狙いの可能性だって無くはない。

 カメラらしき物は無いけれど、モニターをされてる可能性もあるので、部屋の周囲の壁を魔法で生み出した闇の結界で遮断し、覆い隠す。


 ……兎にも角にも、最も必要なのは情報だった。

 あの男はどんな存在で、何を狙って僕を呼んで、あの力は何なのか。

 事情を知ってそうなのは唯一人、首を圧し折られて床に倒れた女性の目は、僕が近付くのに応じてギョロリと動く。

 ちょっとホラーチックである。



 

 首の位置を元通りに戻し、損傷を修復してやれば、女性は蒼褪めた顔をしながらもゼイゼイと荒い呼吸を吐く。

 まあ、うん、稀有な体験をしたのだから、そうなるのも無理はなかった。

 確かに彼女は首を折られ、即死級の損傷を負ったが、でも別に即死した訳じゃ無い。

 僕が居なければ即死だっただろうけれど、魔法で重要部位が破壊されたショックを遮断し、更に脳への酸素供給等も魔法で代替してやれば、生命維持は可能なのだ。

 勿論簡単な作業じゃないし、咄嗟に其れを行っていたからこそ、あの男への対処が遅れたのだけれども。

 でも良くわからない状況で、少なくとも僕を気遣って逃げろと叫んだこの女性を、見捨てる気にはならなかった。

 ただ意識はあっても身体機能は全て此方が握ったので、怖かっただろうし、苦しかっただろう。

 僕は黙って、彼女が落ち着くのを待つ。


 それから暫く、漸く落ち着いた彼女から聞き出した名前は、アウネリア・プラクタール。

 そしてなんと彼女は、

「私は、この銀河帝国の第三皇女です。悪魔様、御救い下さりありがとうございました」

 どうやら本当にお姫様だったらしい。

 

 プラクタール皇家は、まだこの世界の人類が宇宙に旅立ってもいない頃、遥か彼方から故郷を失って飛来した異星人との交わりによって生まれたそうだ。

 其の異星人等は精神と生命のバランス良く鍛え、生神力と称する不思議な力を操り、其の力は人類と交わった後の子孫にも受け継がれて行く。

 得た力で惑星を統一、更には宇宙へと進出した子孫等はプラクタール皇家を名乗り、銀河帝国を打ち立てる。

 其れからおよそ三千年、人類は銀河の彼方此方に版図を広げ、銀河帝国以外の勢力も数多く生まれた。

 しかし強い生神力を操るプラクタール皇家は、三千年の長きにわたり常に銀河の中心であったと言う。


 まあ当然三千年もの時間が流れれば、異星人の血脈はプラクタール皇家を名乗る者達以外にも広まっている。

 権力闘争に敗れて行方を晦ました第三皇子が子孫を作ったり、私生児が放流されたり、皇女が帝国貴族家に降家したりだ。

 だが生神力の効率の良い鍛え方はプラクタール皇家の秘伝とされ、最も強い生神力の使い手は銀河帝国の皇帝だった。

 先程の黒衣の男、ガユルス将軍が現れるまでは。


「どの様にして鍛えたのかはわかりませんが、ガユルス将軍は皇帝だった祖父よりも遥かに強い生神力の持ち主でした」

 あまりに強いガユルス将軍の力を危惧し、危険性を訴えた帝国貴族も居たのだが、アウネリアの祖父である皇帝はその言葉を退けて、ガユルス将軍を重用したらしい。

 つまり其処で、銀河帝国皇帝こそが最も強い生神力の使い手であると言う伝統は崩れたのだ。

 そもそも銀河の彼方此方に人類が散ったこの時代、戦争は艦隊戦が主だったので、皇帝自身が生神力を然程重視していなかった事もあるだろう。

 艦隊戦に於いても無類の強さを誇ったガユルス将軍は銀河帝国内でも重要な地位に付き、邪魔して来る帝国貴族を排して、己の派閥を築き上げた。


 そして彼を重用した皇帝、アウネリアの祖父がまだ六十代半ばと、皇帝としては早世するや否や、ガユルス将軍は己の野心を剥き出しにする。

 ガユルス将軍は掌握した銀河帝国軍を率いてクーデターを起こし、アウネリアの父であった新皇帝の首を取り、銀河帝国の領土の約半分を瞬く間に制圧してしまう。

 難を逃れたプラクタール皇家の者達が銀河帝国の後継を名乗り、ガユルス将軍率いる反乱軍と戦っているが、野心故にか互いの連携が取れず、一つずつ各個撃破されて行ってるのが現在の状況だそうだ。


「そして此処は銀河帝国の残り香を滅ぼす為に建造中の兵器『神罰の雷霆』の動力部。悪魔様、貴方は、この巨大砲と其れを搭載した要塞を動かす為のエネルギー源として此処に呼ばれたのです」



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