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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
第五章『約束の人』

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61 桐生・巧


 眠る子供を抱えたままなので、教育に悪そうな出来事はサクサクと事務的に片を付けたが、まあ凡その内容は把握した。

 グラモンさんの生まれ変わりである子供の名前は桐生・巧で、彼を殺そうとしていた人物は垣木・敬。

 垣木は桐生家に雇われる下男だが、巧は仕える対象では無く、主は巧の叔父の良治だと言う。

 何でも元々資産家だった桐生家を更に大きくしたのは巧の父だが、彼は妻と共に事故死し、桐生家の財は巧の新しい親権者となった叔父の良治の預かりとなる。


 だが良治が巧を引き取ったのはその財産が目当てであり、そもそも巧の両親の事故死にも良治は何らかの形で関与していたらしい。

 しかし巧が成長すれば、当然桐生家の財を引き継ぐ権利を有するのは巧になるだろう。

 だからこそ良治は垣木に命じ、巧をこの世から消し去ろうとしたのだ。

 何でも事故死の形さえ整えば、多少の不自然な点は金とコネの力で揉み消せるだけの準備は出来てるのだとか……。


 成る程、どうやら結構面倒臭い状況の様だった。

 驚いた事に此の世界の此の国も日本と言う名前の様だが、此処が日本で無く、何時ものファンタジー要素が強い世界だったなら、僕はその叔父の良治とやらを消し飛ばしてから何処かで巧を育てようとしただろう。

 でも此の日本の場合、子供を育てるのは、ただ成長させれば良いって訳じゃ無い。

 日本国の国民は全て戸籍で管理されているし、真っ当に独り立ちさせるには学歴が絶対に必要だ。

 勿論金と伝手があれば、後から其れ等を得る事も不可能では無いだろうが、……今の僕にそんな伝手がある筈もなかった。


 もし良治を消し飛ばしてしまえば、巧の持つ財産を狙って他の大人が近付くだろう。

 と言うより、先ず巧を育てようとする僕自身がそうみられる事は間違いが無い。

 其れに良治自身が持つ影響力も侮れなかった。

 事故死であろうとこの国の警察は絶対に捜査に動き、不自然な点があればかなり厳しく追及するのが特徴だ。

 その捜査に介入するなんて、多少の金持ちじゃ絶対に不可能である。

 其れが可能な権力や影響力を持つ人間と、良治は繋がりを持つのだろう。

 矢張り安易に消せはしない。



 僕はなまじ此の日本の常識に関して知識があるだけに、何時も通り悪魔の力を使って強引に事態の解決を図れないでいた。

 少し、思い悩む。

 でもせねばならない事だけは明白だった。

 グラモンさんの生まれ変わりである、此の桐生・巧を守り、育てる。

 それ以外の事は二の次だ。

『私が次に転生した時、私が危機に陥ったなら、其の力で救って欲しい』

 此れがグラモンさんと僕の契約内容なのだから、優先順位を間違えてはならない。

 僕がどんなに強くなろうとも、今の僕があるのはあの人の御蔭なのだから。


 垣木の遺した衣服を殺菌魔法で清め、手を加えて作り直す。

 此の世界の衣服は他とは大きく違うので、此処で手に入ったのは僥倖と言えた。

 良治を消す事は一旦諦めよう。

 彼には、巧の生活環境を整える為に、利用する価値がある。

 勿論此のまま巧を家に返せば、再び殺害を目論むだけだろうから、対策はするけれど。

 恐怖で縛るか、暗示をかけるか、或いは新たな悪魔を生み出して、その脳に寄生させても良い。



 だがそんな事よりも、そろそろ巧が目覚めそうな気配がした。

 抱きかかえたままにトントンと背中を叩いてやれば、身じろぎをして薄っすら目を開ける。

「……え、おにいちゃん、だれ?」

 僕と目が合った巧はきょとんとした顔で、フルフルと周りを見回した後、もう一度僕の目を見て問う。

 その仕草の可愛らしさに、僕は今一度この子を殺そうとした良治に対しての殺意を抱くが、そんな物を表に出して巧を怖がらせる訳には決して行かない。

 でも、誰と問われたか。

「そうだね、僕は君の遠い身内……、いや、この言い方は卑怯だね。僕は君に誤魔化しは言えない」

 僕は、首を振る。


 遠い身内って言葉は確かに嘘じゃない。

 僕とグラモンさんは身内同然の間柄だったと自信を持って言えるから。

 けれど誤魔化しではあったのだ。

 僕の正体に言及しない為の誤魔化し。

 少しだけ逡巡するが、僕は意を決して口を開く。


「どうか怯えないで聞いて欲しい。僕は悪魔。悪魔レプト。桐生・巧、君を守りに馳せ参じたよ」


 僕の言葉に、巧は一度目を見開いた。

 ……やはり怖がらせてしまっただろうか。

 その反応に、僕の胸がチクリと痛む。

 しかし巧は、そんな僕の顔を見てフルフルと首を振り、

「……うん、わかる。レプト、ありがとう」

 そう言って僕の胸に顔をうずめる。


 だから僕は、安堵の息を一つ吐いて、此れからの方針を胸に定めた。


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