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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
第十章『女海賊』

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120 海賊達の事情


 因みに壊血病以外にも、栄養不足から来る病は数多くある。

 夜盲に脚気、貧血等だ。

 壊血病だけでなく、其れ等も心配になる様な食生活を送る海賊達に腹を立てた僕は、アルフィーダを説き伏せて船の厨房を乗っ取った。

 幾ら長距離航海中とは言え、二度焼きした硬いパンと干し肉やチーズだけで生きているのは見てられない。

 硬い其れ等を、時折虫すら湧くからって、ラム酒で強引に胃に押し流すのは、僕は食事とは呼べないと思う。

 釣った魚を天日に干して、火で炙って食いもする様だが、其れも偶にの事である。


 パプリカをたっぷり入れた生野菜サラダと豚肉のステーキ。

 二度焼きパンを魔法で小麦粉に戻してから作った、鳥肉とキノコとブロッコリーが入ったクリームシチューにチーズパンケーキ。

 僕の作ったそれらの料理を、誰も彼もが貪る様に食べているが、……しかし普通に考えれば、こんな事はあり得ない。

 此の船の乗員は百二十名。

 中には信心深い者だって居るだろう。

 特に船乗りは天候が命に直結する為、ゲンを担いだり、信心深い者が多い。

 例えアルフィーダが命じた事でも、悪魔の作った食事なんて食えるかと騒ぐ者が、数十名は居る筈なのだ。


 そうで無くても、長距離航海中の出来事と言えば壊血病に並んで船員の反乱が来る。

 船の中では、皆で口をつぐめばあらゆる出来事が無かった事に出来てしまうから。

 閉鎖空間である船の中に居続けるストレスや、貧しい食事、命の危険等で溜めたストレスは、反乱を非常に誘発し易いのだろう。

 特に男装して性別を隠しているなら兎も角、身体のラインが普通に見える格好をしてるアルフィーダなんて、何故無事で居るのか不思議な程だ。

 幾ら彼女にカリスマがあろうとも、其れだけで何とかなる問題じゃない。


 つまり要するに、彼等は普通の海賊では無いのだろう。

 貴族と其れに仕える騎士の様な、何代にも渡って培われた忠義の様な関係がアルフィーダと船員達にはあった。

 そう思って彼等を見、話に耳を傾けてみれば、単なる海賊にしては身のこなしは鋭く、話す内容も割合に知識の深さが伺える。

 勿論、向こうから言い出さない限り、僕は必要以上に追求しないが。


 まあそんな訳で、僕は此の船の中に仕事を得た。

 百二十人分の食事の準備は、実は割と大変なのだが、僕には魔法があるので何とでもなる。

 厨房に様子を見に来たサズリが宙を舞う包丁に目を丸くしていたけれども。



 交代で昼食を食べに来る百二十人を捌き終わった午後、僕は甲板で、海に向かって釣り糸を垂らす。

 日差しの暖かい良い午後だが、雲の流れと風の吹き方からして、夜には多分荒れるだろう。

「釣れてる?」

 彼女も暇をしてるのだろうか?

 甲板に上がってきたアルフィーダが、僕の隣に並ぶ。

 釣れるかと問われれば、まあ釣れる。

 僕が竿をグイと引くと、海から剣のように長く尖った上顎を持つ巨大な魚、3m程のカジキの一種が宙を舞う。


 口から針を抜き、凍らせてから甲板に転がす。

 暫く此のままにしておけば、中に巣食う寄生虫が死ぬので、そうしてから収納に仕舞うのだ。

「何でそんな釣り竿と糸で、こんなデカいのが釣れるの」

 呆れた風にいうアルフィーダだが、そりゃあ当然、竿も糸も針も、僕の魔法で強化しているからである。

 でも一々理屈を説明するのも面倒なので、

「まぁ、技術かな」

 と言って置く。

 別に嘘じゃあない。魔法も、僕が持つ立派な技術の一つだ。

 勘の鋭い彼女は僕の返事に胡散臭そうな視線を向けるが、それ以上は突っ込んで来なかった。


「其れは今晩に出すの?」

 代わりにアルフィーダの視線が注がれるのは、甲板に転がる冷凍カジキ。

 新鮮なままに冷凍させたから、何にでも使える。

 と言っても彼等に刺身を喰う文化は無いだろうから、ステーキかムニエルにする予定だ。

「うーん、後日で良いかな。もう少し量が欲しいし、何より夕飯時は、もう結構揺れるだろうしね」

 僕の言葉に、既に彼女も察していたのだろう。

 アルフィーダは憂鬱そうな顔をしながら、空の雲を眺める。

 如何に長距離航海に耐える船でも、嵐の海は危険だった。

「一応聞くけど、何とかなったりは?」

 彼女の言葉に、僕の口元には笑みが浮かぶ。

 当然、嵐の一つや二つ、僕ならどうとでも出来るだろう。


「なるけど、しないよ。対価に君の魂を貰う事になるしね。だからオススメは進路を右に三十度ずらして、暫く行った先に在る島で一晩停泊かな」

 でも僕は断りを口にする。

 何でもかんでも僕に頼られても、楽しくはない。

 其れにアルフィーダと海賊達の抱える事情と、彼等の辿る未来に対し、僕は割と興味を抱いているのだ。

「そう、其れが無難ね。教えてくれてありがとう、感謝するわ」

 アルフィーダは素直に僕の勧めに従って、操舵師に指示を出して船の進路を右へとずらす。

 島で過ごせば、少なくとも海賊達に死人は出ないだろう。

 船は多少傷付くかもしれないが、其れでも嵐の海を行くよりはずっと良い。

 僕は島に着くまでにもう一匹は釣りたいと、再び海に糸を垂らした。


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