毒属性の魔法使い
「はっは、お疲れじゃの」
岩場の陰から、笑顔の大公殿下とモニカ教授が声をかけてきた。
もちろん、紫色のローブを着ている怪しげな連中は、全員がその身体をぐちゃぐちゃにされて地面に転がっていた。
僕はそんな二人に頷くと。
「エタンさん! コッチは問題ありません! 周囲を確認しましょう!」
荷馬車へと振り返り、大声で叫んだ。
「? そうか……分かった、すぐにソッチに向かう」
エタンは荷馬車を進め、ゆっくりとこちらへとやって来た。
そして。
「はっは! ご苦労じゃったわい!」
「悪いが、帰りは徒歩だ」
「っ!?」
両脇から現れた大公殿下のハルバードとモニカ教授の大剣が、荷馬車の車輪を叩き潰した。
「へえ……まさか、今回の依頼はオマエ等の仕込みだったのかよ」
「まあ、そういうことだ」
素早く荷馬車から飛び退き、エタンは僕達と対峙する。
だが、メルザとアビゲイルはエタンの背後、両脇には大公殿下とモニカ教授、そして正面には僕がいて、まさに囲まれた状態だ。
「……いつから俺のことに気づいていた?」
「さあ? それより、オマエはサウセイル教授の手下ということでいいのかな?」
睨みつけるエタンの質問には答えず、僕はとぼけながら逆に質問を返した。
とはいえ、これがオルレアン王国単独の可能性も否定できないけど、僕とメルザを明確に狙ってきた以上、サウセイル教授の手下だと考えるのが妥当だからね。
「ハア……んだよ。せっかく他の連中を出し抜いて、シェリル様にご褒美をもらおうと思ったのによお……」
そう言うと、エタンは苦虫を噛み潰したような顔でガリガリと頭を掻いた。
それこそ、強く掻き過ぎて顔を赤い血に染めるほどに。
「僕達には、オマエの事情なんてどうでもいいんだよ。だけど、シェリルってことはサウセイル教授の手下ってことでいいんだな」
「あーもう! それでいいっつーの! いちいちわめき散らすなよ! ムカツクなあ!」
するとエタンは、まるで子どもが癇癪を起こしたかのように叫んだ。
そして、腰にある手斧の柄を握りしめ……っ!?
「上!?」
「ワハハ! つっても、ここで俺様が全員ブチのめしたら、それで全部済む話だよな!」
突然上空へと浮かび上がると、エタンが手斧を地面へと受けて何かを口ずさむ。
「くたばれ! 【アシッドレイン】!」
「「「「「っ!?」」」」」
エタンの言葉と共に、僕達に向けて雨が降り注ぐ。
だけど。
「ふふ……【雷火球】
口の端を吊り上げたメルザが、その右手から稲妻をまとった巨大な球体を放つと、雨を全て蒸発させながらエタンへと迫る。
「おおい!? なんだよコイツは!?」
エタンは叫びながら間一髪躱し、大声で叫んだ。
だけど、アイツの使った魔法は水属性……しかも、毒か。
「……まさかとは思うけど、オマエ、ひょっとして魔法使いか?」
「ああん? それ以外にどう見えるんだよ!」
予想外の答えに、僕は思わず唖然とする。
いや、確かに見た目や持っている武器から判断するのは間違っているけど、だからってあまりにも不釣り合いだな。
「……まあ、それでもコイツを口だけしか動かせない状態にして、サウセイル教授のことについて聞き出さないとな」
「ふふ……ヒュー、でしたらこの私に任せてください。このただの魔法使いに、身の程というものを分からせて差し上げます」
「ああもう! ムカツクムカツクムカツク! 調子に乗ってんじゃねえぞッッッ!」
ますます苛立つエタンは、無数の金属の針を出現させた。
だけど……コイツは水属性の魔法使いではなかったのか?
「ハッ! この【ペインピアッサー】の餌食になりやがれ!」
そう叫ぶと、無数の針は一斉に襲い掛かってきた。
「メルザ!」
「ヒュー!」
僕はメルザの傍へと駆け寄ると、サーベルの柄を握り結界を張った。
「ふっ!」
向かってくる金属の針を、僕はサーベルを鞘から抜刀して全て打ち落とす。
外れた針は地面に突き刺さると、その場所から土が変色し、周囲の草木があっという間に枯れた。
「なるほど……オマエは毒属性の魔法使いか……」
「ご明察だ」
僕の呟きに、エタンは口の端を持ち上げた。
それにしても、見た目は豪快で脳筋のイメージなのに、実際は卑劣な毒属性の魔法使いだなんて、ギャップがすごいな……。
その時。
「っ!?」
エタンは、突然顔をしかめたかと思うと、徐々に上空から降りてきた……?
「ふふ。あの手斧が仇となりましたね」
「? メルザ、どういうことですか?」
「はい……先程私が放った【雷火球】で、あの男の手斧が帯電したんです。それで、私はこの周囲に雷魔法で磁場を発生させ、手斧ごとあの男を吸い寄せています」
クスリ、と微笑み、メルザがそんなことを言ってのけた。
い、いや、それってかなりすごいことなのでは……。
「さあ、どうします? その手斧を手放せば、おそらくは磁場から解放されるとは思いますが」
「フ、フザケンナ! この斧は、シェリル様が俺様に与えてくださったモンだ!」
「そうですか。なら、そのまま虫けららしく地面に這いつくばってください」
「うおおおお!?」
その磁場が強くなったのか、先程よりも一気に地面へと吸い寄せられ、エタンが顔を引きつらせながら必死で抵抗する。
だが、抵抗むなしくエタンは引きずり降ろされ、手斧は地面に突き刺さった。
「終わりだ」
「っ!? ギャアアアアアアアアアアアッッッ!?」
その隙に僕はエタンの傍へと駆け寄ると、一気にその両腕、両脚を斬り離した。
エタンは絶叫しながら転げまわるが、腕も脚もない以上、ただ苦痛に顔を歪めるだけだ。
「さあ、色々と吐いてもらおうか」
そんなエタンの髪を鷲づかみにし、僕はその顔を持ち上げた。
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