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余計な提案

「メル、婿殿、シモン王子達はどうじゃ?」


 第二皇妃殿下のお茶会があった日の翌日の朝の食事中、大公殿下がパンをかじりながらおもむろに尋ねてきた。


「シモン王子、ですか……」


 僕は、ほんの少しだけ眉根を寄せた。


「む、なんじゃ。あまりよく思っておらんのか?」


 僕は、昨日の剣術試合での出来事について、大公殿下に説明する。

 あの、クロエ令嬢を当て馬にして僕の実力を測ろうとしたことを。


「……気さくで人当たりもいいですし、ある意味敵地にいる状況ということもあるので、仕方ないのかもしれませんが……」

「ふむ……まあ、国のために上に立つ者がやむを得ず部下を利用する、というのはあながちないわけではないが……婿殿は、特にどの点が気に入らんと思っておるのかの?」

「それはもちろん、自分ですれば済むことなのに、従者とはいえ自分を慕う女性(ひと)にそんな真似をさせたことです」


 そう……僕はあの時、クロエ令嬢をメルザに置き換えて考えてしまったんだ。

 僕だったらそんなこと、とても耐えられない。


「ふふ……お爺様、ヒューがこのような御方だということはご存知でしょう?」

「はっは! 確かに野暮な質問じゃったわい!」


 メルザがクスリ、と微笑みながらたしなめると、大公殿下は顎鬚(あごひげ)を撫でながら豪快に笑った。

 うん……やっぱりこの二人こそが、僕のことを一番理解してくれる。

 といっても、家族(・・)だから当然ではあるんだけど。


「じゃが、シモン王子は何故婿殿を試したのかのう……」

「さあ……」

「ですが、シモン王子もオルレアン王国では“若獅子”と呼ばれるほどの腕前だそうですし、対抗意識を燃やしていらっしゃるのかもしれません」


 メルザの言うとおり、僕を単純にライバル視しているだけ、だといいなあ……。


「む、なんじゃ。婿殿は違うと思っておるのか?」

「いえ、そうではありません。ですが……」


 そう……僕には、シモン王子がそんな単純な人間とも思えない。

 何か別の目的があって、僕を試したのだとしたら……。


「……いずれにせよ、今の段階では分かりませんので、しばらくはシモン王子の動向を(うかが)うようにします」

「そうですね……私達はあの二人のホスト役でもありますから……」


 そう言って、僕とメルザが頷き合っていると。


「ヒューゴ様、メルトレーザ様、そろそろご支度を……」


 セルマがやって来て、おずおずと告げる。

 おっと、もうこんな時間か。


「では大公殿下、行ってきます」

「うむ、二人共気をつけての」

「「はい」」


 僕とメルザは食堂を出て支度をすると、馬車に乗って学院へと向かった。


 ◇


「二人共、第二皇妃殿下主催のお茶会に出席したらしいな」


 皇立学院に着くなり、待ち構えていた第一皇子に捕まってしまった……。


「はい……もちろん僕達だけでなく、Aクラスの令嬢は全員でしたが……」

「ほう? これはまた思い切ったことをしたな」


 僕の話を聞き、第一皇子が興味深そうに頷く。

 おそらく、皇位継承争いで各貴族の間で緊張が高まっている中、大胆にも派閥に関係なくそのような会を催したからだろう。


「ふむ……母上が悔しがっていたと、リディアに聞いたものでな。少々尋ねてみたのだが……」

「そういえば、リディア殿も学院に通われているのですよね」

「うむ。私と同い年であるから、ヒューゴ達の一年先輩にあたる」


 話を変えようと婚約者の話題を振ると、第一皇子がそう説明してくれた。

 だけど、そうか……。


「でしたら、ちょうど学年も違うことですから、クリフォード殿下達のクラスの令嬢を招いたお茶会を催してみてはいかがでしょうか? それであれば、先にレオノーラ皇妃殿下がお茶会を開かれたことですし、問題になるようなこともないかと」

「うむ……そうだな……」


 第一皇子は顎に手を当て思案する。


「……よし。一度母上とリディアにそう進言してみよう。だが……もし母上がお茶会を開いたなら、ヒューゴとメルトレーザも来てくれるか?」


 ……そう来たか。


「で、ですが僕達……というか、メルトレーザは学年が違いますので、むしろ場違いなのでは……?」

「なあに、二人が同席したとして何の問題がある。そのようなことは気にせずともよい」


 僕はもっともらしい理屈をつけて断ろうとしたけど、第一皇子は逃がしてくれないらしい……。


 すると。


「ふふ……かしこまりました。私とヒューで、ぜひ参加させていただきます。ただし……第一皇妃殿下を始め、私達は少々お目汚しするかもしれませんが、そこはご了承ください」

「ん? それはどういう意味だ?」


 微笑みながら告げるメルザの言葉の意味が分からず、第一皇子が首を傾げる。

 だ、だけど……うん、確かに令嬢達からすれば、僕達は目に毒かもしれない……だからといって、遠慮するつもりはないけど。


「まあ、二人が参加してくれるのなら何でもいい。早速リディアに話しておくとしよう。では」


 第一皇子は口の端を持ち上げながらそう言うと、学舎へと去っていった。


「……まあ、第二皇妃殿下のお茶会に出席しておきながら、第一皇妃殿下は断るわけにはいきませんから」

「そうですね……」


 僕とメルザは、肩を落とした。

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