違う印象
お茶会の様子をテラスで眺めていたところをメルザに連れられ、思わぬ形で僕もお茶会に参加することになった、んだけど……。
「…………………………」
「…………………………」
何故かそこには、眉根を寄せながら第二皇妃殿下を睨んでいる、一人の夫人と一人の令嬢がいた。
令嬢については分からないが、この夫人については皇国民であれば誰もが知っている。
そう……この御方こそ、“ダイアナ”第一皇妃殿下だ。
そんな第一皇妃殿下が、まさか第二皇妃殿下が主催するお茶会へとやって来てまさに一触即発の状態だから、ここにいる令嬢の全員が凍りついている。
「それで、ダイアナ殿下は私の主催するお茶会に、何かご不満でもおありですか?」
「ええ……それはもう」
扇で口元を隠しながら、不満げな様子を一切隠さない第一皇妃殿下。
一方の第二皇妃殿下は、涼しい顔をしている。
「そもそも、このように皇宮内でお茶会を開くのであれば、まずは私に一言あってもよろしいのではなくて?」
「うふふ……息子であるアーネストのご学友への労いの場ですので、わざわざダイアナ殿下にお伝えする必要もないと思いましたので……」
なるほど……第一皇妃は無断でお茶会を、しかも皇宮内で開いたことについて怒っているのか。
「なんでしたら、ダイアナ殿下と“リディア”もご一緒にいかがですか?」
「っ! 結構です! リディア、行きますわよ!」
「はい」
顔を怒りで真っ赤にしながら、第一皇妃殿下はリディアという令嬢を連れて去っていった。
だけど、あのリディア令嬢はひょっとして……。
「うふふ、みなさんごめんなさいね。さあ、お茶会の続きを楽しみましょう」
クスクスと笑いながら、第二皇妃殿下が声をかけたことで、場の緊張が解けた。
令嬢達は、一様に安堵の表情を浮かべる。
それにしても、これは……って。
「あなたが、ヒューゴ様なのですね! 私はアーネスト殿下の婚約者で、イライザ=ハーグリーブスと申します!」
「は、はあ……」
ずい、と身を乗り出して自己紹介をするイライザ令嬢に、僕は僅かに身体を仰け反らせ、曖昧な返事をした。
だ、だけど、彼女が第二皇子の婚約者か……。
綺麗……というより、可愛いという表現のほうが正しいかもしれないな。
もちろん、メルザには遠く及ばないけど。
「実は私、是非ともヒューゴ様にお会いしたかったのです! アーネスト殿下からお聞きしましたが、ヒューゴ様が皇立学院で最もお強いのだとか!」
「そ、そうですか……」
な、なんだろう……どうしてこのイライザ令嬢は、こんなにも圧が強いのだろうか……。
「それに……ウフフ、このような素敵な御方でしたら、メルトレーザ様が夢中になってしまうのも無理はありません」
「あ、今の言葉は語弊がありますね」
上目遣いでクスリ、と笑いながら告げたイライザ令嬢の言葉を、僕が否定する。
「と、言いますと……?」
「夢中になっているのはむしろ僕のほうです。世界一素敵なメルザですから、それも当然ではありますが」
「あう……わ、私のほうが夢中です。ヒューは、私がどれだけあなたのことをお慕いしているか、分からないのです……」
「いいえ、こればかりは譲れません。僕のほうが、あなたへの好きで溢れていますから」
「それは違います……って、ふふ……私達、何の言い争いをしているのでしょうか……」
「あ、あはは……本当ですね……だって」
僕はメルザの白い手を、そっと握る。
「「僕達(私達)は、お互いのことを世界で一番愛しているのですから」」
まさか、お互いの言葉が重なってしまった。
「ぷ」
「ふふ……」
「「あははははははははははは!」」
それがあまりにも可笑しくて、あまりにも嬉しくて、僕とメルザは人目もはばからず声を出して笑い合う。
うん……やっぱり僕にはメルザしかいない。
こうやって、ただ傍にいるだけで、この上なく幸せにしてくれる女性は。
「ウフフ……本当にお二人は、仲がよろしいのですね……」
「「あ……」」
イライザ令嬢……だけでなく、他の令嬢までもが、僕達を見て苦笑いをしていた……。
「ヒュ、ヒュー……これは恥ずかしい、ですね……」
顔を真っ赤にしてうつむくメルザ。
でも、その白い手は未だ僕の手をつかんで離さない。
もちろん、それは僕だって同じで……。
その後、令嬢達から質問攻めに遭い、僕達はただただ顔を真っ赤にするばかりだった。
◇
「「本日は、本当にありがとうございました」」
お茶会はお開きとなり、令嬢達は第二皇妃殿下に挨拶をして寄宿舎へと帰っていく。
僕とメルザも、第二皇妃殿下に恭しく一礼する。
「うふふ、またお茶会をいたしましょう。今度はアーネストも一緒だといいわね」
「はは……」
そんな第二皇妃殿下の言葉に、僕は肯定とも否定とも取れない、そんな曖昧な笑みを零した。
「ヒューゴ様、メルトレーザ様。今度、四人で食事でもいかがでしょうか?」
「ふふ……そうですね。機会が合えばぜひ」
イライザ令嬢の誘いも、メルザがやんわりと受け流す。
「では、失礼いたします」
「ええ……またね」
微笑む第二皇妃殿下とイライザ令嬢に見送られ、僕達は馬車へ乗り込み、皇宮を後にした。
そして。
「……第二皇子はああ言っていましたが、第二皇妃殿下……そのとおりの御方とはいきませんでしたね」
「ヒューも気づきましたか……」
「はい……」
メルザの言葉に、僕は頷く。
第一皇妃殿下のやり取りといい、さりげなく第二皇子の婚約者を同席させて知己を得ようとするなど、色々と手の込んだことをしたからね……。
「それに……どうやら第二皇妃殿下は、クラスの令嬢ではなく僕とメルザだけが目的だったようですし」
「ふふ……やはり、ウッドストック家が派閥に入るかどうかで、皇位継承争いの大勢が決まりますから……」
そう言って、メルザがクスクスと笑う。
「いずれにせよ、第二皇妃殿下は要注意、ですね……」
「はい……」
僕とメルザは、お互い頷き合った。
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