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永遠の戦士  作者: ブラック無党
エルフの村
68/125

エルフの村にて―夜襲・下―

 艶消しの黒に塗られた矢が放たれた瞬間、シドは動いた。

 右脇にマリーディアを抱え、並んだ兵士達の右端に向かって走る。

 念には念を入れ晒した左半身に到達した矢は一本もなかった。


「抜剣!!」


 指揮官らしき男は即座に反応し、兵士達に命令した。

 敵が弩を捨て剣を構えるより早く攻撃範囲に入れ、一人の胸に大穴を開ける。


「怯むな!! 同時にかかれぇっ!!」


 近くにいた三人が向かってくる。

 シドは斜めに後退した。足並みが乱れ、突出した形になった一人を仕留める。

 試合のように場外など存在せず、武器のリーチでは圧倒的に勝る。それだけではなく機動力も攻撃速度も及ばぬ敵を屠るのは赤子の手を捻るようなものだった。

 動揺し、攻撃を躊躇した残りの二人を始末すると、敵の指揮官が声を張りあげた。


「何をやっているか!! 囲んで全方位から攻撃しろ!!」


 隣に居た兵士が戸惑ったように返す。


「し、しかし隊長! 包囲するには数が――」

「足りんのなら連れてこい!! 魔物共はエルフにやらせるのだ!!」

「わ、分かりました!」


 兵士が戦闘の激しい方へ走り去る。

 シドはそれを黙って見送った。その姿が闇の中に消えてから、


「さて――」


 と、敵の指揮官に話しかけた。


「戦場では時に予想もしなかった事が起こるものだ。俺とお前、場を制御するのは果たしてどちらかな」

「――ふん。数、質共にこちらが勝っている。どうやったかは知らんが、多少の魔物を従えた程度でのぼせ上がるな」

「少しは考えて物を云うことだ。殆どの裁量を己がままに出来る状況で負ける戦いなど仕掛けるものか」


 シドは様子を窺っている兵士達に向かって云う。


「どうした。かかってこんのか? それとも女連れの一人に援軍を待つのか? 守る兵がこれではお前達の国もそう長くはあるまいよ」


 その挑発に兵士達は身動ぎした。しかし――


「挑発に乗るな! 数が揃うまで待つのだ!!」


 指揮官の命令で小さくまとまりシドの動きを警戒する。


「――こないのならばこちらから行こうか」


 シドは距離を詰める。悠然と歩きながら、借りてきた猫のように大人しいマリーディアに目を向けると、少女は固く目を瞑っていた。


「――おい、何をしている」

「……え?」


 自分が云われていると気づいたマリーディアはシドを見上げた。


「何って……」 

「目を開けろ。せっかくの機会を無駄にする気か?」

「で、でも……」

「でも、ではない。嫌な事から目を逸らしていても成長は望めん。お前は大切な者が死にそうになっても見るのが嫌だからと目を閉じるつもりか? 確かに訓練とはいざという時がこなければ無意味だ。だが、だからといってやらなければ実際にその時に直面したとしても迅速に対応出来ないのだぞ」

「……わ、わかった」


 マリーディアはきゅっと唇を噛み締めた。両手を固く握り締め、


「やや、やってみる」

「うむ」


 中々いい調子だとシドは頷いた。最初の頃は殺そうとするだけで喚いていたが、それをしなくなっただけでも上々だろう。

 これだけの時間をかけてたったそれだけだったが、シドは女に対しては元々期待していなかった。女は肉体的にも精神的にも戦闘に向いていない。昆虫などには雌が大きい種もいるが、この星の人間がそうでないことは見ただけでわかる。

 魔法という条件が一つ増えてもそれが女特有のものでない以上、戦いに関するアドバンテージが男に傾いているのは明らかだ。生物学的にいって女は戦いの為に造られておらず、全く同じ戦闘技術を持った平均的な体格の男女がいたとして、女を選んで軍を組織する馬鹿はいない。指先一つで機械を操作できる世界ならともかく、生身で戦うこの世界ではそれがより顕著に現れるだろう。

 本来であればマリーディアにも選択する自由はあった。嫌がる女を無理矢理戦場に引きずり出すほどシドはひっ迫していないからだ。しかしこの少女はシドに何も云わぬまま勝手についてきた。例え本人が戦いを忌避したとしても、ここにいる以上敵を殺せるようにはなってもらうつもりだった。


「ついでにもう一度止めを刺してみるか? あの指揮官の男などお勧めだぞ?」

「余計な気は回さなくていい!! もっと違うとこで気を利かせてくれ!!」

「それは残念だ」


 シドは後一歩踏み出せば槍の攻撃範囲に入る――というところで立ち止まった。

 兵士達は扇型になって固く身構えている。もし一撃入れようと動けば、同時に斬りかかってくるだろう。


「右に二人、残りは左に廻れ!!」


 敵の指揮官が云うと、向かい合っているシドの左側に二人が、残りはマリーディアを抱えている右側にジリジリと動く。

 シドは正面に駆けた。


「馬鹿めっ!!」


 指揮官の声に反応して兵士達が斬りかかる。

 相対している敵の虚を突く早さだったが、指揮官に近い側の剣をすり抜けるのは無理だ。

 姿勢を低くし、槍を右に持ってくることでマリーディアを守り、左は無視する。

 体躯に当たる剣の音を聞きながら、この服もそろそろ替えねばならないな、などと考えた。


「ぬっ!?」


 目を細めて訝しむ指揮官だが、それでも咄嗟に剣を繰り出す。水平に寝かせ、相手の勢いを利用して突く形だ。

 シドはそのまま突っ込んだ。剣先が当たるも、構わず進む。

 堪らず指揮官は柄を手離した。シドに押された剣の柄が身体を包む鎧にぶつかり鈍い音を立てる。


「――ぐっ!!」


 胸を強打された衝撃で転がった指揮官が起き上がろうとするが――

 起き上がるよりも早く、シドは喉に足を当てると地面に押さえつけた。適度にかける重さを調節し、逃れられないようにした上で、


「動くなお前達。下手な抵抗はこの男の命を縮めるぞ?」


 と、背後の兵士達に云う。


「ヴヴ、ヴーっ!!」


 指揮官の男は何か云おうとするも、その声は呻きにしか聞こえなかった。 

 兵士達はどうしていいのか分からないのか顔を見交わす。


「そう警戒するな。とりあえず剣をしまうがいい」


 シドがそう云うも、兵士達が大人しく云う事に従う筈もなく、武器を構えて今にも襲いかからんとする体だ。しかし――


「代わりといってはなんだが、この男を立たせてやろう。無論すぐに殺せる状態には保つが、口は利けるようになるぞ? それにいつまでもこのままでいるわけにもいくまい」


 少し力を加えてやると、男の顔色が変わりだす。


「――見ろ、今にも窒息しそうだ」


 これは大変だ――と、シドはぐりぐりと足を動かした。

 指揮官の背が弓のようにしなり、手が脚を掻き毟る。その姿に一人、また一人と兵士が剣を鞘にしまった。


「さぁ! 隊長から脚をどけろ!!」


 兵士の一人が云った。

 シドはマリーディアをおろし、男の首を掴んで持ち上げた。このままでは同じように窒息してしまうので自分の足で立たせた上で指を食い込ませる。

 男は指を引き離そうと無駄な抵抗を始めた。


「下手な動きは止めておく事だ。お前の首を握り潰すのは手拭いを絞るより容易い」

「お――」

「お?」

「俺に、かばうな!! ごいつを、ごろせっ!!」


 男は兵士達に向かってそう指示を出した。


「焦るものではない。別にここで殺し合ってもお前達に有利なことをはないぞ。それよりもお前が遣わせた伝令がどうなっているのか気にはならないか?」

「なにっ!?」

「お前の兵の大部分がいる場所に行こうと云っているのだ。ここで戦うよりはお前達の勝率は上がると思うのだが、どうかね?」

「………」


 男はシドの表情を読もうとしているのか穴が空くほど凝める。


「俺の意図など推測するだけ無駄だ。お前は判断に使うべき何の情報も持っていまい」

「……いいだろう」


 しばし迷った後、男は頷いた。


「ではそこに行くまでお前の命は保証してやる。兵士達が大人しくついてくる限りは、な」


 シドは兵士達を見回し、様子を確認した後指揮官を引き摺って伝令を追った。

 マリーディアが兵士達と距離を取り、シドの斜め前を歩く。

 

(ターシャが上手くやっているといいのだがな……)


 こちらの被害と確実性を考えれば計画通りに進んだほうがスムーズに終わる。

 シドは槍で左肩をトントンと叩きながら、どうすれば引き摺っている男の心を折れるか謀り始めた。












 現場にはすぐに着いた。

 背中合わせに集まった兵士達の集団と、そこに群がり突撃するゴブリンやオーク達。建物の影や間にエルフ達の姿が見える。エルフ達は戦闘に参加せず、不安そうに広場を凝めていた。

 蹴り飛ばされた薪がそこら中に散乱しており、焦げた臭いが漂っている。

 転がる死体の数は、ゴブリン、オーク、兵士の順に多かった。


「――っ!? た、隊長っ!?」


 所在無さげに突っ立っていた一人の兵士がシド達に気づいて駆け寄ってきた。

 兵士は指揮官が人質に取られている状況に戸惑ったように、


「隊長……こ、これは……?」

「残念だが、お前達の隊長は俺に指揮権を移譲したぞ」


 シドはとりあえずそう云ってみた。


「え――?」

「ふ、ふざけるなっ!! 誰がいつそんな事を云ったか!!」


 指揮官が叫んで否定する。そして兵士に、


「何をしてる!! 早く兵を動かせ!! 俺には構わずこの男を殺すんだ!!」

「そそ、それが、エルフ共が……」

「エルフには魔物の相手をさせろと云った筈だ!!」

「いえ、そのエルフ共が――」

「――戦闘を停止したのだろう?」


 シドは兵士の言葉を奪って話しかけた。


「そうだろうとも。エルフ達は俺の下に降ったのだからな」

「嘘をつくな!! エルフが魔物の味方をするものか!!」

「嘘ではないさ。現にこうやって攻撃を中止しているではないか。ここへ来ることを前もって伝えておかなかったが故にいらぬ被害を出してしまったが、俺の配下が事情を説明した今ではご覧の通り」


 右手で持つ指揮官に周囲を見せてやる。


「一体どこに戦いを継続しているエルフがいるのか」

「………」

「これでお前達は孤立無援になったわけだ」

「……ゴブリンやオーク如き、エルフ共の援護がなくとも負けはせん」

「いやいや、お前は重大な見落としをしているぞ」


 シドは視界の端にターシャの姿を見つけ、目の前にいる兵士に向かって顎をしゃくる。

 ターシャはシドの云わんとするところを完璧に理解した。さっと弓に矢を番え、次の瞬間には放つ。

 風を切る鋭い音がしたかと思うと、兵士の首を矢が貫いた。


「――あ」


 と兵士が倒れ、それを見た指揮官は言葉を失う。


「見ろ。どうやらエルフの援護を受けるのはお前達ではなく俺達のようだ。さらにそれだけではなく――」


 シドは倒れた兵士の側まで行き、指揮官の男を自由にした。


「剣を拾え」

「え……?」

「剣を拾えと云ったのだ。別に隙を見て殺そうというのではない。安心して拾え」

「………」


 男はシドから視線を外さず剣を広い、すぐに身構える。


「……何のつもりだ」

「それで俺に打ち込んでみろ」

「………」   

  

 男は何かの罠かと疑い、逡巡しているようだった。

 シドは首を差し出して、


「そら、好きに斬りかかれ。こうしている間も死者は増えているぞ」

「……ならばっ!!」


 男は剣を両手に持ち、大きく振りかぶって首に斬りかかった。

 力と速さの乗った一撃が吸い込まれるように首に命中した。 


「ぐっ!?」


 鉄に斬りかかったかのような衝撃に剣先が地に落ちる。

 シドは、痺れた腕で剣を持ち上げようと前かがみになった男の背中を掴み、持ち上げる。


「貴様ぁっ!!」

「落ち着いて考えるがいい」


 歩きながら喚く男に話しかけた。


「お前と兵士達が助かるには降伏するしかない」

「誰が魔物なぞに降伏するか!!」

「お前はそれでいいかもしれんが、兵士達はどうかな?」


 シドが近付くと、戦闘に夢中になっていた兵士達も自分達の指揮官の姿を目に止め、当惑したような顔を見せた。それでも襲ってくる敵の相手をしないわけにはいかず、戦闘は継続する。


「全員動くな!!」

「――ぅわっ!」


 大音量で発すると、マリーディアが耳を押さえて前かがみなった。

 兵士、ゴブリン、オーク共に一斉にシドの方に顔を向ける。


「今降伏すれば命は助かるぞ。だが拒めば、ここで死ぬか森の中で死ぬしか道はない」

「云う事を聞くな!! 俺に構わず戦え!!」

「エルフ達はもうお前達の味方ではなくなった。それどころか――」


 そこに倒れている男を見るがいい――と、ターシャに射殺された男に顔を向け、


「首の矢は誰が放ったのだろうな」


 そう云いはしたが、おそらく今のままではエルフはこちらの側に立って戦わないだろうとはわかっていた。いくら人間が好きではないといっても魔物の味方をするとは思えないからだ。

 しかし戦闘を中断したのは事実であり、そこにターシャの矢が加わればどう誤解するかは考えるまでもない。


「これだけでもお前達に勝ち目はないというのに、残念なことに俺単独でもお前達を皆殺しにするのは可能なのだ」

「………」

「どうした。嘘偽りだと声を張り上げないのか?」


 何も云わない指揮官の身体を揺さぶる。


「剣や弩しか持っていないお前達では俺は倒せんよ。ましてや配下もいる状況ではなおさらだ」

「………」

「俺としても抑えられる被害は出したくないというのが本音でな。だからこそ降伏を勧めているのだ。元々お前達との戦いは予定になかったし、お互い犠牲が減って良い事尽くしだろう?」

「………」

「散って逃げれば何とかなるなどと甘い考えはするなよ。こちらにはまだオーガという戦力も残っているのだからな。徹底的に追撃をかけ、一人残らず始末してやる」

「……し、信用できない」

「信用できないだと? 馬鹿を云うな。できない、ではなくするしかないのだ、今のお前達はな。お互い目的が重ならない偶然の遭遇戦なのだからここで止める方が得策というものだ。国へは魔物の群れと遭遇し、撃退はしたが被害が出たとでも報告しろ。今ならまだそれで通じる」

「し、しかし――」

「お前を殺し、あの兵士達のど真ん中で俺が槍を振り回したらどうなるか考えてみたか? 陣形を崩されれば後は暗闇で散り散りに戦うしかない。夜の森の中、有利なのは一体どちらだ?」

「………」

「状況全てがお前達ではなく俺達に味方している。運に見放された軍の末路は哀れなものだぞ」

「な、ならばここはお互い兵を引くという形なら――」

「俺を舐めているのか、お前は。このままやれば間違いなく勝つであろうこちらが何故同じ条件で鉾を収めねばならないのだ。降伏の意味を履き違えるな。お前達は俺の前にひれ伏すのだ」


 男は迷っているようだった。兵士達の視線を浴びながら苦しそうに顔を歪める。

 そこにターシャがやってきた。


「何か問題でも?」

「いや、降伏を勧めていたところだ。これが中々首を縦に振らん」

「そうですか……」


 ターシャは指揮官の顔を覗き込むようにして話しかける。


「降伏した方がいいですよ。間違いなく勝てませんから」

「………」     

「まだ戦える兵がいるのに降るのに抵抗があるのはわかりますが、貴方が賭けようとしているのは兵士達の命だと理解したほうがいい。それに、貴方達がまだ戦えるからこそ彼は降伏を勧めているのです。拒否して戦った後に命乞いしても助けてくれるような人ではありませんから」

「……わかった」


 指揮官の男はとうとう折れた。


「……約束しろ。兵士達の命は助けると」

「勿論だとも」


 シドは軽やかに、打てば響くように答えた。


「さぁ、兵士達に武器を捨てさせるんだ」

「ああ……」


 男は苦渋に満ちた声音で、


「我々は降伏する。皆、武器を捨てるんだ」

「し、しかし隊長――」

「命令を聞け。魔物達は統制が取れている。いきなり殺されるような事はない……筈だ」


 指揮官が全ての兵を集め、武器を捨てるよう兵士達に命令するのを聞きながら、シドはターシャに目をやった。


「よくやった」

「お役に立ててなによりです」


 シドはこの星に降り立って以来、初めて本気で労いの言葉をかけた。使える女だと、そう思った。ターシャがいなければゴブリンやオーク達は大半が死に、シドが駆けずり回る羽目になっていただろう。


「……終わったぞ」

「うむ。――どうやらお前はいい指揮官だったようだな」


 男の声に、兵士達を眺め回したシドは満足げに頷いた。兵士達はごねる事もせず、武器を捨て静かに待機している。


「ゴブリンにオーク達よ。捨てた武器を全て回収しろ。絶対に手は出すな」


 シドの命令は即座に実施された。ガフガフと鼻を鳴らして兵士の間を歩き回り、落ちている武器を拾い上げる。

 最初に拾い上げた一本を手に持ちチラリとシドの方を見るオークに、首を縦に振ってやる。

 錆びた剣や斧、木の腐った棍棒などを使用していたゴブリンやオークは新たに手に入れた磨き抜かれた刃をうっとりと凝め、それが終わると余った剣や弩をシドの近くに積み上げた。殆どが弩で剣は僅かしかない。


「全員武器を手に入れたな?」

「ブガァァァッ!!」

「ガァァァッ!!」


 訊ねると一斉に雄叫びをあげ、剣を突き上げる。その姿を目にした指揮官が、


「おい!! 本当に約束は守るんだろうな!?」

「俺を信じろ」


 シドは力強く首肯した。そしてゴブリンやオーク達に向かって、


「周りを囲め。こっそり逃げる奴がいないとも限らんからな」

「………」


 ぞろぞろと兵士を囲む輪を形成する魔物達を見た指揮官の男は、不安と焦燥に満ちた表情で見守っている。もしかしたらとんでもない間違いを犯してしまったのでは――と思っているのが訊ねるまでもなくわかった。

 包囲の輪が出来上がったのを見計らい、シドは指揮官の背から手を離し己の方を向かせた。肩に手を置き、安心させるように話しかける。


「俺はたまに誰かをからかう事はあっても、大抵は誠実であろうと心掛けている」

「………」

「――味方に対してはな」

「――ぐ」


 シドは男の首を握り締めた。


「誠実さとは味方に対してのみ貫けばよい。敵にそれを求めた時点でお前達の運命は必定だった」

「ぎ、ぎざ――」


 皆まで云わせず、握り潰す。

 シドを睨みつけていた目から光が消え、最後の抵抗を目論んでいた腕から力が抜ける。

 だらりとぶら下がった男の身体を兵士達の間に放り投げた。


「よーし、お前達――」


 右手をあげて、振り下ろす。


「――殺せ」


 まともにぶつかり合っても分が悪いのなら、敵を弱体化させればいい。

 どんな兵種にも長所短所はある。人間ならば躊躇するだろう行為を一切の遅滞なく遂行する。これはゴブリンやオーク達の長所だ。


 ――虐殺が、始まった。



 

 


  

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