森にて―訓練―
「う……」
意識の戻ったマリオが最初に感じたのは、痺れるような痛みだった。左腕が動かせず、脇腹と胸が不規則な呼吸をするたびに激しく意識を突き上げる。その度に漏れそうになる声を押し殺した。
一瞬何故ここにいるのか、どうして怪我をしているのかわからず混乱したが、精神を落ち着かせ自分を背負うビットリオに訊いた。
「ど、どうなった……?」
「とりあえずは逃げ切ったようだぞ。あれから大分経つが追っ手の気配はない」
「そ、そうか……」
茫とする頭で考えた。あの男に吹き飛ばされてからビットリオに背負われるまでの記憶はある。その後痛みで気を失っていたらしい。
痛みで気絶して痛みで覚醒するとは――こんな時だがマリオは笑いたくなった。しかし笑うと絶対に痛いので堪える。
辺りは薄暗く、あれから時間が経っていると思われた。後ろをヒックが走っている。
マリオはジェイリンの姿がないのに気づいた。
「ジェイリンは……どうした……?」
「彼女なら先行している。ヒックと交代でな」
その言葉を聞きほっとする反面、続けざまに魔法を使って休む時間さえない事に不安を抱く。
マリオの荷物はヒックが持っており、側にいるのはビットリオの護衛も兼ねているのだろう。ジェイリンと交代していると云ったが、これでは意味がなかった。
明らかにオーバーワークだ。どこかで休息を取る必要がある。
「す、少し休もう。このままでは……いざという時戦えない」
「しかしあの男が――」
「大丈夫……だ」
「……わかった」
ビットリオに下ろしてもらい、木に背中を預けた。
「む、向こうにはマリーディアという少女がいる。そう……早くは動けん」
「あの男だけで追ってくるかもしれんぞ?」
「それは、ない……だろう。魔物の群れに……残して行くことになる」
「……担げばどうだ?」
「あの荷物を背負っているのにか……? まぁ、ありえない話ではないが……」
マリオは近くで黙って休んでいるヒックを呼ぶ。
「……ヒック、俺の荷物を持ってきてくれ」
「ん? ――あ、ああ」
背負い袋を受け取り、中から小瓶を取り出した。
「ビットリオ、これを――」
差し出されたのは掌ほどの金属製の瓶だ。
ビットリオは驚いた顔で、
「これは――」
「……持って行け」
「しかしこれは――」
「いいから受け取るんだ……」
ビットリオが渋々ながら受け取ると、マリオは大きく息を吐いて身体から力を抜いた。
「……いいか、よく聞け」
なるべく明瞭に聞こえるよう意識して話す。
「もし……戦う、ことになったら、さっきの……男には、用心しろ。視覚に、頼ってない可能性がある。出来るなら……あの男より早く、村へ行き……さっきの小瓶を使え」
例え目を隠していても、見えているなら先程の魔法は有効だった筈だ。にも関わらず、あの男には一瞬の停滞もなかった。どの知覚で周囲を把握しているかわからないままに戦闘を仕掛けるのは危険だ。
「使ったら……後のことは考えず、全力で逃げろ」
マリオはそこまで云うと目を閉じた。口元は痛みに歪んでいるものの、瞳は穏やかに凪いでいる。
「……俺は置いていけ」
「――マリオッ!!」
「どう考えても、足手まといだ……。村までは、行けても……その後を逃げ切るのは……」
腕だけならばどうにでもなったが、肋骨が折れたのはまずかった。腕と違い骨がずれていてもそう簡単に戻せない。
ここは街の中ではないのだ。平時なら時間をかければ治るような傷でも状況によっては命を落とす。
「馬鹿な事を!! 俺が背負って行く!! それならば問題ない!!」
「俺の番が来たんだ、ビットリオ」
マリオは微笑んだ。
「誰でも、いつか死ぬ。俺は、そこまで短い方では……ないさ。こんな仕事を……してたにしてはな」
「駄目だ駄目だ!! ならば今から街に戻ろう!! 依頼は破棄するんだ!!」
「子供みたいなことを云うなよ……。まだ……目的地にさえ、着いてない。笑いものになる……ぞ」
「死ぬよりはマシだ!!」
「……侯爵は、それを許すほど甘くない」
依頼の内容と、他の貴族を間に入れず子飼いのマリオ達に話がきた事から、逃げ帰るなどという馬鹿な真似が許される依頼でないのは明白だった。
「体力と……魔力を残して村に辿り着く必要がある。……わかるな?」
「し、しかしっ……」
「お前が、今からリーダーだ。……二人を頼んだ」
「マ、マリオ……」
「ヒック」
呼ぶと、これまで年長者二人の会話を黙って聞いていたヒックがおそるおそる近づく。
マリオはこの、不思議と憎めない、最後に団に入った青年を凝めた。
「……し、死ぬのか、マリオ?」
ヒックの問いにマリオは答えなかったが、目が肯定している。
これまで幾つも見てきたように――
これまで幾つも与えてきたように――
今度は自分がそうなると、その目が語っていた。
「剣だけ、くれ」
「……ああ」
「盾は……邪魔になるなら、捨ててくれて構わない。もし持って帰れたら……妻に……」
「――ああ。ああ。絶対に渡すよ」
「持って帰れたら、でいいと云うに……。笑わせるなよ……」
マリオは痛みを堪えながら可笑しそうに云い、
「……もう行け。ジェイリンには、上手く云っておいてくれ」
「……きっと泣くんじゃないかな」
そういうヒック自身は鼻声で答え、背中を見せた。
「マリオ。今まで云わなかったけど、その……あんたには感謝してる。俺を拾ってくれて……ありがとう」
「……ああ」
「……じゃあな」
ヒックは後ろを振り返らずに駆けていき、暗い森の中に姿を消す。
「お前も行け、ビットリオ……」
「……恨むぞ」
「愚痴なら……あの世で会った時にな。先に逝って……待ってる」
「………」
膝をついているビットリオは黙ってマリオを見下ろした。この、十年以上の付き合いのある友人を――
(あの、男っ――)
ビットリオの胸に友をこのような目に合わせた男への怒りが湧いてくる。仕事柄いつ死んでもおかしくはないし、文句も云えないのだが、やはり近しい者が犠牲になると平静ではいられなかった。
理屈ではないのだ。勝手だと分かっていても抑えきれないし、抑えるつもりもなかった。
決意を胸に秘めたビットリオは無言で立ち上がった。剣を胸に抱き、瞳を閉じている友に心の中で最後の別れを告げると背を向ける。
ビットリオの姿が闇に飲まれ、しばらくするとポツポツと雨が降りだした。
小雨だった雨は次第に勢いを増し、マリオの身体を激しく打ち、みるみる熱を奪っていった。
マリオは、拾い上げてくれる人を待つ打ち捨てられた人形のように、ただじっと待った。
「止まれ」
雨の降る森の中、途中までは地面に残る靴跡の陰影を、雨が降ってからは現在地と村の位置、これまでの進路を合算して追跡していたシドは短く告げた。本来なら右手もあげるところだが、今はマリーディアを抱えている。
いつもなら小言の一つも云いそうなものだが、夜の森で置いていかれるのはさすがに耐えられないのか話すことを忘れたように黙って揺られていた。
ターシャが止まり、遅れ始めていたオークやゴブリンが徐々に追いつく。
シドは木々の隙間からチラつく赤い色表示の物体を警戒しながら近づいていった。
「誰か倒れています」
ターシャが目をすがめて闇を透かし見ながら云う。
マリーディアが懸命に目を瞬くが、彼女には見えないようだった。
「先程の盾を持っていた男だな」
「一人でしょうか?」
「うむ。付近に人間はいない」
シドは男がもたれかかっている木の側まで歩み寄り、マリーディアを下ろす。
「し、死んでいるのか……?」
「………」
シドは立ったまま傲然と男を見下ろした。槍を逆手に持ち、頭部に狙いを付ける。男はピクリとも反応しなかった。
「何をするつもりだ!?」
マリーディアが驚いてシドに云う。
「止めを刺す」
「もう死んでるじゃないか!」
「そう見えるだけだ。まだ生きている」
「嘘だ!!」
「嘘ではない」
「絶対嘘だ!!」
「絶対嘘ではない」
「絶対に絶対に嘘だっ!!」
「絶対に絶対に嘘だ」
「絶対に嘘じゃない!! ――あれ?」
シドはキョトンとするマリーディアを馬鹿にしたように、
「意見の一致をみたところで止めを刺すとしようか」
「卑怯だぞ!!」
マリーディアはシドと男の間に割って入った。
「敵とはいえ死んでるんだ! 弔うくらいの事もできないのか!?」
「愚か者め」
シドは吐き捨てた。
「そこをどけ」
「嫌だ!!」
「………」
シドは黙ってマリーディアの肩に手を置いた。
ビクリと跳ねる肩を右に押しやろうとする。
その瞬間――
「ぐおおおおおおっ!!」
死んだように動かなかった男が跳ね起き、剣を寝かせて体ごと倒れ込むように突っ込んできた。
「――え?」
何が起こったかわかっていないマリーディアは不思議そうに後ろを振り向こうとする。
シドは予定通りマリーディアを右へ押した。
マリーディアが倒れるのと男がシドにぶつかるのは同時だった。
「――ぐううっ!! や、やったか!?」
男は顔に喜悦を浮かべ、自分でも信じていないような声を上げる。
シドは、男の剣を持つ右手を握り潰した。
「がぁっ!?」
突き飛ばすと、男はさっきまでと同じように木に背中を預け、ずるずると座り込む。
文字通り皮一枚裂いて地に落ちた刃を踏み折り、
「無駄骨だったな」
しかし、いい判断だ――と、心の裡で思う。足手まといである己を残し、命を賭して最も弱い敵を狙う、もしくは利用して指揮官に一矢報いようとしたのだ。
部下に欲しいところだが、生憎敵である。
「お前に敬意を表し、俺からの一撃はなしにしてやる。生きながら食われ、生命の環に還るがいい」
「――ううっ」
両手とも自由を失った男の胸ぐらを掴み上げ、ゴブリンやオークの元に放ろうとする。
そこへ、またもやマリーディアが立ちはだかった。
「なんだ」
シドが冷たく問うと、少女はうっと怯んだ。しかし、
「も、もう殺すなとは云わない。けど、せめて止めは刺してやってくれ」
「別に構わんぞ」
シドはあっさりと了承した。マリーディアをじっと凝め、何やら決めたのか小さく首肯する。
「お前の好きにするがいい」
「ほ、本当か!?」
まさか聞き入れてくれるとは思っていなかったのか、マリーディアはこぼれ落ちんばかりに目を見開いたが、その後シドに差し出されたものを目にして怪訝そうに眉を顰めた。
「なんだ、それは?」
シドが差し出していたものはナイフだった。
「これを貸してやろう」
「……なんで?」
「止めを刺すのに要ろう。それとも己が手で絞め殺すつもりか?」
シドは可笑しそうに云う。
「わ、ワタシが……?」
「勿論、そうだ」
「な、なんでワタシが……」
マリーディアの言葉に、シドは首を傾げた。
「どうして俺がやらなければいけないのだ?」
「だ、だって……」
「お前、まさか俺に手を汚させようと考えていたのではあるまいな」
「………」
「止め、慈悲、大いに結構だとも。強者には弱者の運命を弄ぶ権利がある。今のお前でもこの男は殺せよう。だが、俺は殺せん。お前が自由にできるのはこの男の運命だけだ」
シドは小さな手にそっとナイフを握らせた。
「この男を殺したいのだろう? 今ならどこを斬ろうが、どこに突き刺そうが抵抗はない。思う存分振るうがいい」
マリーディアは雨に濡れて黒く風景を切り取ったかのような刃を凝めてブルッと身震いした。
「む、無理だ……。ワタシには……」
「ふむ……。無理なら止めておけ。やりたくない事を強要せねばならない状況ではないからな」
「……い、いいのか?」
「いいとも。この男には最初の予定通り生きたまま餌になってもらう」
シドはそう云うと残念そうに首を横に振った。
「お前の言葉がその場限りの綺麗事だというのは前々からわかっていた事だ。お前には自分の言葉に対する責任がない。責任を取る気も、取る力もない癖に人のやることに異論ばかり唱える」
「そ、そんな事はない!!」
「あるさ。お前の言葉には重さがない。お前は、これまでお前の周りにいた者共がそう思っていたからという理由で主張しているフシがある。だから俺の言葉に反論できん。そしていざ己が口に出したことを実行に移さねばならなくなった時には尻込みする。――今のようにな」
「………」
「戦うことを忘れた者は長生きできん。どれだけ兄であるアキムがお前を庇おうともな。それどころか庇えば庇うほど、アキム自身の生命も縮める事になる。お前はいずれ自らを庇って生命を落とした兄の姿を見ることになるだろう」
シドはそれだけ云うと興味をなくしたように顔を背けた。
黙って二人の会話を聞いていた男の前で腰を曲げ、服を掴む。
「――ま、待ってくれ!!」
シドの背で、少女の先程までとは違う強い意志を感じさせる声が弾けた。
シドはマリーディアに見えぬ位置で笑顔を作る。大きく裂けた唇が吊り上がり、それを間近で目にした男の顔が石のように強張った。
シドは表情を戻すとマリーディアに向き直る。
「どうした。俺は時間を無駄にするのは好きではないのだ」
「……や、やる」
「うん? 声が小さくて聞こえんな」
「やると云ったんだ!!」
マリーディアは癇癪を起こした子供のように足を踏ん張り言葉をぶつけてきた。
「何をやるのか云え」
「だ、だから……そのお、男に、止め……を……」
「そうか。それはお前自身の手で行うのだな?」
「そ、そうだ!!」
「そうか、そうか」
シドはマリーディアの傍まで行くと、雨に濡れた背中を優しく押した。
――男の方へ
「俺はお前を信じていたぞ」
「うるさいっ!!」
男は会話中ずっと疲れきった目をしていたが、ナイフを手に自分の前にマリーディアが立つと、少女を見る視線に強い哀れみが混ざった。
マリーディアは地面に膝をつき、小刻みに揺れるナイフを両手で握り締め、大きく振りかぶる。
男は静かに目を閉じた。
「……くっ」
――しかしいっこうにナイフが振り下ろされる気配はない。
男が閉じていた瞳を開き、少女が今だ同じ格好のまま固まっているのを知って呆れたようにため息をつく。
シドは頭の中で数をカウントしていたが、それが三百を超えるまでが限界だった。
「お前は一体なにをしているのだ?」
「わ、わかってるけど、腕が動かないんだ……。まるで巨人に掴まれているようだ」
マリーディアの腕はプルプルと震えている。力は入っているようだが、ただそれだけだ。力の方向が下に向いていないのは明らかだった。
「手のかかる奴め」
シドは背後から歩み寄り、少女の手を己が掌で包み込んだ。
「さあ、別の巨人が手伝いに来たぞ」
「わっ、わわっ!?」
シドがナイフを下に動かすと、マリーディアは死に物狂いで抵抗した。
「ま、待って! 一人でする!! 一人で出来るから!!」
「もう十分待った。お前が一人では殺せないのは火を見るより明らかだ」
「こ……こ、心の準備が!! 心の準備が必要だったんだ!! 今それが終わったから!! ちょうど今からやろうとしてたんだ!!」
「心の準備など必要ない。必要なのは身体の準備だ」
「な、なら、まだ終わってない!! 身体の準備はまだしてない!!」
「いいや、とっくに終わっている」
「オマエに何がわかる!! ワタシの身体はワタシが一番よくわかってるんだ!!」
「それは違う。俺はお前よりお前の身体についてわかっている。既に準備は整っているとも」
「な、ななっ――」
マリーディアは夜目にもわかるほど赤くなった。
「目を開け。その瞬間を焼き付けるのだ。無抵抗な敵で初めての訓練が出来るお前は幸せだ」
「何が訓練だ!! これはそんなんじゃない!!」
「勿論それだけではない」
シドはマリーディアの耳に顔を寄せて睦言のように囁いた。
「これは俺に反抗するお前への罰であり、お前という新兵の訓練である。そしてまた、この男へのお前からの慈悲でもあるのだからな」
「あ――」
少女の身体がビクンと痙攣した。
「だ、騙したな!?」
「人聞きの悪いことを云うな。これはお前が云い出し、やり始めたことだぞ」
「……な、なら、止める。もう止める! やっぱり止めるから!!」
「………」
「……は、離してくれ。もう止めを刺すのは諦めるから」
「……そうか」
シドは男の腹にナイフを振り下ろした。
「ぐっ――あああああああっ!!」
男はカッと目を開き絶叫する。
「あ……あ……」
「ならば残るのはお前への罰と訓練の二つだ」
ナイフを引き抜き、マリーディアの顔の前に持ってくる。
「ち、血が……」
「当然だ。肉を裂いたのだからな」
もう一度ナイフを構える。
「も、もう、止めてくれ……」
「抵抗があるのは最初だけだ。慣れれば何も感じなくなる」
「慣れる……?」
なにを云われたのか理解できないのか、マリーディアの口調は無垢な幼児のようだった。
「そうだ。人とは慣れる生き物だ。どんな状況にも適応する。そしてお前もまた適応するだろう」
「――ッ!?」
マリーディアはいきなり暴れ始めた。
「もう嫌だ!! 離せ!! 離してくれ!!」
「どんなに足掻こうとも無駄なことよ。お前の兵士への道が今始まるのだ」
シドは再度ナイフを突き立てる。
「がああああああっ!!」
男の悲鳴と共に口から飛び散った血がシドとマリーディアに降りかかる。
「止め……止めて……」
「感情は道具だ。制御できれば人を殺すのは容易となる」
掠れたような声の懇願を聞き流し、さらにナイフを突き立てた。
「あああああああああああ!!」
「お、お願いだ……もう……止めて……」
「心の痛みは成長の証。お前が強くなればお前の兄も生存の率が上がろう。俺とても部下が情動で生命を落とすことは望んでおらん」
シドはぐずるマリーディアを無視してまたナイフを振り上げる。
「こ……の、狂じ……んめ……」
男が話しかけてきた。
「まだ口が利けるとは、中々タフだな」
「お……前は、狂っ……てる……」
シドは話にならないと首を振る。
「俺の機能は正常だ」
ナイフが男の胸に柄まで埋まった。
男の首が力なく垂れ下がると同時に、マリーディアの身体から力が抜ける。
シドは気絶したマリーディアを右手で抱え、立ち上がった。
『もしかして、壊れちゃいました?』
「(それほどヤワではあるまい。それに中身が白紙になったのならまた書き込めばいいだけだ)」
男の死体をオークとゴブリンの方へ蹴り飛ばす。
白けた目でこちらを見ているターシャに、
「先を急ぐぞ。だいぶ時間を使ってしまった」
「そんな女に付き合うからですよ」
「……意外に思うかもしれんが、俺は部下を大事にするのだ」
「いえ、それはよくわかってます……」
「俺なりの方法でな」
なにか可笑しかったのか、そう云ったシドは配下が敵を貪る音を聞きながら機嫌よさげに笑った。




