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永遠の戦士  作者: ブラック無党
エルフの村
59/125

森にて―二人―

遅くなりました


暑さがマジやばいぃ


0時回っても室温が三十三度もある……


今回は主人公出てきません。次回はヴェガス達とシド達視点です


暑くなかったらモリモリ進むんですが、申し訳ない

「ハァッ……ハッ――ハァ……」


 規則性などとっくに失われ、餓えた獣が肉を貪るようにがむしゃらに空気を求める肺が、もうこれ以上は無理だと訴えてくる。

 これまでがむしゃらに足を動かし木々を避けながら走り続けたが、先を行くターシャの背中がだんだん霞んで見えてきて、マリーディアはとうとう根を上げた。胸の中の心臓が、ここから出せと暴れている。


「――ま、待ってくれっ……もうっ……走れない!」


 立ち止まり、膝に手をついて荒い息を吐く。汗で張り付いた髪の毛を鬱陶しそうに払い除けた。


「あ……」


 ターシャは後ろを振り返り、叱咤しようと声を出しかけたが、マリーディアの様子を見て引き返す。


「大丈夫ですか!?」

「うん……でももう走れそうにない」

「そうですか。仕方ありませんね……」


 そう云って走ってきた方向に険しい目を向けた。


「それなりに引き離したとは思いますが……」


 追いかけてきていたオーク達の姿はない。奴等は持久力はあるが瞬発力がないのだ。しかしこちらには森に不慣れなマリーディアがいる。安心は出来なかった。


「今、どの辺りにいるんだ? 皆とは合流できそうなのか?」


 森に行くと聞いていた為、マリーディアは生地の薄い服を着ている。汗で身体に貼りついたそれを引っ張りながら訊いた。


「大凡の位置ならわかりますが」

「わ、わかるのか……!?」

「はい」


 ターシャは走ってきた方向を指差し、


「こちらが元々いた場所ですね」


 指先をツツーと南に動かす。


「かなり大雑把ですが、こちらが皆がいるであろう方向です」

「あいつらは?」

「奴等は欲望には忠実ですから、何か他に気を取られるような事が起きない限り追ってくるでしょう。お互い移動してますから出会わないかもしれませんが、こればっかりは運次第ですね」


 森の中で危険な生き物に出会う可能性はいつだってある。しかし戻ればその確率は間違いなくあがるだろう。


「先回りして方向を変えれば合流できるんじゃないか?」

「……そうですね。私もそれを考えましたが――」


 ターシャは云いにくそうにしながら、


「先程までと同じ速さで長い距離を走れますか?」

「そ、それは……」


 ターシャが逃げたマリーディアを見つけた時、既に彼女はオーク達に追われていた。ターシャはそれを先回りした後、誘導したのだ。オーク達よりも機動力があるからこそそういう手も使える。そしてその後はひたすらにオーク達と距離を取る事に専念した。マリーディアは無手だし、エルフでも複数のオークと正面切って戦うのは推奨される行動ではない。

 普通に歩いていて出会う分には遠くから先制出来れば終始流れを掴める。向こうはこちらが複数だと知らず、ターシャが姿を見せればマリーディアを探そうとはしないからだ。しかし追跡してくる相手はマリーディアがいると知っている。ターシャが単独で迎撃しても、必ず捜索に仲間を割く――というより、無力な相手を狙う筈だ。

 失敗すれば「やっぱり無理でした。逃げましょう」では済まない。この状況で人一人守りながらの戦いを選ぶ程ターシャは自惚れてはいなかった。


「体力がなくなってる時に出会ったら、間違いなく捕まりますよ」


 森に住むエルフであるターシャの見立てを聞いたマリーディアはショックを受けた顔つきになる。ついさっきまで皆といたのに今は二人で危険な森の中だ。


「その……悪かった。ワタシのせいで……」

「気にしないでください。もし私が貴方の立場だったとしても平静ではいられなかったでしょう」

「………」


 マリーディアが顔を赤くした。身内の恥をわざわざ自分から話題に出してしまった。誤魔化すように、


「そ、それでこれからどうするのだ? 考えはあるのか?」

「とりあえず進みましょう。追いかけてきているのがわかっているのに待ってるのは愚かというものです。息は整いました?」

「うん」


 二人は後ろを気にしながら方角を変えずに早歩きで進む。


「こっちでいいのか?」


 さっきターシャが示した指の方角から察するに、こちらは南西、それもかなり西寄りだ。村とも皆のいる方向とも違う。


「はい。こちらには団長がいる筈です」


 マリーディアは運が良かった――そうターシャは思った。

 これはヴェガスが追いかけるという選択肢の次に良かった。もしこれがレントゥスやミラ、アキムだったりしたら皆との合流を目指して引き返すしかなかっただろう。彼等にはシドの行方に全く心当たりがないからだ。しかしターシャは違った。彼女はシドが向かった先について、大体だが見当がついている。

 これは他の誰であっても無理だった。何故なら、今現在の傭兵団の面子の中で、ターシャこそが最初にシドと出会ったから。エルフの捕虜を得る以前の――単独行動をしている――シドを知っているのはターシャだけだ。

 普通、何の目的もないままに危険な森に入る者はいない。もし目的がないのに森にいるとしたら、それは森に住んでいる者だ。

 そして逆にあの時のシドが目的を持っていたと仮定する。性格上、目的を蔑ろにして他の事をやるような男ではない。シドの進行先が明確に変わったのはエルフを捕虜としてからだ。という事は、シドの目的は捕虜を得る事だったという事になる。それもエルフに限定されない捕虜だ。これは捕虜となってからも、エルフの――人間にはない――付加価値を利用しようとしなかった事から推測される。必要だったのはあの場所で得られるという事実のみ。

 誰でもいいから捕虜を取る。しかしそれはゴブリンやオークでは駄目だった。捕虜を取って後、森から出る方角へ進み始めた。街についても捕虜に対して何もしない。これらの事実から、あの時のシドの目的は情報だとわかる。しかも欲していたのは森に住む者特有の知識ではない。もしそうだったら尋問なりなんなりされていた筈だ。

 求めていたのは情報。それも森に関係しない情報で、本人は人間にしか見えないにも関わらず、街では行動を起こさない。

 そこにシドが文字を全く知らなかったという要素を加味すれば、欲していた情報は極基本的な事。そしてシドという人物は突如あの近辺に出現したのだ。しかも身一つではなく、そこには何かが付随している。シドが今になって単独で行動すると云った時、ターシャはこれに気づいた。故に、今回シドが森に進入した箇所から西に線を引く。その線以南の、かつての行動の軌跡を現した線上にシドの目的地はあると踏んで。

 ――勿論これは全て推測だ。しかしあながち的外れというわけでもないだろうと、ターシャは思う。行動を見れば目的はわかる。シドのような性格は特にそれが顕著だ。わからないのは森から出た後の方向性の起因、それとどうやって現れたか、である。

 ターシャの予想では、出現の候補は三つ。一つ――魔法で飛ばされた。二つ――魔法で召喚された。三つ――火の玉が実はシドだった。この三つだ。


「団長? ――ああ、あの男か……」


 マリーディアの言葉に、会話の途中だったことを思いだしたターシャはハッと我に返った。

 ターシャの差した人物を思い浮かべているであろうマリーディアは顔を顰めている。


「確かにこういう状況なら頼りになる事は認めるが、あの男は根本的に何か変だぞ」

「………」

「本人のいない所で云うのはあまり好きじゃないんだが、ああいうやり方をしていたらその内大事になる。今の時点でそうなっていないのが不思議なくらいだ。部下であるアナタに云うのもなんだけど、早いとこ距離を置いたほうがいいと思う」

「……ターシャでいいですよ」


 ターシャはそれだけを云った。心の中にはマリーディアに対する微かな憐憫が湧いている。――この、アキムの妹は何も知らないのだ。とっくの昔に取り返しのつかない大事になっているし、さっきまで一緒にいた薄汚れた男達はまさに当事者だった。そしてシドの目がエルフの村に向けられている以上、距離を置くという事は、全てを捨てて逃げ出すという事だ。


「……彼もそんなに悪い人ではないですよ。少なくとも、街の裏路地にいる人間達よりはマシです」

「……あの男は、人を殺す事を何とも思ってない」

「そうですね。人間がエルフが苦しんでても何も思わないのと同じです。信じられないかもしれませんが、彼は私達エルフに何もしていないんですよね」

「男色なだけかもしれないぞ」

「もしそうなら貴方の兄はとっくに手遅れでしょう。ですがそんな様子は微塵もありませんよ?」

「………」

「どのように生きてきたかによって考え方は変わるのですから、他人に自分のそれを押し付けるのは横暴というものです」


 マリーディアは顔を伏せた。云ってる事は確かにわかるが、知性ある存在として、最低限守らなければいけない道理はある筈だと思い。


「……殺すのだって押し付けになる」

「自業自得です。彼の命を狙った私が彼に何も云えないように、亜人を排斥してきた人間が他種族に排斥されても文句など云えません。それはあまりにも都合が良すぎるでしょう」

「しかし、亜人に優しくしてきた人だっている。彼等にも同じく死ねと?」

「貴方はエルフの全てが人間に敵対してきたとでも思っているのですか? ただ生きてるだけの相手を苦しめ続けてきた人間にそんな台詞を云う資格はありませんよ」


 マリーディアがたった一人、人里離れた場所で自分の力のみで生きてきたならターシャはこんな返し方はしなかった。だがマリーディアは共同体の中で生活してきたのだ。同族が他者を虐げてきたのを看過してきたくせに自分達の巻き添えには文句を云うのは身勝手過ぎる。人間が何をしようと見過ごしてきたのなら、シドが誰を殺そうと見過ごせばいいのだ。


「この話はもうやめましょう」


 と、ターシャは云った。結局どんなに言葉を尽くそうが、エルフにとってマリーディアは加害者である人間の側だ。


「………」

「………」


 二人の間に気まずい空気が漂い、ターシャは溜め息をついた。協力しなければいけない時に何をやっているのか。

 咄嗟に走って追いかけたターシャは荷物を持ってきていない。小さな水筒しかないのだ。節約しても二、三日。魔法で作り出すのは論外で、行使を止めれば消えてしまう。それと同様に周りから集めるのも避けたかった。消費する魔力の量に比してたいして集まらないし、なにより魔力は温存しておきたい。そうなると果実や朝露を利用して――

 ――常に喉の渇きに苦しむだろうが、ぎりぎり目指す地点までは持つ、とみる。


「……少しでいいので走れますか?」


 訊くと、マリーディアが、え――という顔をした。


「方向には自信がありますが、速度が問題なんです。彼が単独で行動した場合の移動速度が私達以下だと思いますか?」

「なら、やっぱり戻った方がいいんじゃないのか?」

「どうでしょうかね……。断言出来ますが、オークに捕まったら絶対に死んだ方がマシだったと後悔しますよ」


 最悪の場合、マリーディアには可哀想だがターシャは一人で逃げるつもりだった。出来る事はするが、出来ない事を無理にやろうとして運命を共にする気はこれっぽっちもない。


「追いつけるのか?」

「……たぶん無理です」

「なら選択の余地はない! 戻ろう!!」

「………」


 ターシャはどちらかというとこのまま進む方が良かった。行った事はないが、何かあった時の為にエルフの各村の位置はだいたい把握している。最後には村に向かうというシドの予定はわかっているのだ。追いつくのは無理でも先回りは出来る。そうすればいずれ後ろから接近してくるだろう。

 なにより、シドという庇護者がいない人間の集団に戻るのは気が進まなかった。アキム達はともかく牢獄から連れ出した男達ははっきりいって信用出来ない。シドがいない状況ならなおさらである。もし街道で人間の集団と出会ったりしたら、その瞬間そいつらと一緒に牙を向かないという保証はないのだ。あの集団がシドという人物を中心に成り立っているのは明白で、その中心が別行動しているそこにはいたくないというのが本音だ。


「……本当に戻るのですか?」


 立ち止まったマリーディアに、ターシャは訊ねた。


「だって追いつけないんだろう?」

「それはそうですが……」

「水や食べ物だってないし、そもそもこの広い森の中だ。どうやって見つけ出す?」


 おそらくマリーディアは早く森から出たいのだろう。慣れているエルフと違い、彼女は人間だ。生活圏から切り離され心細い思いをしているに違いない。


「水と食料に関しては、苦しむ事にはなるでしょうがそれで命を落とすとは考えていません。私達はたった二人ですから。果物や朝露など、なんでも分け合えば長い間さ迷わない限り大丈夫だと思ってます。彼を見つけ出すには少々危ない橋を渡る事になるでしょうが、それは戻っても同じですよ? どうせ危険を犯すなら助けが来る可能性のある方に掛けた方が良くないですか?」

「水も食料もなしに森の奥に入れとか遭難しろと云ってるようなものだぞ!」

「ですからそれは大丈夫だと――」

「大丈夫には思えないから云ってるんだ!」


 ターシャは溜め息をつき、


「……仕方ありません。それでは大きく迂回して街道方面に戻りましょう」

「……うん」

「どうなっても恨まないでくださいね」

「そんな事はしない。こうなったのも私のせいだからな」


 だったら大人しく進んでくれればいいのに――ターシャはそう口の中で呟き、疲れたように向き直る。

 そこに――


「――どうやらお困りのようだな、お嬢さん方」


 と声がかかった。










「どうやらお困りのようだな、お嬢さん方」


 そうマリオが声をかけると、エルフの女は手馴れた動きで弓を構え、人間の女はビクリと身体を硬直させた。

 気づかないままに接近を許した事が気に食わないのか、エルフの目付きは厳しい。長い耳がピクピクと動いていた。

 最初に声をかけたきり無言で、マリオは矢の射線上に左腕に通している円盾をかざした。身体の半分を隠しながら、右手を鞘に収められた剣の柄に置いた。

 マリオの後ろから、男が二人と女が一人姿を見せる。


「こんな森の中で未来の花嫁に出会うとは、神様も粋な計らいをするぜ」


 短槍を二本背中で交差させている青年――ヒックが、同じように後から姿を見せた仲間を見ながら云う。


「俺は人間の女の子にしとくから、お前さんはエルフにしときなよ」

「言葉を慎め。敵対する気はないのだぞ」


 云われたビットリオは運んでいたマリオの荷物を地面に下ろし、気を悪くしてないかと仲間内で唯一の女性であるジェイリンを見る。

 ジェイリンは気にしていないと顔を振り、長い黒髪を揺らした。


「そんな事よりあっちを気にしたら?」


 目の前では団のリーダーであるマリオが一人でエルフを警戒している。ヒックはマリオの側まで進んで女の子に話しかける。


「もう心配いらないぜ。俺がちゃんと責任を持って家まで連れて行ってやるからよ」

「………」


 女の子は無言だが、心なしか表情が柔らかくなった気がした。


「そこのあんたも弓を下ろしなって。別に襲おうってんじゃないからさ」

「………」


 エルフの女性はヒックの言葉を無視する。

 再度話しかけようとするヒックを、マリオが右手を上げて止めた。そして自分で話しかける。


「敵対するつもりがないと云っているのに武器を構えるのは得策ではないぞ。戦ってどうなるかを考えてみたのか?」

「………」

「別に甘言を囁こうというわけじゃない。俺としてはあんたと取引が出来ると考えているんだがね」

「……そちらの要求は?」

「調査だよ。この森のな」


 マリオは半分だけ正直に述べた。残りの半分は、口にすれば間違いなく協力を拒むだろう。


「最近森の様子が変だと噂になっていてね。ギルドから依頼を受けたんだ。それで調査している」

「……何の調査ですか?」

「ゴブリンやオークといった魔物の急増だ」

「……私達に出来ることがあるとは思えませんが」

「あるさ。あんた達エルフは森を住処にしている。話を聞いておくに越したことはないだろう。だが俺達だけで村に行っても追い返されるのが落ちだ。そこで協力を頼みたい」

「………」

「水と食料を分け与える代わりに村まで同行してくれ。そして村の長に話をつけて欲しい。それ以上は望まないよ」

「………」

「調査の為にここら一帯に網を張っていたんだ。あんた達を見つける事が出来たのはそれが理由だ」


 マリオは怪しむエルフに云った。これは本当だった。しかし云わなかった部分がある。網を張っていてオークから追われているのに気づき、遠見の魔法で様子を観察して利用出来そうだったから接触を図ったのだ。この二人は森の外から来た。故に現在の森の実情についての答えは持っていないと踏んで――

 もしエルフが適当な理由をでっち上げれば村までの護衛を申し出、対価を要求する。そしてそれすらも拒めば力づくになる。だがそうなる可能性は低い。エルフはともかく人間の方は明らかに場慣れしていない。エルフが少女の引率に少しでも責任を感じているのならこの条件を飲む筈である。


「ここは取引すべきだ!」


 人間の女の子がエルフに云う。


「襲う気ならとっくに襲ってる筈だぞ!」

「………」

「ターシャ!!」

「………」


 エルフの女性は何やら考え込んでいるようで、その様子を見たマリオはさらに言葉を重ねた。


「こっちはたったの四人だ。村相手に何かしようなんて無理だし、信用できないなら道中は俺達が前を歩こう」

「………」


 しばらくして、結論が出たのか、


「……いいでしょう」


 エルフの女性はそう答え、ゆっくりと弓を下げる。

 マリオは自身も構えていた盾を下げ、ほっと胸を撫で下ろした。エルフの女性が微かに浮かべた歪な笑みが気になったものの、余計な情報は与えていない筈だと首を振って振り払い、自己紹介をする。


「俺はマリオだ。傭兵団のリーダーをやって――」

「はいはーい。俺ヒック」


 ヒックが割り込み、女の子に近づいた。


「君の名前は?」

「マリーディアだ。よろしく頼む」

「おお! 可愛い名前だな! 君にピッタリだ!」


 右手を握手の形に差し出す。女の子がおずおずと手を差し出すと、それを握りながら、


「あっちにいる巨漢のハゲがビットリオ。君の盾役だ。そして隣にいる女性がジェイリン。彼女は君の代わりに襲われる役だな」

「誰がハゲだ、小僧」

「次云ったら蹴り潰すわよ」

「……ま、まぁ、この四人が傭兵団のメンバーだ。末永くよろしく頼むよ」

「う、うん」

「おい! 聞いたかビットリオ!! ついに俺に嫁が!!」

「ち、違う! よろしくするのは村までだ!!」


 マリオは仲間達が女の子と話している横で、自分はエルフの女性に話しかける。


「ターシャだったな。約束通り前を歩く。どっちに進めばいい?」

「こちらです」


 エルフが指差す方向を見、マリオは仲間を呼ぶ。


「お前達! 出発するぞ!」


 ビットリオに預けておいた荷物を拾い上げ、肩に背負うと歩き出した。

 ビットリオとジェイリンが無言で後をついてくる。マリオは二人と目を合わせ、ほんの僅かに顎を下げた。


「俺一番最後! んでもってマリーちゃんは俺の後ろを歩きなよ! そこが一番安全だぜ! あ、エルフの人は用心の為最後尾ね。いつオークが来るかわかんねえから!」


 ハハハと機嫌よく笑うヒック。苦笑しながらもマリーディアが云われた順に並ぶと、後ろを向いたまま歩き出し、一時も休まず話しかける。

 ヒックの視界の中に、マリーディアの後ろに並ぶ冷たい目をしたエルフが入った。


  


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