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放課後RPG  作者: グゴム
終章
91/100

91 突入

          挿絵(By みてみん)           

91


「準備出来たか?」

「……はい」

「いつでも」


 俺が声をかけると、戸松と大川がそれぞれ返事をした。


 ここはヴァルハラ宮殿の敷地内に広がる庭園エリアだ。周囲では、クラスメイト達が迫り来る天使達を食い止めている。


 すでにこの場所にも、天使共が次々と湧き出る魔法陣が大量に浮かび上がっていた。俺達は湧き出す天使共を排除しながら、庭園の中央辺りまで進み、そこで円形に広がって陣を作り出していた。


 そしてたった今、クラスメイトにより作られた陣の中心で、【界術】使いの戸松と【波術】使いの大川が、天使共が湧き出ている魔法陣を無力化カウンターする準備を整えた所だった。


「では、戸松さん。大川君。よろしくお願いします」


 王子の指示に、二人はコクリと頷く。戸松が自身の背よりも大きな両手杖を高々と掲げ、それに呼応して大川も両手を突き出す。


【界術】【デエンチャント】

【波術】【シンプリフィ】


 蒼の被膜が戸松を中心に現れる。それはしゃぼん膜の様に体積を拡大し、境界が球状に広がっていった。そして大川の【波術】【シンプリフィ】によって、さらにその速度を加速させていく。


 やがて、ヴァルハラ神殿が蒼の光に包まれる――同時にあらゆる場所に浮かび上がっていた魔法陣が、一瞬にして光を失った。


「成功した……かな」

「やった……!」


 魔術を使用した二人が声を上げた。喜んでハイタッチをする戸松と大川。これで、あの大量の天使達は抑えられる。



 俺達は残った天使共を殲滅した後、結界の中心で動けない戸松と大川の下に集まった。


「じゃあ七峰さん。この場の指揮はよろしくね」

「はい。任せてください」


 タクヤが声をかけると、七峰が返事をした。いつも通り、無表情のまま発せられた声。どうやら気負いは無さそうだ。


 この場に残って結界を守るのは、七峰と比治山の他には木原とくすのき、それに戸松と大川を合わせると計6人である。


 こいつらの中で戦闘向きなのは【飛行】を持つ比治山と【空術】使いの七峰くらい。戸松と大川は結界を張り続けなければならないし、残りの木原とくすのきの二人は、そもそもユニークスキルが戦闘向きではないからな。


 戦力的には少し不安もある。だがとりあえず見える範囲の天使共は殲滅したし、【デエンチャント】のお陰でこれ以上新しい天使が湧き出してくる事も無い。


 それに、指揮をとるのはこの七峰だ。


 七峰は他人を立てて自分は補佐に徹する事が多いが、本来はもっとリーダーシップを発揮できる奴だ。冷静に、客観的に、そして的確に判断できる秀才である。むしろ俺なんかより遥かに器が広い。比治山の奴もいるしこの場はうまくやるだろう。


「さあきはまかせたぜ。一橋!」

「一橋さん。お気をつけて」


 比治山と七峰が揃って声をかけてきた。見ると二人とも笑顔だった。いつもテンションが高い比治山は普通なのだが、七峰の笑顔というのはなかなかめずらしかった。


「あぁ。任せとけ」


 七峰たちに見送られながら、俺達突入組はヴァルハラ宮殿へと足を踏み入れた。



……



 最初に待ち構えていたのは、主神オーディンだった。ヴァルハラ宮殿に入って最初に突き当たるホールの中央で、銀髪銀髭の男神が、神槍グングニルを手に俺達の前に立ちはだかったのだ。


 その姿は最古の神という割には若々しく、伸ばした銀の髭がアンバランスに見えるほど、生気に溢れた精悍な体だった。地上ミズガルズで出会った語り部ディオンと、目の前の男はとても良く似ている。唯一つ違うのは、その瞳には光が無く、意思を感じられないという点だけだった。


「っは。いきなりオーディンかよ」

「と言う事は、俺達の出番だね。クアラ」

「……はい。タクヤさん」


 タクヤと仁保姫が進み出る。小さな体躯に似合わず、強力な戦闘用ユニークスキル【天賦の才・格闘】を持つ仁保姫は、短パンとシャツに銀の胸当て、そして両手にグローブを装着しただけという、簡素で動きやすそうな服装をしていた。


 よく見ると、仁保姫の小さな手が震えていた。これから始まる戦闘――劣化神の中でもっとも厄介な相手であるオーディンを前にして、気合が入りすぎているようだ。


 怖いほどに真剣な表情のまま、次々と自己強化バフを使用する仁保姫。馴れた様子で戦闘準備を整えるその姿は、最初の頃にシステムが分からず、何をするにしてもおろおろしていた頃と比べ、見違えるようだった。


「仁保姫。お前、変わったよな」

「えっ……なんですか。こんな時に」


 ぴりぴりとした雰囲気をまといながら、睨みつけられた。こぶしは堅く握りこみ、武者震いを力ずくで止めようとしているのがありありと分かる。


 仁保姫は、元から強かった。最初の戦闘――この世界で初めてモンスターから襲撃された時も、仁保姫は勇敢に、クラスメイトを守る為に戦ってくれた。本当にすごい奴だ。


 しかし魔術やステータスなどの、この世界特有の――ゲーム的なシステムには、最初苦戦していた。それが今はまったく苦にしていない。そりゃこの世界で、廃人ゲーマーのタクヤと行動を共にしていたのだから、ある程度当たり前なのだが。


 とにかく、もう初心者なんて呼べないな――


 仁保姫の耳元に近づき、小声で話しかける。


「褒めてるんだよ。いつの間にか、タクヤともうまくやったみたいだしな」

「はい……って!」


 仁保姫は、突然顔を真っ赤にして、あたふたと手を振った。


「本当に! なんなんですか、もう!」

「それだよ」

「えっ?」


 じたばたと、その小さな手足を振り回していた仁保姫がはっと気が付いた。


「緊張してたみたいだからな。まあ、そんなに気負うなって事だ。気楽にやれ。死ぬんじゃねーぞ」

「あっ……はい」


 仁保姫はしおらしく頷く。隣でやり取りを眺めていたタクヤが愉快そうにウインクをしてきた。


「お前もな、タクヤ」

「あはは。まあ任せといて。何とかしてみせるよ」


 そう言って、タクヤはいつもの様に笑った。この状況すらも楽しんでるような笑顔だった。



 今回の相手は、天界アースガルズの神々の中でも最強といわれるオーディンのレプリカだ。自動防御オートガードする光の衣に、強大なエネルギーを発する光の槍(グングニル)。そして『無限の魔力(インフィニティマナ)』――


 タクヤの狙いは【時術】による時間稼ぎだろう。あらゆる手段を用いて、ひたすらに時間稼ぎに徹する。そうしてどれだけ長時間、オーディンをこの場所に足止めできるか――この戦いはそういう戦いだ。


「じゃあクアラ。作戦通りに」

「はい」


 さらに数歩進み出てオーディンと対峙した二人は、タイミングを計る様にオーディンと睨み合った。





 ――ドン!


 その時、轟音と共に対峙するオーディンへ紫電の雷が降り注いだ。






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